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6.現在の争点−経営−

6.1 大学の営利部門の失敗

6.2 コストの研究

     e-Learningには、一方で、営利大学の例にみられるような収益を上げる側面が強調され、他方で、コスト開発費用がかかることが問題とされ、光を当てる側面によって見せる姿が異なっている。果たして、コースのコスト・ベネフィットはどの程度かが研究の課題になりつつあり、ケース・スタディを蓄積が始まっている。それらをみると、ベネフィットを上回るコストがかかっているというわけでもなく、ベネフィットがあるといっても履修学生数との相関があったりと、一概に決めることはできないものの、既存の大学がe-Learningを実施する場合、大きな収益をあげるという結果は得られていない19
     また、何をコストに含めて計算するのかによっても異なってくる。たとえば、既に大学にある機器のインフラの利用や、すでに大学に配置されているスペシャリストの人件費を計算に入れない場合と、一からe-Learningを始めると考えて、そうしたコストすべてを含んで計算する場合とでは、大きく違うことはいうまでもない。
     損が出ることを覚悟で実施するか、あるいは、大学全体で損が出なければよしとして実施するか、高等教育機関の管理運営層は経営判断を求められるのである。

6.3 政府の課題

     こうした判断の必要性は、大学の管理運営層を超えて、政府関係者の間でも議論となっている。とくに、州政府によって維持されている州立大学の場合、州の財政が必ずしも好調でないうえに、IT関連の支出は年々増大しており、そのバランスをどこでとるのかは重要な課題となっている。西部15州が共同して作成したPolicy in Transitionという報告書20では、今後の高等教育政策として議論すべき課題の1つにITの問題があげられている。ここでの論点は、州としては増大する有職成人の教育需要に応じて、教育機会の拡大という点からe-Learningを推進することが求められる一方で、財政的な観点からそれをどこまで負担できるかという点にある。
     連邦政府は直接に高等教育機関をコントロールするわけではないため、間接的なかかわりには過ぎないが、近年の教育費の低減にもかかわらず、IT関連のプログラムの支出は増大している実態に、今後どのように対応していくかを議論する必要性が提言され、それはThe power of the Internetという報告書として取りまとめられている。
     遠隔教育といえば、これまで廉価な教育であったため、教育機会の拡大という理念と拡大にかかるコストという現実とが対立軸になることはなかったといってよい。高価な教育であるe-Learningは、教育理念と経営の現実のジレンマを生み出し、公共政策の課題となったのである。


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