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8.GRIDを普及させるアプリケーション

    【森田】
     またしてもWebとの類推で恐縮ですけれども、なぜWebがこんなに爆発的に普及したか考える上で、MOSAICというアプリケーションの存在が非常に大きかったと思うのです。それが何を意味しているかというと、Webは、ある意味、非常に抽象的な概念です。MOSAICが世の中に出る以前に、このWebが立ち上がらなかったのは、Webの考え方自身は良かったにせよ、普通の人にとってみて、使えるような環境が無かったのではないかと思います。このMOSAICというフリーで使えるソフトウェアを使った瞬間に皆が、「これがWebか」と分かるようになる。このようなアプリケーションが登場してきたことというのは非常に大きかったと思うのです。今、GRIDも実は似たような状況にあるのではないかと思います。ミドルウェアを定義していく、そこの標準化は非常に大事です。しかし、教育の環境であるだとか、ビジネスの環境であるだとか、そのようなところで、普通の人が使うためには、やっぱりアプリケーションが必要であると思うのです。MOSAICのようなアプリケーションが立ち上がる土壌があるのか、普通の人が使ってみて、これがGRIDだと一発で理解できるようなニーズとは一体何なのだろうか、実はこれがよく分かっていないのです。我々高エネルギーの業界では、それ(GRID)は必要なものだから使うという認識にいます。普通の人たちに理解できるようなアプリケーションという形をとることが大きなカギではないかと思います。どなたか答えをお持ちでしたら、是非お教え願いたいと思います。

    【松澤】
     是非、フロアの方で、お願いしたいと思います。

    【神沼】
     ユーザの立場から言うと、アプリケーションをどのように作っていくかということよりも、いろいろなアプリケーションがあって、ユーザがその中から選んだアプリケーションを使っていきたいという要望があるわけです。そのアプリケーションの使い方の違いを上手くミドルウェアの方で吸収してくれたらいいなと私は思っているのですけれども、可能でしょうか。

    【関口】
     可能だと思いますとしか申しあげられないのです。
     キラーアプリというのは、いつも議論になり、なかなか明言できないのですが、例えば、アプリケーションは、高エネルギーであれ、天文であれ、地球観測であれ、様々なところで、非常にハイソな、非常にアカデミックフレームの高いところで考えられ、強いアプリケーションがどうしても先行してしまうのです。それは文部科学省的にはいいのでしょうけれども、経済産業省的には、そのようなものはビジネスではないよと言われてます。海外では、何故かそのようなリーディング・エッヂが下まで波及してくるということが理解されているのですね。国内でも、我々も直接的に説明していかなければいけないと思っていますので、そのような意味で、ビジネス系のアプリケーションを常に探しているのです。そのようなポテンシャルのあるアプリケーションはきっとあるだろうと思っています。

    【藤井】(宇宙科学研究所)
     先ほどの森田さんの「GRIDが一般の方たちにどういう風に認識されるか」というご質問に対してですが、GRIDが一般の方たちに利用される段階、すなわち一般の方たちが認識する段階では、多分、今私たちが抱いているGRIDというイメージは誰も意識していないと思うのです。私は流体屋なので流体の例を挙げましょう。例えば、ゴルフをしていて、あと何ヤード残っているか、その時に、何番アイアンを使って、どう打てばいいかというのを携帯から調べるとします。まず携帯に希望の情報を入力します。そうすると、携帯が何番アイアンを使った方がいいよと教えてくれるわけです。携帯の演算能力はそんなに高くありませんし情報もありませんから、実際にはそのバックエンドでGRIDが活躍して、その地域の風の強さとか向きとか気候の情報とかを必要なサイトから手に入れて、ボールの飛翔をシミュレーションする流体プログラムとかが動いたりします。すなわち気候の情報とかも負荷の高いシミュレーションとかもGRIDを利用した作業が実際には行われます。しかし、携帯を使っている人には、シミュレーションが動いているとか、どこで何が起こっていて結果が手元の携帯にでてきたかわからないわけです。そうできるかどうか分かりませんが、でもそれで欲しい情報が手に入るのです。
     別の例を挙げましょう。例えば、新宿の雑居ビルで火事になってしまって、逃げようとしたとき、携帯にどちらに逃げた方がいいのか、逃げる方向を聞くわけです。そうすると、携帯が指示してくれる。実際には、そのビルの造りの情報がどこかから呼び出されて、多分GRIDを利用してすごいシミュレーションが携帯のうしろで沢山動いて、その結果を携帯が教えてくれるという感じだと思うのです。まあ実際には携帯で見えるかどうか分かりませんけどね。また、これが実現するのが、何年先になるかは分かりません。でもこんなイメージではないでしょうか。
     つまり使う段階では、私たちが今持っている GRIDのイメージを超えているような気がするのですが、いかがでしょうか。そう考えるとGRIDというものを、一般の人に語る必要がない気もしてしまうのです。答えになっているかどうか分かりませんが、私は、そんなイメージをGRIDの将来には期待したいなと思っています。

    【関口】
     非常に良いご指摘だと思います。まさにGRIDそのものがインフラになっている。そのようなことが将来的に非常に期待されていて、まさに電力網というアナロジーを使えば、そんなものわざわざ意識する必要がないわけですね。そのような意味で、意識しなくてもインフラとして常に使えるようになるのです。
     今のお話は、どちらかというとユビキタスというようなキーワードに括られるようなテクノロジーだと思うのですけれども、そのユビキタスについては、常にいろいろなところで議論があるのです。携帯電話の話であるとか、PDAの話であるとか、どちらも端末系の方ばっかり目がいっている状況ですね。それを実際に支えているインフラ系の話というのは、どこの議論でも出てこないのです。そのようなところで、まさにユビキタスな、PDAとか、デバイスを皆が持つようになったとすれば、それから発信される情報量はまた膨大なものになり、それらをしっかり受けるところがないと大変です。例えば、携帯電話で、どこかのサーバが落ちると、皆、i-modeが使えないということになってしまうわけなのです。そのようなものを支えていく技術のひとつがハイエンド技術であり、このようなGRID技術であるだろうと思うわけです。先ほどのemergencyな状況を想像すると、それを一ヶ所に集中させているのでは絶対ダメです。そこがパンクしますから。それを全体で、どうやって分散させていくかというようなアプリケーションで考えていかないといけないのです。いわゆるpeer-to-peerという形でしょうか、ユビキタスな環境を支えるインフラという形で、いろいろなアイデアを検討しながらインフラの整備をやっています。

    【松澤】
     まったくそのとおりだと思います。

    【森田】
     非常にいいアナロジーで、分かりやすかったと思います。今i-modeを使っている若い人たちが、Webという言葉でものごとを考えているかと言えば、多分そうじゃないと思うのです。それと同じことがGRIDでも起こりうるようなビジネスモデルが出てきて欲しいと思いますね。


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