こうした判断の必要性は、大学の管理運営層を超えて、政府関係者の間でも議論となっている。とくに、州政府によって維持されている州立大学の場合、州の財政が必ずしも好調でないうえに、IT関連の支出は年々増大しており、そのバランスをどこでとるのかは重要な課題となっている。西部15州が共同して作成したPolicy in Transitionという報告書20では、今後の高等教育政策として議論すべき課題の1つにITの問題があげられている。ここでの論点は、州としては増大する有職成人の教育需要に応じて、教育機会の拡大という点からe-Learningを推進することが求められる一方で、財政的な観点からそれをどこまで負担できるかという点にある。
連邦政府は直接に高等教育機関をコントロールするわけではないため、間接的なかかわりには過ぎないが、近年の教育費の低減にもかかわらず、IT関連のプログラムの支出は増大している実態に、今後どのように対応していくかを議論する必要性が提言され、それはThe power of the Internetという報告書として取りまとめられている。
遠隔教育といえば、これまで廉価な教育であったため、教育機会の拡大という理念と拡大にかかるコストという現実とが対立軸になることはなかったといってよい。高価な教育であるe-Learningは、教育理念と経営の現実のジレンマを生み出し、公共政策の課題となったのである。