News Letter「地球温暖化問題の現状」(1/5)

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1. なにがわかったのか? 〜IPCC第3次評価書の概要〜
 
気候変動に関する政府間パネルIPCC(Inter governmental Panel on Climate Change)は、1991年から5年毎に、地球温暖化問題に関する評価書(Assessment Report)を発表している。 2001年夏には第3次評価書が公表され、一般に購読可能である。 この第3次評価書は3分冊からなり、第1〜第3作業部会がそれぞれ「温暖化の科学的根拠(The Scientific Basis)」、「影響、適応および脆弱性(Impact, Adaptation and Vulnerability)」、「温暖化対策(Mitigation)」について取りまとめている。 3分冊とも1000ページに近いボリュームをもつ大作であり、政策立案者に向けた要約版SPM(Summary for Policymaker)が作成されている。 この要約版は、IPCCのホームページ(参考文献参照)からダウンロードして精読可能である。
 
(1)これまで観測された気候変化
温暖化の科学的な根拠を取りまとめた第1作業部会の要約版SPMにおいて、過去の観測データから地球環境への人為影響を詳細に分析した結果が紹介されている。表1-1にその一部を抜粋して示す。 例えば、現在の大気中CO2濃度は、産業革命以前の濃濃度280ppm(ppmは体積濃度で0.028%)から年々増加し、現在の濃度は約368ppmとなっている。 ちなみに、過去20年間の増加率は平均1.5ppmである。 こうしたCO2などの温室効果ガスの増加により、1861年〜2000年の140年間において、全球平均地表気温が0.6±0.2℃上昇した。 また、20世紀の北半球では、熱帯域、中・高緯度域とも降水量が増加したが、亜熱帯(北緯10度〜30度)では降水量が逆に減少している。 これらの観測事実から、IPCCでは人間活動が気候変化の原因とする根拠が強まったことを指摘している。
 
(2)気候予測モデルの検証
第3評価書の非常に大きな特徴は、気候モデルによる20世紀の気温上昇の再現計算が実施されたことである。 複数の研究機関が最新の気候モデル(大気・海洋結合モデル)を用いて過去の気温上昇の再現計算を試みており、予測の検証プロセスがより厳密になったことがこれまでの第1次〜第2次評価書に比べたときの大きな前進である。
 
(3)将来の気候変化の予測
第3次評価書では、これまでの評価書とは異なり、21世紀の人口増加や経済発展などの差異を考慮した4種類のシナリオをベースに多数のシナリオを想定している。 これはSRES(Special Report on Energy Scenario)シナリオとも呼ばれており、A1、A2、B1、B2の4つを基本シナリオとしている。 各シナリオは世界各国の発展の違いを考慮した複雑な社会背景をベースにしているため、理解は容易でないが,ごく簡単に要約すると以下の通りである。
A1シナリオ : 高成長シナリオ
A2シナリオ : 多元化シナリオ
B1シナリオ : 持続発展シナリオ
B2シナリオ : 地域共存シナリオ
なお、A1の高成長シナリオでは、エネルギー技術の発展に3種類のコースを想定し、次の3つのシナリオに細分している。
A1FIシナリオ : 化石燃料依存シナリオ   
A1Tシナリオ : 太陽光発電、燃料電池を普及させた高効率シナリオ   
A1Bシナリオ : 両者をバランスしたシナリオ
したがって、合計7つのシナリオを基本シナリオとして想定していることになる。

その結果、シナリオが多すぎて、スパコンを使用する複雑かつ高度な気候モデル(大気・海洋結合モデル)ではすべてを予測できず、簡単な手法で以下のような予測値を示している。
(a)1990年〜2100年の全球平均の地表気温上昇は1.4〜5.8℃と予測される。 最大の上昇値は、CO2排出量の最も多いA1FI(化石燃料依存)シナリオに対応している。 ただし、寒冷化をもたらすイオウ酸化物発生量は、第2次評価書の時より下方修正した。
(b)1990年〜2100年の海面上昇は、0.09〜0.88mと予測された。 第2次評価書より下方修正されたのは南極の降雪量増加を考慮したためである。
 
(4)異常気象
第3次評価書では、高度な大気・海洋結合モデルを使用しても台風等の異常気候(extreme climate)については信頼性の高い予測結果は得られていないと評価している。 そうした限界はあるものの、第2作業部会では、21世紀に予測される異常気候について、その確信度(原論文ではlikely, very likelyなどの表現)とともに表1-2のように取りまとめている。 表では、単純な現象として、最高気温上昇、最低気温上昇、降水量の増加を挙げ、その社会におよぼす影響も検討している。 さらに、複雑な現象として、乾燥・旱魃の増加、台風の風速等の増大、アジアモンスーンの降水量変動幅の増大、中緯度地方のストームの増加を挙げ、それぞれに対する社会への様々な影響を評価している。

ただし、表1-2にある確信度は、要約版だけの評価尺度であり、米国科学アカデミーNSAでは、読者に誤解を招くとして批判している。 また、IPCCの作業グループには政策関係者が参加しており、今後の科学的中立性確保への懸念が示されている。 IPCCの評価書といえども、科学的な検証が不足している予測結果は疑ってみるという態度が今後一層重要になろう。
 

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