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7.多様なシステム環境でのGRID構築

    【松澤】
     この点に関して、皆さん、質問とかご意見とかありますか。

    【平木】
     三浦さんの仰られた「GRID is comming」というのは、ある意味ではそのとおりだと思います。しかし大学という立場を考えると、逆にGRIDというのは、すごく難しい面があると思っています。例えば、ミッションオリエンテッドな研究をしている世界中の研究所は、独占帝国として同じシステム、同じバージョンのミドルウェアを揃えることができるのですが、大学という環境では、個々の研究者はもう「てんでバラバラなシステム」、「てんでバラバラなバージョン」を使っています。そのようなバラバラな状況で、ミドルウェアの存在が許されて運用でき、GRIDができるのだろうかという非常に大きな疑問があります。大学では、もっと民主的な姿で、GRIDに近いものができるように、もう少し穏やかな道を探って欲しいという要望があります。そのように大学のようなバラバラな環境でも帝国が築けるかという問題について、三浦さん、関口さんはどのようにお考えですか。

    【松澤】
     では、三浦さん、お願いします。

    【三浦】(富士通 コンピュータ事業本部)
     ご指摘のようにミッションオリエンテッドな研究機関と大学の計算センターは、元々目的が違うわけですので、同じ形態でGRIDでつなげれば、皆、happyかといいますと、やはり考え方が違う部分もあると思います。ただ、世の中の方向として、GRIDにつながっていないのは具合が悪いのではないかという感じがします。
     今回のスーパーSINET計画で、研究所や大学の大型計算センター、あるいは基盤センターがつながるというのは、やはりこのような環境を利用して、何かやってみるのが大事なのではないかという気がします。そこから先をどうするかというのは、またいろいろ道は分かれると思うのです。例えば、スーパーSINET計画の場合は、GRID研究がひとつのテーマになっています。今年度は東北大学から始まって、東大、名大、京大、阪大と5つなのですが、来年度になると、北大と九大も入ります。
     そうすると、いわゆる7つのセンターが一応、スーパーSINETの10ギガビットに乗っかるということになりますので、それをふまえて今年度は関口さんの話にも出てきたGlobusというミドルウェア・ツールキットを載せてみようという話が進んでいるわけす。もちろん、Globusが載ったからそれで終わりというわけではなく、Globusの上に、PSE(Ploblem Solving Environment)、これはアプリケーションに近いレイヤーですが、これをかぶせなければいけないのです。世界的にみると、すでにCondorとかCactusとか呼ばれるものがいくつかありますが、これらはGlobusをベースとして作られているわけです。Globusをベースにして作られていてインタフェースが合えば、後は各センターで独自な上位レイヤーを構築できるのです。大事なのは、Globusのインタフェースにしておけば、異なったプラットフォームにも持って いけるということだ思います。
     ついでに言いますと、グローバルグリッドフォーラムについての話なのですが、これは元々アメリカで始まったグリッドフォーラムとヨーロッパで始まったユーログリッドが一緒になったものです。そして、アジア・パシフッィクがどのように入るかということが現在検討されている状況です。ここで、ヨーロッパはまた少し違った考えをもっているみたいです。例えばドイツでやっているUNICOREは、その開発に富士通のヨーロッパの研究所(FECIT)も参画しているのですが、UNICORE自体は、それはそれでGRIDのサブセットであり、トランスペアレントに、ワークステーションからどこのスーパーコンピュータでも使える仕組みになっているのです。一応、ヨーロッパに入っている富士通、日立、NECの三社のスパコン上でUNICOREが動作可能になっているはずです。彼らに聞いてみると、Globusのことを必ずしも良く言わないという面もあり、まだまだGRIDといっても広うござんすという感じで、ヨーロッパはヨーロッバで、独自性をだそうとしているように思われます。

    【関口】
     確かに平木先生がご指摘のところがあります。今、Globusという名前がございましたけれども、そのGlobusも今、version1.1.4が出て、もうすぐversion2になります。そうなりますと、そのversion間のインターオペラビリティは一回諦めなければならないのです。残念ながら、いろいろ先行しているアイデアとは別に、現実の問題として、versionを合わせていかないとダメなんだよというのが、現時点では仕方のないところなのかもしれません。それはどこまで普及していくかも分かりませんし、別に私はGlobusの布教団体でもありません(笑)が、ある意味ではライバル意識ももっていますし、ただライバルというわけではなく、使えるものは使おうという考えでやっていますので、使えるモジュールが、どんどん「血合い」になってきて、ある意味、本当の部品になってくれば、皆、安心して使えるんだろうなという気はします。
     それと、もうひとつ、民主制という意味でいうと、先ほどの松澤先生のご質問にもありましたように、それなりのポリシーを持っているいくつかのコミュニティをベースに、それらがゆるくfederateできるような環境であったとしても、ひとつのコンセプトとして作っていかなければいけないので、全員が同じ物を使うために下から上まで全部同じものを揃えないと動かないというのは、やはりかなり苦しい話だと思います。そのソフトウェアにおいても、例えば、先ほどのCORBAのご質問のときに、少し答え損なった話でもあるのですが、通常のRPCですと、サーバ側で何かサービスが増えたり、リコンパイルしなければいけないような場合、サーバ側とクライアント側の両方でスタブを作らなければいけないのです。それならもうクライアント側はいっさい何もやらなくて、単にサーバ側がメンテナンスすれば済むような、そのような全体のメンテナンスコストが下がるように常に意識しながらこのようなソフトウェアの設計がされていくべきだと思うし、そうなってくるのだと思います。

    【平木】
     実は教育環境の問題でもまったく同じ問題がありまして、e-learningとか、遠隔教育をやったときにどのようなミドルウェアを使うかという問題はすごく大きい問題です。それが同じ大学であれば、同じシステムを買えと言えば済むのですが、いろいろな大学に散らばっているときに、皆がアクセスできる共通的なものは何かという問題に直面すると、実は全然何もない。今、皆が一番共通と思っているWebですら、もうすでにインターネットエクスプローラじゃないとアクセスできないページがどんどん出てきて困っているという現状があります。そのようなものを通じた、いわゆる独占への道というのは、もう仕方がないことなのか、それとも、もっと民主的な道が探れるのかということについて、教育環境では、神沼先生はどのようにお考えなのでしょうか。

    【神沼】
     教育には、人の問題が非常にかかわってきます。ですから、その一番基になるところだけは、共通のものでなければならないと思いますが、他の相当部分は、各ユーザ側が自由に設定できるような仕組みをもっていないと、実際、皆に使ってもらえないだろうと思っています。では、そのためにはどのようにすればいいのかですが、「教育システムは、どこかが独占するようなことだけは、絶対ダメよ」と、ただこれだけは考えています。標準化をどのようにしていくかという問題は、これからいろいろ考えていかなければならない問題です。研究環境レベルで標準化する場合でも問題はいろいろあるのですが、教育の場になると、標準化はもっと難しくなるということが、現実にあると考えています。

    【松澤】
     民主的か独占か。独占イコール標準化ではないと思うのですけれども、標準化が進むと、ある意味で独占も進むという感じがしないわけではありません。非常に難しい議論になってきました。少なくとも独占は別として、標準化は必要であるというのは神沼先生のお考えだと思います。


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