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2.乱流LESの目的と課題

2.1乱流LESの工学的意味

 非定常性、3次元性の強い乱流場や、回転系や浮力場に生じる外力効果、圧縮性の影響などを一般的に数値シミュレーションで扱おうとすると、流れの基礎方程式―Navier-Stokes方程式―に基づいた直接計算(DNS)にかかる期待は大きい。しかし、工学設計が必要としている流れに関する情報―主に統計平均的な特性や特定の周波数応答―に対してDNSの扱う自由度(空間、時間の解像度を考慮するとRe数の3乗のオーダー)はあまりにも大きすぎ、将来コンピュータ性能の飛躍的な向上を見たとしても、コストパーフォーマンスを考える限り何らかの近似モデルが有用であることは間違いない。
 ラージ・エディ・シミュレーションは、現在のところ、乱流DNSの最も有力な近似モデルと考えられている。この観点から、LESモデリングへの要求は、
・充分な解像度の格子ではDNSに収束すること、
・充分高いRe数において要求される解像度が、DNSより低いオーダーであること、
といえる。格子に対する収束が速いほど、Re数に対する指数が低いほど優れたモデルと評価できる。スマゴリンスキモデルが風上差分のみを用いた解析モデルよりも優れると考える根拠もここにある。

2.2高Re数乱流へのブレイクスルー

 乱流LESを現在提案されている物理モデルに忠実に(すなわち、良い予測精度を保って)解析を行うとDNSの1/10程度の計算負荷を要する。これは、DNSに対して十分小さいが、工学応用として高Re数への展開を考えるとまだ過大である。そのボトルネックとして、
・壁面の近似モデル、
・高Re数での数値不安定に対する計算スキーム、
・流入境界、エントレイメント境界での乱れの評価、
が挙げられる。予測すべき物理現象の特定とその数学的検討にブレークスルーの道があると考える。


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図1 角柱周り流れLESにおける風上差分の影響1)
(上:QUICK数値粘性誤差の分布、下:SGS応力モデル(スマゴリンススキー)項の分布)

 角柱まわり流れのLES1),2)では壁境界に「壁法則」を用いて高レイノルズ数にも妥当な結果を得ているが、角柱前縁の角点は数値不安定の原因となり、過大な格子解像度か人工的な安定化スキーム(=数値散逸)を必要とする。後者は、しばしば、本来のLESモデルの散逸を超え、統計平均解にも影響を与える。これらの問題に対する一般的かつ合理的な答えはまだない。精度を要求しない領域では計算の堅牢性を重視するならば、低い解像度においてレイノルズ平均型モデルに漸近させるハイブリッドモデルなどが検討に価しよう。

2.3複雑乱流場への展開

 予測すべき対象が統計平均場のみであるならば、レイノルズ平均モデル(RANS Reynolds Averaging Navier-Stokes)が原理的に優る。実際に、工学設計のパラメータスタディには有効な適用例が多数報告されている。一方、LESには、
・時間・空間変動が直接的に解析できる、
・モデル定数の数が少なく、適用範囲が広い、
の特徴がある。これらを必要とする対象、たとえば、
・不均一、非定常な解を必要とする、
・適切な統計平均モデルが知られていない、
問題にこそLESの適用が期待される。反応流、混相流、電磁性流などでは流れとの干渉についての基本的なメカニズムが不明確であるため、原理モデルにさかのぼった解析(いわゆる、DNS(Direct Numerical Simulation)=直接数値解析)が試みられている。LESでは、これらの解析法を数学的に近似する直接的なモデリングが可能であるため、様々な対象に同じアプローチで展開できると考えられる。たとえば、予混合燃焼に見られる乱流変動による皺状火炎の予測シミュレーション3)などが試みられている。また、ピストンエンジンのサイクル変動4)や、配管・構造物の流体振動など、本質的に非定常な問題に対しては時間平均型モデルの適用が制約されることから、乱流LESの実用化が期待される。



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図2 乱流LESによるガスタービン燃焼器の火炎予測3)
(左:流速、右:火炎の瞬時場の予測結果)


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