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6.情報基盤の効果と具体例

     情報基盤の整備の効果としては、以下の7項目が考えられる。

    1. 先端研究支援機能
      大学院研究科は基礎的研究を行い、情報シナジーセンターは先端的な実用化研究を行う。特に文科系学問分野への工学的な情報技術の応用を行う。また、各部間での研究プロジェクトの立上げと利用者に密着した応用技術の開発を行う。これらは教育研究環境における臨床的な研究開発とも言え、インターネットを通じて研究成果を学内外へ広く公表する。
    2. 学生教育への一貫性確保による効率化
      情報教育における大規模シミュレーションや可視化技法による学生への先端技術の習得、専門教育や大学院教育への移行の円滑化、デジタルライブラリやデータベース、電子ジャーナルへのアクセス提供による情報技術を用いた学術情報の利用技術、発信技術の向上が期待される。また語学教育におけるCALLシステム
      10)を拡大解釈したネットワーク型の外国語スピーキング・ライティング授業等への教育の情報化に対する支援により、これまでとは異なる新たな教育効果を創出する。
    3. 大学院教育への貢献
      大学院各研究科の専門教育の統合的支援。例えば、文系研究科では、原典購読、統計解析手法、データベース検索等に異なる学内組織を使っていたが、これらの一元的なサービスを可能とする。また、新らたな教材や教育方法を達成するための機材、新教材用ソフトウェアの導入、授業支援システムなど一元的に支援することが重要であり、これらは情報FD(Information Faculty Development)ともいわれる。
    4. ネットワークセキュリティの確保
      ネットワークの管理運営に関して大学としての一元的な対応、責任体制の確保が問われている。特に学外に対して部局の枠を超えた問題が発生したときに、錫質的に責任ある対応が不可欠となる。例えば、1999年11月に外国雑誌出版社Springer社からの4.2万件のダウンロード事件や、2000年8月と9月の2回に渡りIOP(英国物理学会)の論文201 / 406件がダウンロードされた事件が起こっている。なお、本学では、「東北大学ネットワーク安全・倫理に関するガイドライン」を平成11年度に他に先駆けて制定している。
    5. 次世代システム構築の統一性の確保
      大規模計算、教育用、図書館システム等のサーバ複合体を、技術発展を反映した最適な利用環境のもとで整備・構築が可能となる。
    6. 利用環境の統一化
      各組織が管理する情報資源の統合的な管理・運用による統一的かつ効率的な利用を可能とし、ユニバーサル・サービスを実現する。また、提供サービスの窓口の一本化によるサービスおよび教育研究の一貫性の確保や図書館における情報アクセス支援機能、例えば電子ジャーナルアクセス、電子的デポジトリ(デジタルアーカイビング)やメタデータ11)(サブジェクト・ゲーウェイ等)の整備が考えられる。
    7. 総合的な情報ガバナンス(統治)の実現
      大学のような組織にとっては、事務情報も含む情報に関する統一的な統治の確立が必要であり、そのための情報統治組織として情報シナジーセンターを位置付ける必要がある。

     情報基盤の存在により以上のような効果が期待できるが、2001年時点で既に進行しているいくつかの具体的な情報基盤事業の事例を掲げる。

    1. 超高速ネットワークシステムの整備
       東北大学では、1988年から我が国初の本格的な学内ネットワーク(LAN)として東北大学総合情報ネットワークシステム(TAINS:Tohoku University Academic / All-round / Advanced Information Network System)を運用してきたが、1995年からはATM(非同期伝送モード)方式を用いた622Mbpsのバックボーン・ネットワークSuperTAINSに機能拡充し現在に至っている。このネットワークでは、仙台市内に点在する6つのキャンパスをATMスイッチ(max. 622Mbps)とGigabit Etherスイッチ(1Gbps)で相互に接続し、各キャンパスにはFDDIループ(100Mbps)が装備されている。このほど平成12年度補正予算の措置を受けて2001年12月から最大10Gbpsの回線速度を有する超高速ネットワークシステムが稼動の予定である。
      図10
      図-10:超高速ネットワークシステム概略図

      これによりいよいよギガビットネットワークによるブロードバンド時代へと歩を進めることになる。また、Fire Wallを装備したセキュアなネットワークを目指す。その概要を図-10に示すが全体がバタフライ(蝶蝶)型となっている。

       なお、本ネットワークは、対外接続装置を経由して全国的なバックボーン・ネットワークに接続される。これは、国立情報学研究所が運用するSuperSINETであるが、今や光時代にふさわしいバックボーン技術はWDM(波長分割多重)12)とOXC(光クロスコネクト)13)であり、近い将来の基幹網は電気的な処理が介在しない「フォトニック・ネットワーク」へと進化する。SuperSINET(最大10Gbps)は、2003年1月から稼動開始の予定で、先端の製品の市場投入に合せて4フェーズによる段階的な整備が計画されている。バックボーン・ネットワークの構成例を、図-11に示す。平成13年度は東北大学を含む5大学、6機関が接続予定で、これらの機関は、図-11の右端の大学・研究所等のように接続される。

      図11
      図-11:Back Born Network構成例

       IT戦略本部が2001年6月に決定したJapan2002プログラムにおける世界最先端IT国家の実現の一環として、文部科学省でも2001年8月28日に発表した「戦略性のある『未来への先行投資』による人材・教育大国と科学技術創造立国の実現」と題する基本方針を2001年8月28日に経済財政諮問会議に提示した。その中でSuperSINETの拡充のほか、各研究機関のスーパーコンピュータや大規模データベースを高速ネットワークにより共有して、高度なシミュレーションや遠隔地との共同研究を可能とするVirtual Laboratory(仮想研究所)構想であるITBL(IT-Based Laboratory)についても項目として挙がっており、これらは情報基盤の整備とも大いに関係してくることになる。また同方針には、高速大容量通信時代が眼前に迫り、インターネットによるe-Learningが俄然脚光を浴びだしたことから、大学等におけるe-Learning推進についても触れられている。米国ではe-Learningは成人の学習機会として、特にProfessionalな職業教育として盛んになってきており、スタンフォード大学のStanford Online14)などは、遠隔教育だけで修士学位を授与するシステムをつくりあげている。FTTH(Fiber To The Home)でブロードバンド(広帯域)インターネットが一般家庭にまで普及したとき、大学教育そのものの様相は確実に一変するであろう。と同時にこれに適応できない大学は駆逐され、代わって民間を含めた新たな供給者が現れるであろう。大学にとっては今や戦略的な対応が強く求められるのである。


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