News Letter「地球温暖化問題の現状」(2/5)

  目次   |   先頭   |   前へ   |   次へ  

 
2. 温暖化は防止できるか?
 
1997年末、国連温暖化防止枠組条約(UNFCCC)の第3回締約国会議(COP3)が京都で開催され、先進諸国はCO2等の温室効果ガスの削減を行うことになった。 国によって削減率は異なるが、平均では1990年排出レベルの約5%減、我が国は6%減を数値目標にしている。 しかし、最近、米国のブッシュ大統領は、京都議定書の批准に反対し、一方で、気候研究の加速とエネルギー技術開発の重要性を主張している。 温暖化防止のための長期的な削減目標が設定されていない、というのが批准反対の理由の一つである。
 
(1)温暖化防止効果の予測
図2-1は、電中研が参加した国際共同研究の成果の一つである(ACACIAプロジェクト、1998年)。 この予測では、21世紀の濃度シナリオとして、CO2削減などの特段の対策をとらないBAUシナリオ、産業革命以前の濃度である280ppmの約2倍の550ppmに安定化するWRE550安定化シナリオを想定している。 予測に使用された気候モデルは、米国大気研究センターNCARの大気・海洋結合モデル(CSM1.4)である。 気候の再現計算結果と観測値を比較すると、気候モデルは、1990年より過去約20年間の気温上昇約0.5℃を再現できるものの、1940年の前後約20年間については、観測値の上昇を再現できないという問題が残されている。 また、21世紀の予測でみると、BAUシナリオでは、2100年までに1990年比で約2℃の上昇、WRE550安定化シナリオでは約1.5℃の上昇となる。 550ppmに濃度を安定化しても、その温暖化防止効果は意外と少ないと言えるであろう。

図2-1 濃度安定化と温暖化防止効果(電中研が参加したACACIA成果、1998年)
 
(2)地球温暖化防止のための長期目標
国連気候変動枠組条約の究極の目標は、「気候システムに対して、"危険"な人為的干渉を与えないレベルで温室効果ガス濃度を安定化させること」、である。 しかし、その目標となる濃度レベルがどの程度なのか、何時の時点で安定化するのか、依然としてはっきりしていない。 図2-1のように、550ppmで濃度を安定化するには、21世紀中葉までに、全世界のCO2排出量を現在の1/3程度まで大幅に削減する必要がある。 その削減量の推定法(炭素循環モデル)に科学的な不確実性があるにしろ、濃度安定化は相当困難と言わざるを得ない。 しかし、安定化の濃度レベルが高ければ高いほど、実際の削減は容易になるし、現実的な削減対策を検討することも、気候変化に備えた適応等の行動をとることも可能になろう。

そのためには、様々な濃度安定化レベルに対して、気候状態がどの程度異なるのか、という疑問に対する科学的な高精度の予測が不可欠である。 図2-1のような気温上昇の予測だけでは不充分で、削減シナリオによって台風等の異常気候はどの程度差があるのか、あるいは非可逆的現象が発生しないかどうか、例えば海洋の熱塩循環が停止しないかどうか、といった疑問に対する信頼性の高い科学的な予測が不可欠である。
 

  目次   |   先頭   |   前へ   |   次へ  
 
All Rights Reserved, Copyright© サイエンティフィック・システム研究会 2001