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2. 磁気リコネクション

 微視的な電子スケールの物理から巨視的なMHD的なスケールまでを包括的に取り扱わなければならない現象としては、磁気リコネクションが最もよい例の1つです。磁気リコネクションは、地球磁気圏のサブストーム(オーロラはサブストームの1つの特徴的な現象です。)や太陽コロナでのフレア現象(図2)で重要な役割を果たしていることが知られています。


図2: 太陽フレア(ようこう衛星の観測)


さらに、最近では広く一般の天体現象でも重要な役割を果たしているのではないかと考えられるようになってきました。磁気リコネクションはプラズマ中の反平行な磁場構造に関連した不安定です。反平行な磁場を支えるようにプラズマ中には電流が流れています。同方向に流れる電流には引き合う力が働くので、なんらかの原因でこの電流中に電気抵抗が発生すると、電流はフィラメント化しもともと存在していた反平行磁場が融合し始めます。(図3)

図3: 磁力線の繋ぎ変え(磁気リコネクション)


こうしてプラズマ中の反平行の磁場構造が磁力線のつなぎ変えで構造変化を起す不安定を磁気リコネクションと呼んでいます。反平行磁場が持っている磁場エネルギーは磁気リコネクションを通してプラズマの運動エネルギー+熱エネルギーへ移動するので、磁気リコネクションは磁場エネルギーをプラズマのエネルギーへ変換するプロセスと考えることができます。こうして、地球磁気圏尾部のように大きな磁場エネルギーが蓄積されている場所では、一旦、磁気リコネクションが発生すると高エネルギーのプラズマが生成されることになります。磁気リコネクションで加速されたプラズマの速度はアルフベン速度に達することが理論的に知られていますが、磁気圏尾部の場合にはプラズマの速度は約1,000 km/sにも達することになり、実際に人工衛星の観測によりこのような高速のプラズマの流れが観測されています。さて、先に「なんらかの原因でこの電流中に電気抵抗が発生すると…」と述べましたが、電気抵抗はどのように発生するのでしょうか?実はこの電気抵抗の発生機構はまだよくわかっていないプラズマ物理学の大問題です。プラズマは通常「磁力線凍結の原理」にしたがって運動するので、抵抗が発生しない限り磁気リコネクションを発生させることはできません。最初に述べたように無衝突プラズマ中での電気抵抗はプラズマ中の不安定によって励起された波動とプラズマ粒子の相互作用(等価的なイオンと電子の衝突:波動粒子相互作用を通して本来の粒子間衝突による抵抗よりも大きな抵抗になるものを異常抵抗と呼ぶ。)によって生ずると考えられています。磁気リコネクション自体はMHD的なスケールの現象なのですが、その発生は電子スケールの不安定による波動−粒子相互作用と密接な関係があるわけです。こうして、最終的には電子スケールとMHD的なスケールを同時に取り扱えなければ磁気リコネクションを完全に理解することはできないので、粒子シミュレーションは非常に重要・有効な道具となるのです。

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