News Letter「地球温暖化問題の現状」(4/5)

  目次   |   先頭   |   前へ   |   次へ  

 
4. 今後の課題
 
電中研では、過去10年間にわたって米国NCARとの共同研究により、温暖化予測研究を実施してきた。 予測のために必要な気候モデルを整備するという観点からは、所期の目標をほぼ達成できたと言えるであろう。 しかしながら、温暖化現象自体は極めて複雑な現象であり、分かってきたことも多いが、一方で研究の進展によって明らかになった新たな問題もある。
 
(1)気候モデルの問題点
IPCCの第3次評価書(2001年)によれば、世界各国の気候モデル(大気・海洋結合モデル)には、相当大きな予測幅が存在することが明らかになってきている。 図4-1は、SRESシナリオのうちA2シナリオ(1-2コラム参照)に対する世界各国の7種類のモデルによるは温暖化予測結果を示したものである。 図のように、2100年時点の気温上昇の予測幅は1990年比で約1.6℃(気象研のモデル)〜約5.3℃(東大/環境研モデル)と相当大きい。 今後、地球観測技術の進歩により、詳細なデータの蓄積への期待が大きい。 そうしたデータと比較検討する等によって、気候モデルの問題点をいち早く把握し、予測の信頼性を向上することが今後の緊急の課題であろう。
fig4-1
図4-1 気候モデルの違いと温暖化予測結果 (IPCC第3次評価書(2001年)より)
 
(2)計算科学の問題点
最近のスーパーコンピュータの性能向上は目覚ましく、電中研では2000年10月から新並列スーパーコンピュータVPP5000/32CPUが導入された。 また、文部科学省のプロジェクトにより、2002年度には、世界最高速の地球シミュレータGS40/5120CPUが完成し、運用される計画である。 前出の図2-1の予測例では、100年間の予測に約1週間(SX-4/32CPU, 64Gflops)の計算時間を必要とした。 しかし、地球シミュレータでは僅か15分程度ですむことになる。 電中研では、1998年より文部科学省の振興調整費総合研究として、地球シミュレータに適した超高速・超高解像度の気候モデル開発を進めているところである。
 
(3)温暖化防止の長期目標
国連気候変動枠組条約の究極の目標は、「気候システムに対して、"危険"な人為的干渉を与えないレベルで温室効果ガス濃度を安定化させること」、である。 しかし、その目標となる濃度レベルがどの程度なのか、何時の時点で安定化するのか、依然としてはっきりしていない。 例えば、550ppmvで濃度を安定化するには、21世紀中葉までに、全世界のCO2排出量を現在の1/3程度まで大幅に削減する必要がある。 その削減量の推定法(炭素循環モデル)に科学的な不確実性があるにしろ、濃度安定化は相当困難と言わざるを得ない。

一方、安定化の濃度レベルが高ければ高いほど、実際の削減は容易になるし、現実的な削減対策を検討することも、気候変化に備えた適応等の行動をとることも可能になろう。 濃度安定化レベルの議論は、我が国電気事業ばかりでなく、世界のエネルギー産業にとって、極めて重要な関心事である。

そのためには、様々な濃度安定化レベルに対して、気候状態がどの程度異なるのか、という疑問に対する科学的な高精度の予測が不可欠である。 気温上昇の予測だけでは不充分で、削減シナリオによって台風等の異常気候はどの程度差があるのか、あるいは非可逆的現象が発生しないかどうか、例えば海洋の熱塩循環が停止しないかどうか、といった疑問に答えられる必要がある。 今後の大きな課題である。
 

  目次   |   先頭   |   前へ   |   次へ  
 
All Rights Reserved, Copyright© サイエンティフィック・システム研究会 2001