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合同分科会 2011年度会合 レポート

分科会ページにプログラム,講演資料などを掲載しています。

Hisa Ando
 今年の合同分科会のテーマは「強い社会を創るICT」である。10月20日,21日の両日,このテーマの下に2件の基調講演と2件の特別講演,3件の分科会報告,それに加えて1件の富士通報告が行われた。

 最初の基調講演は,IIJ技術研究所顧問の和田英一氏である。和田氏は1958年の東京大学のパラメトロン計算機PC1の開発に参加されてプログラミングの楽しさを知り,それ以来,プログラミング分野の研究をけん引してこられた長老である。
 和田氏は80歳になられてもプログラミングを楽しんでおられ,自分で作られたエラストテネスの篩のプログラムや掛け算を行う学者猿コンサルというおもちゃ,PDP-8のメモリデータをグラフィックに示すプログラムなどについてデモを含めて説明された。自分でプログラムを書くと,新しい発見があり,解法への理解が深まる。このようにセルフデベロップメントは重要であるという講演であった。講演を行っている和田氏の楽しそうなお顔が印象的であった。
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<基調講演をされる和田氏>

 その他の講演は「京」に関する2件の発表を除くと,震災に関して強い社会を創るという線に沿った講演であった。

 筑波大学の佐藤聡氏の講演は,3/11の震災にあたっての筑波大の学術情報メディアセンターの対応を振り返るというものである。センターを含む筑波地区は地震後停電し,翌日に迫った入試の延期情報を流すためのシステムの立ち上げが急務であった。キャンパスには非常用発電機があったが,管轄が違い,センター側はその存在を事前には知らなかったなど,災害時の準備不足があったという。
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<佐藤氏スライドより>
 また,地震で水道管が破損し水漏れしている建屋があり,そこに電力を供給すると漏電の恐れがあるので,各建屋の配電盤で給電を止め,センターなどの必要箇所だけに給電する状態にするのに時間が掛った。
 また,緊急連絡システムは一斉同報メールを送ることになっていた。しかし,メールは全学計算機という大きなシステムで動作しており,非常用電源では電力不足で全学計算機を動かすことができず,メールが使えない状態になってしまった。
 筑波大は地震では大きな被害を受けなかったが,停電のために多くのトラブルが発生したということで,携帯電話対応のサイトの拡充や携帯電話各社の安否確認システムとの連携,Twitterの活用など色々な改善策を検討している。この事例は他の大学でも参考にして戴けると思われるので報告するという趣旨である。

 富山大学の林衛氏の講演は,今回の震災に伴って発生した原発事故の報道を比較分析したというものである。NHKの報道局は政府の発表をそのまま流したが,番組制作局は独自の動きをし,JCJ賞を受賞した「ネットワークで作る放射線地図」という番組を制作した。しかし,内部の反対で実際の放映は5月15日と当初の予定から40日あまり遅くなってしまったという。
 また,週刊誌各誌も大きく姿勢が異なり,週刊現代は危険を強調する最右翼で,週刊文春やサンデー毎日がそれに続く。一方,週刊ポストや週刊新潮は危険を煽らない政府よりの報道で,AERAや週刊朝日はその中間であったという。
 原発の状況,放射能汚染の分布,放射線の健康に与える影響などについては,報道各社は政府,東電の発表の理解に追われ,また,独自の見解を打ち出す能力も不足していた。その中で,NPOの原子力資料情報室や東工大の牧野淳一郎氏のブログなどのメディアは,政府発表とは異なる有益な情報を提供していた。
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<林氏スライドより>
 原発の危険や放射線の健康に対する影響にしても,正しい知識をもって判断できるようにすることが重要で,科学技術を一般市民に理解できるように伝えることが重要である。そのためには科学コミュニケータとしてのスキルの育成が重要という指摘であった。科学ジャーナリズムの端に連なる筆者としては共感できるとともに,一層の努力が必要と感じさせられる講演であった。

 奈良先端科学技術大学院大学の山口英氏の講演は,政府の情報セキュリティー関係の補佐官を務めておられるという立場からの豊富な知識をベースにした講演で迫力があった。東日本大震災での通信システムの途絶や地方自治体の情報処理システムとデータベースの消失などの状況を説明し,この機会をとらえて,地方自治体の情報処理を第三者(NTTデータなどのデータ処理業者や富士通,日立,NECなど)のクラウドサービスに置き換えることと国民の共通番号を推進すべきことを訴える講演であった。
 災害時には罹災証明を貰わないと復興のための支援が受けられないが,罹災証明を出すには住民台帳を始めとして色々なデータベースを参照する必要がある。地方の役場や法務局の出張所のデータベースが津波で失われると,その復旧には長い時間が掛りその間,罹災証明が出せないという事態になる。クラウドを使えば,このようなデータ消失リスクがほぼ無くなるし,これまでの実験では運用コストも8割削減という例もあり,5割以上の費用削減ができそうである。
 また,年金などの社会保障と税金などは個別の番号を使っており,データベース間で同一の個人であることを確認して罹災証明を出すなどという場合に手間が掛る。これに対して,こられの個別の番号間をリンクする共通番号を作れば,この問題は解決する。ただし,この情報を目的外使用して個人データの名寄せをしてしまうとプライバシーが侵害される恐れがある。政界では,目的外使用を監視する政府機関の設立は既定方針となったが,その規模や権限などを巡っては,まだ,官僚機構との綱引きが続いているという話であった。
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<山口氏スライドより>

 京都大学の清野純史氏は,人間の力学的な変形などの特性を測定し,人間もモデルに組み込んで,地震などの時の建物の崩壊と下敷きになった人間の人間被害を定量化してシミュレーションで求めるという研究についての講演を行った。また,新幹線が固定障害物に衝突した場合の速度と人間被害の関係を求めたり,明石の花火大会の際の歩道橋での人の動きをシミュレーションし,圧死事故の発生を示す結果を得たりした事例が報告された。
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<清野氏スライドより>
 このように人間被害が定量的にシミュレーションで求められるということは筆者にとっては驚きであった。この技術を利用すればより安全な環境が作れると期待される。

 岩手県立大学の柴田義孝氏は,東日本大震災で甚大な被害をうけた岩手県の海岸部の宮古市,田老町,大槌町などの9か所の拠点に対して災害情報インフラの仮復旧を行った時の報告と,災害時にも切れない情報ネットワークの構築について講演を行った。ガソリンをかき集め学生を動員して,大学のある盛岡市から海岸部まで100kmあまりを走り,無線ルーターやPC,そして回線が切れているところでは衛星インターネット通信機器を設置してインターネット通信環境を仮復旧した。この環境を使って役場では業務を行ったり,避難所では情報収集や,医療情報の伝達などを行ったりすることが可能となり,災害対応の大きな力となった。今回の災害の発生が年度末であったため予算が残っておらず,自費で復旧活動をされたとのことであり,その努力には頭が下がる。
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<柴田氏スライドより>
 災害時には固定電話やいわて情報ハイウェイや庁内LANなどは全てダウンし,これらの通信手段は極めて脆弱であることが判明した。このため,ソーラーパネルや風力発電などを使い自律的に給電し無線ネットワークを構成するコグニティブ無線ネットワークの構築を提案している。そして,移動中継車や繋留型の気球に搭載した中継器などを展開することにより災害時にも切れないネットワークを作ることができるという。

 「京」スーパーコンピュータ関係では,富士通研究所の久門耕一氏からプログラム開発環境とアプリケーションの開発を中心とする講演が行われた。アプリケーションに関しては理研の戦略5分野の話ではなく,富士通が進めている磁界シミュレーションによるモーターの効率改善,ナノシミュレーションによるシリコン結晶の成長過程の解析,粒子法による護岸壁の形状の最適化や津波のシミュレーション,心臓シミュレーションの例が報告された。
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<住元氏スライドより>
 Top500の1位は喜ばしいが,このような実アプリで成果を上げていくことが重要であり,日本の発展に寄与するシステムとしていきたいと講演を締めくくった。

 もう一件の「京」関係の講演は,センターの建物を設計した株式会社 日建設計の講演で,設計関係を五十君興氏,構造関係を朝川剛氏が説明した。建物は世界中の人が「京」を見に来るので,見せる・魅せるスパコンというデザインを考えたという。冷却は,CPU室直下に空調機械室を配置し冷却水と冷風の供給を行っているが,消費エネルギーを減らすことが重要であり,高断熱のガラスの採用,屋上や壁面の緑化などを行いPUE(総消費電力/サーバ消費電力)は1.3〜1.5となるという。
 「京」システムを守るシェルターという点では,センターの立地が軟弱な埋め立て地であるので,神戸市による20トン/m2の荷重に耐える地盤改良に加え,全長34mの不同沈下を防ぐ杭を打っている。そして,地震の揺れに対しては天然ゴムを積層した積層ゴムアイソレータで地振動が伝わるのを減らし,鉛ダンパーと鋼製ダンパーを通常の建物より多めに設置して振動エネルギーを吸収しているという。
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<五十君氏・朝川氏スライドより>
 津波に対してはどうかと質問したところ,埋め立て地は海抜6m強であり,それ以下の津波では浸水しない。それ以上の場合は,地下に位置する空調機械室1は浸水し,高さによっては上の階まで水が来るとのことであった。
 なお,神戸市のホームページによると東南海,南海地震で想定する津波の高さは満潮時でも2.5mである。また,今回の震災の経験から,神戸市は暫定的に2倍の5mを想定して津波対策を進めるとのことであり,センターの立地はこの想定もクリアしている。

以上

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