News Letter「地球温暖化問題の現状」(3/5)

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3. 京都議定書の濃度安定化効果は?
 
京都議定書では、2008年〜2012年の5ヵ年間において、先進国は1990年排出レベルに対して平均して5%の排出削減を行うことを目標としている。 ちなみに我が国の削減率は6%である。 はたして、このCO2排出削減により、大気中CO2濃度は安定化できるのであろうか。
 
(1)推定方法の概要
ある時点(t)の大気中CO2濃度をC(t)とすると、次式が成立する(Wigley:1993年)。
2.123 dC(t)/dt = 排出量 - 吸収量 = I + Dn - F - X
ここで、濃度C(t)の単位はppmvである。 Iは化石燃料、セメント製造からの排出量、Dnは土地利用変化(森林破壊等)による正味の排出量である。 また、Fは海洋の吸収量、Xは陸上植生による吸収量である。 排出量、吸収量の単位はGtC/year(炭素換算で年間10億トン)である。 植物吸収量の推定では、CO2の増加とともに吸収量が増加する効果(施肥効果)や森林の再成長を考慮していることが特徴である。
 
(2)観測データとの比較
図3-1に、CO2濃度推定モデルによる大気中濃度計算結果(1765年〜2000年)と観測データとの比較を示す。 モデルでは、1990年以前のデータはパラメータ調整に用いているので、観測データとの比較は意味がない。 1991年以降では、観測データの平均増加率約1.6ppmv/year、計算値約1.8ppmv/yearと相違があるが、全体の傾向は良く一致している。
fig3-1
図3-1 CO2大気中濃度と観測データの比較
 
(3)問題点
このモデルでは、CO2海洋吸収量の推定に無機炭素は考慮しているが、有機炭素(2-2節参照)は考慮していないこと、海洋吸収量を過大に評価するなどの問題点がある。

また、このモデルでは、1980年代に行われた熱帯雨林などの森林破壊による排出量Dn(1980s)の不確実性が、大気中CO2濃度の推定におよぼす影響が非常に大きい。 例えば、2100年で見ると、Dnの上位、下位推定値に対応するCO2の大気中濃度推定幅は約70ppmvにも達する。
 
(4)京都議定書の大気安定化効果の試算
図3-2は、京都議定書にしたがって、先進国が2010年に1990年排出量の5%を削減した場合(シナリオ1)、さらに2020年に先進国が25%〜75%までの大幅な削減を行った場合(シナリオ2〜4)の大気中濃度を試算した結果である。 図によれば、先進国の削減だけでは大気中濃度の安定化は極めて難しいことがわかる。 これは、途上国の排出量が増加するためである。
fig3-2
図3-2 CO2排出削減の濃度安定化効果の試算
 
(5)今後の課題
国連(UNFCCC)の温暖化防止の究極の目標は、「気候システムに対して、"危険"な人為的干渉を与えないレベルで温室効果ガス濃度を安定化させること」、である。 濃度推定モデルは、排出削減が大気中濃度の安定化に及ぼす効果を推定する極めて重要な手法であり、今後その信頼性向上が大きな課題である。 電中研では、2001年度から、海洋および森林によるCO2吸収量の推定精度の向上のため、研究を本格的に開始したところである。
 

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