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2.固体地球プラットフォームとは

 固体地球システムは、図-2に示すような、広い時空間スケールに渡る多様な物理現象が連成する大規模で複雑なシステムである。近年まで、各スケール・各モデルは個別の研究者・研究グループにより独立に研究されてきていた。一方、現象の複雑性から物理シミュレーションモデルの発展が困難であった分野であるが、近年、断層の破壊モデル等の物理モデル研究の急速な進展により、計算機シミュレーションによる研究が急速に発展しており、地球全体を1つのシステムとして取り扱わなければ、固体地球科学の進歩はあり得ないという認識が広がりつつある。したがって、固体地球科学分野では、多様な物理要素モデルとその連成シュミュレーションが急速に重要となっている。具体的には、地球規模のマントル・コア対流運動、その地表への現れとしてのプレート運動に起因する日本列島域の地殻変動や局地的な断層運動、それらの連成現象を解析対象とする。

 固体地球分野ではまだ確定していないモデルも多くあり、様々なモデルを試行錯誤的に取り入れてシミュレーションを行う必要がある。


図-2 固体地球現象とシミュレーションプラットフォーム

 これらのシミュレーションの中には、1つの現象だけでも地球シミュレータ相当、またはそれ以上の演算能力を必要としているものもあり、並列化により超並列計算機を利用することは必須である。また、固体地球の要素モデルで使用されている解析手法は有限要素法、差分法等多様である。それらの要素モデルや解析手法を、個別に並列化するためには多大な労力を要する。さらに、これらのシミュレーションには、GPSデータ、トモグラフィーデータのように、近年の観測技術の進歩により爆発的に増加する膨大な量の観測データが利用される。また、大規模な解析からはTeraバイト級の膨大な量の解析結果データが生成される。 

 このような、大規模なデータを扱い、大規模・複雑解析を可能とするシミュレーションシステムを構築するために、GeoFEMでは、超並列計算機を容易に、効率的に扱える並列I/O・並列線形ソルバーサブシステム・並列可視化サブシステムを、また様々なモデルを試行錯誤的に取り入れ連成させるための、プラグインインターフェース・カップラーを、1つのプラットフォームすなわち、固体地球プラットフォームに統合している。GeoFEMでは、固体地球プラットオームを通して固体地球科学研究者が研究開発する多様なモデルを、また地球シミュレータ等の多様な超並列計算機を扱うようになっている。

 上記のように、固体地球の要素モデルでは多様な解析手法が用いられているが、有限要素法は、

  • 複雑形状の取り扱いに適している
  • 局所的な処理が中心のため並列化が容易である
  • 複雑な構成式,物理モデルなどの適用が容易である

などの特徴を有しているため、第1ステップとして並列有限要素法を対象に大規模シミュレーションプラットフォームの研究開発を実施し、次にその拡張として他の解析手法を対象とした研究開発を実施すれば効率的である。したがって、GeoFEMにおいては、まず並列有限要素法プラットフォームの構築を優先的に行なってきた。本報告では、主に並列有限要素法プラットフォームに関して述べる。以上のような状況を考慮し、多様な要素モデルによる大規模計算の必要性に応えるため、下記のような機能を持つ並列有限要素法プラットフォームGeoFEMを開発してきている。(以下、GeoFEMとは、並列有限要素法プラットフォームのことである。)

  • 固体地球システムで必要とされている多様な要素モデルが容易に組み込みでき(プラグイン可能)かつ容易に並列化(Plug & Parallel Play)される
  • それらモデルの並列連成を容易に実施(Plug & Parallel Coupling)できる
  • 基盤機能として構造、熱流体の大規模並列有限要素法解析が可能
  • その基盤機能の拡張として、有限要素法以外の手法の大規模解析が可能
  • 大規模な解析結果データを並列計算機上で高速可視化処理し、かつその大規模可視化データを簡単化してデータ量を削減しWS等の端末にて可視化結果を見ることを可能とする
  • 地球シミュレータの分散型並列ベクトルアーキテクチャへ適応する

GeoFEMは、多目的の汎用的な並列有限要素コードを目指したGeoFEM/Tiger(1997〜1998)と固体地球の解析を目指したGeoFEM/Snake(1999〜2001)の2つのフェーズで開発されてきている。次にそれらプラットフォームの要素技術を説明する。これらの説明は、Tigerの成果と現在進行中のSnakeの開発にもとづくものである。


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