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固体地球プラットフォーム GeoFEM


  1. はじめに
  2. 固体地球プラットフォームとは
  3. システム全体の統合化技術
  4. GeoFEMにおける大規模シミュレーション技術:GeoFEMにおける並列計算、
    ベクトル計算
  5. マルチスケール解析のための
    連成解析技術
  6. 大規模可視化技術
  7. 研究成果の普及と海外研究協力
  8. おわりに
写真
(財)高度情報科学技術研究機構
計算科学技術第ニ部
飯塚 幹夫(発表者),中村 寿

東京大学 大学院工学系研究科
奥田 洋司, 矢川 元基

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1. はじめに

 地球温暖化、異常気象等の気候変動や集中豪雨・豪雪等の気象災害、また一方では地球規模のマントル対流運動からその地表への現れとしてのプレート運動に帰する日本列島域の地殻変形や局所的な地震・断層運動等の自然災害等、様々な地球変動現象の解明・予測は、国民生活の安全確保や人類社会の持続的発展のために重要かつ喫緊の課題である。

 地球変動現象は、その時間的・空間的スケールが大規模であること、また多様な物理的プロセスの連鎖・複合により生ずる複雑系の現象であるため、実験等によりそれらを再現することが不可能である場合が多く、その原因の解明と発生の予測には大規模かつ高精度なシミュレーションが不可欠である。最近、進展が著しい地球観測や地球変動プロセス研究等の成果を基に、こうしたシミュレーションを行うことにより、はじめて、自然現象全体をそのまま理解できるようになるとともに、社会的ニーズに応え得る定量的かつ精度の高い予測を実現することが可能となるものであり、これに対する社会からの期待が高まっている。

 このような期待に応えるため、振興調整費「高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェア開発に関する研究(平成10年度〜)」(中核機関:財団法人高度情報科学技術研究機構)のフレームワークのもと、地球変動現象の予測の実現を目指し、地球規模の複雑な諸現象を再現することが可能な大規模計算資源として文部科学省により開発が進められている地球シミュレータ等を活用して、大規模シミュレーションを行える高度な並列ソフトウェアを、地球科学と情報技術の研究者・技術者が連携して開発を進めている。これらの連携は、地球科学技術と情報科学技術の両分野をつなぐかけ橋として、新たなブレークスルーをもたらすものと期待されている。地球シミュレータ[1]は、地球環境問題の解決、自然災害に対する対策等への貢献を図るため、地球変動予測の実現を目指し、地球観測、地球変動プロセス研究及びシミュレーションを三位一体として、総合的・計画的に推進することとし、平成9年度より、5ヶ年計画で、地球の未来を映し出す「仮想地球」をコンピュータ上に再現することを目的に開発が進められている。

 振興調整費「高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェア開発に関する研究」では、図-1に示すように、大気・海洋分野に関しては、地球温暖化、エルニーニョ等の地球規模の長期的な気候変動、また集中豪雨・豪雪・竜巻等の領域や局域における気象災害、さらに黒潮蛇行や海洋汚染に深く関係する日本近海沿岸の海洋挙動等に関して、地球観測データを統合的に利用しつつ、全地球規模から領域さらに局域までにわたる大気・海洋変動の諸現象を連関的にシミュレーションする高度な並列ソフトウェアの開発が進められている。固体地球分野では、種々の要因が複雑に絡み合った固体地球システムの変動現象、例えば、地球内部の熱的非平衡状態から派生するマントルやコア内部の対流運動、また相対運動するプレート同士の相互作用の結果として理解される地震、火山活動や造山運動などの地殻活動現象について、定量的予測の実現を目指し、超高速並列計算機等を基盤として、膨大な観測データと複雑な理論モデルの計算の併合を可能とする高度な並列ソフトウエアシステムの開発が進められている。一方、情報技術分野では、高精度の地球変動予測の大規模シミュレーションを実現するため、地球科学者と情報技術者が融合的に協力をしつつ、各研究機関が保有する大気、海洋および固体地球の様々な個別現象モデルに関する並列プログラムを準備する。これを通じて、個別現象モデルの並列プログラムへの適性および大規模シミュレーションの可能性を把握するとともに、各個別現象モデルをシステム的に組み合わせて大規模シミュレーションを行えるプラットフォームの研究開発が実施されている。


図-1 高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェア開発
(科学技術振興調整費 総合研究 平成10年度〜5年間)

 GeoFEM[2]〜[5]は、上記固体地球に関わるマルチフィジクス/マルチスケールな諸問題を、地球シミュレータ等の超並列計算機をプラットフォームとして解析する高度な並列ソフトウェアシステムである。GeoFEMにおいては、プラットフォームを通して、超並列計算機を容易にかつその性能を有効に利用できるような工夫がなされている。本報告では、このような観点に注目し、GeoFEMの概要について説明する。


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