JAXAでは、ワークシートに例示したように、数値シミュレーションデータ・実験データ・事務データ(Webコンテンツ、電子メール)と、幅広いデータが蓄積されている。ここでは、数値シミュレーションデータに絞ってシステム概要と特徴を述べるとともに現状の課題について考察する。
3.1.1.2.数値シミュレーションにおけるストレージシステム
計算サーバの高速化に伴い、大規模数値シミュレーションが行われるようになってきた。複雑形状の航空機全機まわりのナビエ・ストークス解析計算、乱流の直接シミュレーション、燃焼化学反応流の計算等がその例である。計算サーバはこれらの数値シミュレーションを現実的に処理できるまでにそのCPU性能が向上してきた。一方で、計算過程におけるI/O処理が数値シミュレーション全体のボトルネックとなっている。現有のJAXAスーパーコンピュータシステムでは、このI/O処理のボトルネックを解決できるシステム構築を行っている。図3-1にJAXAスーパーコンピュータシステムの概要をI/O処理を司るストレージシステムを中心に図示する。
図3-1:JAXAスーパーコンピュータシステムにおけるストレージ
JAXAスーパーコンピュータシステムは、NSVと呼ばれているが、ストレージシステム部を特に、CeMSSと呼んで区別している。CeMSSはデータセントリックという考え方に基づき、NSVのストレージシステムとして構成され、クロスバネットワークで直結されている計算サーバ(CeNSS)から、インターネット上に存在するクライアントまで広範なクライアントに対してストレージサービスを提供している。計算サーバのFORTRANプログラムから実効8Gbps、三次元可視化サーバ(CeViS)から4Gbps、構内ネットからNFSより数倍速い速度で、さらには、実験・開発的にインターネット上に存在するクライアントからアクセス可能なファイルシステムの構築を行っている。図3-1に示す"User Program"とある位置から測定したストレージシステムの性能評価の詳細については参考文献をご覧いただきたい。
ファイルの管理は、階層ストレージ管理(HSM)システムSAM-FSにより行っている。高速にアクセスできるストレージとしてRAID5ディスク装置が50TBあり、その後ろに600TBのテープ空間が一元的に管理されている。ディスク装置は大規模I/Oにチューニングされており、ストライプ技術により8Gbpsの実効性能を実現している。また、50TBのディスクから溢れ出してしまったファイルはHSMシステムにより600TBのテープ空間へ自動的に移動され、必要な時に自動的に取り出される。また、テープ装置の速度(非圧縮時ピーク性能120Mbps)がディスク装置の速度(実効性能約8Gbps)より遅いため、ディスク〜テープ間のデータ移動においては、テープドライブの速度がボトルネックにならないように、テープ媒体4個への同時書き込み処理(ストライプ)を行うことにより最大480MbpsのテープへのI/Oを行える機能を備えている。