4.e-Learning普及の供給側の要因
4.1 営利大学の伸張
こうした需要を受け止める供給側の要因としては、半数以上の大学がe-Learningのコースをもっているという状況にみられるように、高等教育が全体としてe-Learningへ進出していることを、まず挙げねばならない。だが、とりわけ、営利大学がe-Learningに積極的であることが、大きな特徴である。営利大学とは、きわめて単純化していえば企業が経営する大学であるが、その数を学位授与機関に限定してみても、96年の638機関から、2000年には804機関まで増加している6。これは、全高等教育機関の18.9%にあたり、アメリカの高等教育システムの一翼を担う存在となっていることがわかる。
営利大学が、なぜe-Learningに積極的かといえば、これまで、多くの営利大学は有職成人を対象にした職業教育・訓練に特化した大学であり、遠隔教育という手法にもなじみがあったからである。さらにえいば、職業教育・訓練が中心であれば、比較的容易に学習の到達目標を設定し、それに向かって段階的な教育・学習内容を編成できるという点も、自学自習を基本とするe-Learningに適性があったということになろう。そして、何よりも、営利の追求にみあうだけの利益がe-Learningにはあったことが、営利大学の参入を招いたのである。
フェニックス大学、デブライ工科大学など、古参の営利大学がe-Learningで大きな収益をあげていることは、1993年のジョンズ・インターナショナル大学、カペラ大学(1997年まではアメリカ大学院)が、e-Learningだけで教育を行う機関として設立され、1999年にはコンコード法律大学院という、e-Learningによる法律大学院がテスト会社のカプランによって設立されるなどの事例にみられるように、1990年代中後期に続々とe-Learningだけで学位取得可能な営利大学の設立を促すことになったのである7。
4.2 e-Learningコース制作関連企業の参入
e-Learningを実施するにあたっては、インフラやコンテンツの整備が必至であるが、この点については、各種の企業がそれを請け負っているのがアメリカの実態である。たとえば、e-Learningのコース作成にあたっては、まず、コース・マネジメント・システムが必要だが、アメリカの高等教育機関ではWebCT、BlackBoard,、TopClass、LearningSpaceなど、汎用性の高いシステムが開発されており、とくにWebCTは北米で50%以上のシェアを占めている。こうしたものを利用して、コース内容の提供を行うとともに、学習の管理も一括して行うのである。
次に、e-Learningコンテンツの作成段階においては、出版関連企業が関わってくる。PearsonやThomsonに代表される出版社は、書籍の出版だけでなくメディア・コングロマリットとして多様な事業を展開しているが、その充分な資金力をバックに、書籍出版のノウハウをe-Learningに活かして大学との提携が盛んに行われている8。
コンテンツの作成に関しては、図書の電子化も欠かせない。eブックやeジャーナルへのリンクが張られていれば、必要な文献を即時に入手できる。これに関しては、大学の図書館も徐々に電子化を進めているが、やはり、企業の攻勢は早い。たとえば、Net LibraryやQuestiaは設立されて3年ほどの新興の企業であるが、デジタル化した書籍や学術雑誌を大学の図書館や学生に販売している9。
さらに、コンテンツを作成するにあたっては、著作権処理の問題が共通の悩みの種であるが、それもCopyright Clearing Centerへアクセスすることによって比較的容易に処理が可能なシステムが構築されている。
なぜ、多くの高等教育機関がe-Learningのコースを作成するのかといえば、1つには、在学者以外の潜在的な学生を掘り起こし、マーケットを拡大したいという理由があるからである。そのためには、e-Learningのコースの存在をより多くに認知してもらうことが必要だが、機関のウェッブ・サイトだけでは充分な広告にはならない場合が多い。そこで、登場するのが、MindEdgeやTeleCampusなどのポータル・サイトである。また、e-Learningを受講したいと考えている者も、ポータル・サイトをみることでどの機関がどのようなコースを提供しているのか比較検討が可能になる。
これらを個別の機関が独力で処理するには、膨大な時間も労力も費用もかかるわけであり、その部分をビジネス・チャンスと捉える企業があってはじめて、e-Learningが進むのである。
4.3 メディア・スペシャリストの存在
もう1つ忘れてはならないのは、e-Learningのコンテンツを作成するのに、コース・マネジメント・システムなどを利用したとしても、技術や教授デザインに関してよほど長けた教員でないと、1人でe-Learningコースを作成することは困難である。通常は、インストラクショナル・デザイナーをはじめとするスペシャリストと教員とがチームを編成して、コースの作成にあたる。インストラクショナル・デザイナーのほかに、グラフィック・デザイナー、メディア・エディター、著作権の専門家、司書、コンピュータ技術の専門家など多数のスペシャリストが関わるが、これらの人々は、教員とも事務職員とも異なるスペシャリストとして、高等教育機関のメディア・センターなどにポジションをもっている。
教員は、コースの内容に関する知的な資源を提供し、それを効果的にウェッブに配置していくのがスペシャリストの役割なのである。
ただ、すべての機関がこれらのスペシャリストを抱えられるわけではなく、その場合には、コースを作成する企業に委託する方法もありうる。たとえば、Edupriseという、高等教育機関や企業のe-Learningコースの作成を行う企業があるが、ここではコースの開発に加えて、教員の訓練やコース配信時のテクニカル・サポート、果ては、機関全体のe-Learningのコンサルティングや将来計画の策定までをも請け負うのである。
従来の高等教育機関には存在しなかった、これらのメディア・スペシャリストという人材はアメリカでも払底しており、売り手市場だといわれる。そして、近年では、e-Learningを利用してこうした人材の養成を手がけようとしている修士レベルのプログラムも登場している10。