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スーパーコンピューティングを支える大規模データマネージメント


  1. はじめに
  2. 光量子シミュレーション
  3. 大規模シミュレーション
  4. 大規模データマネージメント
  5. 広域機能分散コンピューティング
  6. おわりに
写真
日本原子力研究所 関西研究所
光量子科学研究センター(兼)計算科学技術推進センター
上島 豊

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1. はじめに

 Chirped Pulse Amplification (CPA) [1]という最新のレーザー技術により、パルス長が10フェムト秒(f seconds=10-15s)程度でパワーが100テラワット(T watto=1012 W)を越える極短パルス超高強度レーザーが出現し、従来、地球上では得られなかったような極限状態が実験室環境で実現できるようになった。このレーザーの短パルス性と高強度性について以下いくつかの比較を行う。まず、パルス長が10fsという時間は、光が3μmしか進めない程短い時間であり、室温での固体中の原子運動(振動)周期より短く、原子の運動を止めるフラッシュのような働きができる。また、レーザーパワー100TWという大きさは、地球上で使用されている総エネルギーの10倍、別の言い方をすると東京都の全地表面(2183km2)に降り注ぐ太陽光エネルギーに匹敵するものである。このレーザーを集光して得られる光の強度は、実に太陽光の1020倍にも達する。光の電磁界や圧力等は、普段ほとんど意識されないが、これほど強い光になるとそれらも桁違いで、もはや地球上で得られるどんなものよりもはるかに大きな値になる。例えば、レーザーの磁場の強度は0.1TGauss以上となり、磁気閉じ込め核融合の磁石の100万倍以上の強度であり、遠く宇宙の神秘のパルサー等のものにも匹敵する。圧力に関しても、地球の中心圧力の1000倍以上、つまり太陽中心圧力にも達する非常に強大なものになる。


図1 極短パルス超高強度レーザーの説明図

 日本原子力研究所関西研究所光量子科学研究センターでは、上記で述べたような極短パルス超高強度レーザーを物質に照射することによって、高密度集積半導体や新薬開発等の産業に大きな影響を与えるX,γ線レーザー、癌治療の旗手として高密度高エネルギーイオン加速器の開発を目標としている。さらに、照射自体によって生じる極限状況を制御し詳しく解析することで天文学、高エネルギー科学等の基礎科学の発展にも大きく寄与することが期待されている。
本報告では、上記に描画されたような極短パルス超高強度レーザーと物質との様々な相互作用を研究テーマとして取り扱う光量子科学研究と、そこで使われる大規模シミュレーションの現状と将来について論じる。


図2 光量子科学における光量子・物質相互作用の様々な物理現象の模式図


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