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システム技術分科会 2015年度第1回会合 分科会レポート

矢羽田優輝(福岡大学)

 サイエンティフィック・システム研究会(通称:SS研)のシステム技術分科会2015年度第1回会合が、2015年9月1日に汐留にある富士通本社のユーザコミュニティサロンにおいて開催された。本会合は”クラウド利用 現在、過去、未来 〜今後の大学等でのクラウド利用はどうあるべきか〜”をテーマに、組織におけるクラウドの利用のあり方として学内のシステムのクラウド化を先駆けて挑戦した教授らからクラウド情報基盤の行方、アカデミックからインタークラウドへ、パブリッククラウドの活用事例、パネルディスカッションなどの充実した講演で構成されている。はじめに九州大学の岡村耕二氏による会のあいさつに続き、計3件の発表とパネルディスカッションが行われた。

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 最初の発表は「大学のクラウド情報基盤の行方 −6年間の運用を経て、その成果と課題−」と題する静岡大学の長谷川孝博氏の講演である。

    
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 静岡大学では2010年に大学の人事・財務システムをはじめ学術関連をすべてクラウドベースにした情報基盤を構築し、その後の2013年に行われた全学情報基盤整備において、認証一元化を見据えたクラウド情報基盤の強化整備を行った。安定期を迎えたクラウド情報基盤の上で構築を進めてきた統合認証基盤について、2011年頃より急ピッチに進められ、今日の主要な情報システムの認証統合化に至っている。
 その静岡大学が挙げるクラウド化の利点は大きく3つに分けられる。1つ目は「節電効果が大きい」ということだ。消費電力が12000名程度の静岡大学2キャンパスで4500kWに収まっている。2つ目に「多くのクラウドサービスを提供できる」ということだ。大学を運営する上で必要な人事・財務系システムをはじめ教育・研究関連など30数個のサービスを400台以上のセッションで動かしているとのことだ。サービス利用者に対してアンケートを取ったところ概ね満足との意見を得ることができ、好評と言える。最後に「サーバ室にサーバを置かなくていい」ということだ。主要なシステムは既にクラウド化しているため物理的なサーバを学内に抱える必要は無くなり、最終的に基幹サーバ室の中は学内全棟への光ネットワークケーブルを集約するラックのみとなったとのことだ(スライド参照:オンプレミス時代の巨大な蓄電池とネットワークスイッチだけになったキャンパスの(サーバ室改め)通信室)。
 結果として、学内の情報基盤をクラウド化は情報基盤運営に良い効果を与えている。また統合認証基盤との融合で利用者満足度は今後も向上していくもと予想している。利用者満足度の維持向上のためにISMS&ITSMS統合マネジメントシステムの役割もますます重要となっている。


 2件目の発表は「北海道大学アカデミッククラウドからハイパフォーマンスインタークラウドへ」と題する北海道大学の棟朝雅晴氏の講演である。

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棟朝 雅晴(北海道大学)
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 北海道大学において2011年より国内最大規模の学術クラウドシステムである「北海道大学アカデミッククラウド」を運用し、全国の研究者に対してクラウドシステム・サービスを提供している。その学術クラウドシステムは43.8T Flopsにも及ぶスーパーコンピュータ並みの性能を持っており、計算資源の仮想化だけでなくクラウドミドルウェアCloudStackを導入することで、本格的なIaaS(Infrastructure as a Service)の利用者毎の資源管理を提供している。
 タイトルにあるインタークラウドとは、インターネットのような「ネットワークを相互接続することでインフラを構築」するように「クラウドを相互接続することで広域分散クラウドインフラを構築」することだ。北海道大学では全国規模でのインタークラウドの実用化に向けた研究を推進している。その中でインタークラウドのための認証連携として、北海道大学と北見工業大学間でクラウド連携を試みた。VPC(Virtual Private Cloud)をインタークラウド上に構築する検証実験や、Web3層システムをインタークラウド上に最適配置するための多目的最適化フレームワークなどの研究が進められている。その結果としてインタークラウド実現に向けて、相互に繋がるクラウドを管理する「マルチクラウド管理ソフトウェア・サービス」の拡充をはじめ、認証基盤としての認証連携、学内だけでなく企業を含めた多組織にまたがる相互運用性を確保する仕組み、インタークラウドにおける「オープンマーケット」の実現にむけたルールの整備などが必要とのことだ。
 今後の展望としてはネットワークが相互につながって構築された「インターネット」と同様にクラウドも「インタークラウド」化していくことが考えられる。その中でクラウドサービスやビッグデータを組み合わせることによるイノベーションを加速させていくことになる、とのことである。


 3件目の発表は「広島大学におけるパブリッククラウド活用事例  −クラウド化がもたらす本当の効果−」と題する広島大学の相原玲二氏による講演だ。

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相原 玲二(広島大学)
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 今日、国立大学における情報基盤を整備する予算がつかなくなってきているようだ。法人化後は経費の使い方が自由になったが油断すると削られるのが現状とのことだ。その中でセキュリティ対策やBCP(事業継続計画)、災害時にも対応出来なければならないという要求が出ている。そのような背景から広島大学では2014年以降、財務会計システムをはじめ人事給与システム、公式ウェブサイト、事務用メールシステム、全構成員用メールシステムなどの基幹情報システムを順次パブリッククラウドへ移行し、更に2015年9月より稼働する教育研究用システムにもパブリッククラウドを利用しているとのことだ。広島大学では既に複数のアプリケーションを1つの部署が窓口となって導入しており、多くのアプリケーションがオンプレミスの仮想サーバ上で稼働していた。そのためIaaSのパブリッククラウドへの移行は、これまでの業者との契約形態と比較してほとんど変化がなかったと言える。
 次にパブリッククラウド移行後に見られた変化として堅牢性や柔軟性、総合的な安全性が確保できたことが説明された。前述のガイドラインからオンプレミスの問題点が浮き彫りになったとのことだ。さらにパブリッククラウドを導入したことによって、ハードウェア更新等の心配は不要になり、基本的なバックアップ機能を具備できている。まとめとしては、プライベートクラウドを構築するよりもパブリッククラウドを利用することで経費の増加や管理コストを考える必要が無くなり、経費の削減や総合的な安全性が確保できたとのことだ。ただ、パブリッククラウドはサービス内容が頻繁に変更されるため、課題として、策定したばかりのガイドラインを毎年見なおさなければならない状況になっているという話だ。

 最後に「今後の大学等でのクラウド利用はどうあるべきか?」と題するパネルディスカッションだ。ここでは福岡大学の藤村丞氏をコーディネータに、これまでの登壇者3名に加え、国立情報学研究所の高倉弘喜氏をパネリストに迎えてアツい議論が行われた。

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藤村 丞(福岡大学)
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 お題としては「クラウドサービス利用・提供している理由は?」、「クラウドサービスを利用・提供するにあたり事前に準備しておく必要があることは?」、「クラウドに向く分野向かない分野は?」、「クラウドサービスを利用・提供するにあたりセキュリティに関する不安や要望は?」、「今後大学でのクラウド利用・提供はどうあるべきか」の5つが用意されており、アカデミック視点でのクラウドや技術的視点でのクラウドについての内容となっている。パネルディスカッションとしてはパネリストと聴講者の間で誤魔化し無し・ここだけの話・ホンネで語り合うコーナーとなっており、録音などの記録を一切行っていない。そのため詳細をここに残すことはできないが、クラウド導入のための準備についての話をはじめ、クラウドにおけるセキュリティについて笑いあり・涙ありでの活発に議論されたことを記す。


以上

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