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5.現在の争点−教育− 5.1 教育の質 e-Learningの急速な拡大が、高等教育システムの周辺部である営利大学や、高等教育とはあまり関わりのなかった企業によって担われていることは、高等教育関係者にとっては脅威であり、e-Learningをめぐる議論も様々に展開されている。それらの議論は大きくわけて、教育と経営の2側面にまとめることができる。教育という観点でみたとき、まず問題になるのは、ディプロマ・ミルやディグリー・ミルといわれる学位製造販売業者がe-Learningの特性を利用して横行するようになったことである。インターネットのウェッブ・サイトに掲載された情報の真偽のほどを見極めることは容易ではない上、その業者の存在を把握することも困難である。いかに取り締まるか、いたちごっこが続くのである11。 悪徳業者の排除は当然のこととして、正規の機関から提供される教育の質をいかに確保するかという問題は、全米の高等教育機関に関わる大きな問題である。アメリカの高等教育の教育の質の維持には、アクレディテーション団体による評価がその役割を果たしているが、全米を6地域に分け、8つの地区アクレディテーション団体が、地区内の高等教育機関の評価を行ってきた。e-Learningに関しても、従来の対面教育と異なる新たな基準を設けるべきだといわれるようになり、アクレディテーション団体はそれに取り組むことになった。ただ、e-Learningは地域の範囲を超えて瞬時に世界へ提供されるという特性をもつため、8つの地区アクレディテーションが共同して、共通のガイドライン12を設けたことを特筆すべきだろう13。 e-Learningの教育の質を高めるには、どのようにしたらよいのか、あるいは、どのようなe-Learningのコースであれば質が高いということができるのか、という質の問題は、研究の領域でも検討された。そのさきがけとなったのは、QUALITYON THE LINEという調査報告書14であり、これはe-Learningのベンチマークを錫証的に析出した研究として注目された。調査結果によれば、もっとも評点の高いベンチマークは、学生の学習過程における教員と学生の相互作用、学生間の相互作用であった。具体的にいえば、教員は学生からの質問に対して適切かつ迅速に回答し、学生から提出された課題に対して建設的なフィードバックをすることが求められ、また、学生の間でディスカッションが進むような仕組みを取り入れることが重要になるのである。学習過程における相互作用を促進するための支援体制がe-Learningの質を決めることになるといってよいだろう。 5.2 教育の効果 それとともに、e-Learningが教育上の効果をあげるのか否かに関しても、研究上の議論が始まっている。もっとも広く行われているのが、遠隔教育における学生の達成度を対面教育のそれと比較する方法であり、e-Learningに限らず、郵便や放送を利用した遠隔教育を含めて広く過去の研究を整理したウェッブ・サイトが有名である15。No Significant Difference Phenomenonというそのサイトからは、遠隔教育は対面教育に対して有意に劣るものではないという1920年代からの約350の研究結果が蓄積されており、e-Learningの有効性が示されているが、他方で、これまでの遠隔教育の効果に関する研究が、個々のコースを個別に検討するものであって、教育プログラムを総体としてみていなこと、遠隔教育は中退率が高いにも関わらず、最終的に到達したものの到達度を測定していること、学生の属性による差異の検討がなされていないことなどを問題として指摘する報告書もあり16、教育効果を測定することが容易ではないことを教えてくれる。 また、教育効果を達成度に特化して追求していくと、学習のプロセスはどのようなものであっても、最終的にある段階に達成すればよしとすることにもなりかねない。従来から、有職成人が多い遠隔教育においては、職業経験を単位に換算したり、試験に合格することで単位が発行されたりという仕組みが取り入れられてきたが、e-Learningにおいてもそれは同様である。Competency-based assessmentといわれるこうした評価方式は、学生が示した能力を教育機関が評価するというものであり、その能力がどこで獲得されたかは問わない。これを突き詰めていけば、教育が不在であっても高等教育機関は成り立つわけである17。 教育効果をどのようなものと定義するのか、学習のどの段階を評価するのか、さらなる研究が必要とされている。
5.1 教育の質
5.2 教育の効果