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4.現実空間の中のコンピュータ

     コンピュータは、知的世界の行為と思われていますが、道筋をたどるブッシュの思考をたどっているうちに、デジタルな空間だけに閉じてしまっていいのかなと思い始めました。
     コンピュータの世界でも、このところオグメンテッド・リアリティということを言われています。いわゆるバーチャル・リアリティは、バーチャルの世界にすっぽり入ってしまうわけですが、そうではなく、現実の世界にバーチャルな世界をオーバラップさせて情報をあつかう考え方で、複合現実とも呼ばれていますが、ブッシュの考えを知っていたので、コンピュータの中で収まっていたサイバー世界が閉じたものではなくなってきたことに興味を持っています。
     例えば、本棚の前を歩いていくと、本棚からバッと本についての情報が出てくる。オグメンテッド・リアリティの研究をしているソニーコンピュータサイエンス研究所の暦本純一さんにお話をうかがう機会があったのですが、動きながら情報を集めることが非常に重要だと言われていました。
     この話はじつによく分かる話でした。ヴァニーヴァー・ブッシュは、道筋を辿ることを知的なマシンだけでなく、生物の活動としても考えていたわけで、デジタル技術についてもそうした発想が必要だということだと思います。一方では、GPSなどの技術によって位置情報が手に入り、身体的な活動をデジタルに把握することができるようになってきたわけですから、こうした流れは自然なものだと思いますし、どんどんヴァニーヴァー・ブッシュの世界に近づいているともいえます。
     ユビキュタスコンピュータのコンセプトを考えたのはマーク・ワイザーという人ですが、狩人は森の中を散歩しているときにものすごい情報を得ていると彼は言う。コンピュータ技術も、散歩をしているときに得られる情報と同じように自然な形で情報を得られるようにならなければならないと言っていますが、知的活動を現実空間の中で展開することがますます大事になってきました。

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