[目次] [1ページ目] [前ページ] [次ページ]
(3/8)

 次に、タンパク質のもうひとつの特徴についてご紹介します。それは、タンパク質は、高分子としては非常に堅いという点です。画面13は、先ほどご紹介したミオグロビンの空間充填模型ですが、これを見ると、非常にまんまるで塊として見えるので、いかにも堅そうだということが想像できると思います。例えば、よい例かどうかは分かりませんが、バクテリアの鞭毛を例にとってみても分かります。バクテリアには、鞭毛をぐるぐるまわすモータのような部分があるのですが、そのモータ機能の部分は、いろいろな種類のタンパク質(いわば部品)が組み合わさって作られていて、個々の部品が非常に堅いのです。それでは、タンパク質はなぜ堅いのでしょうか。本日は詳しくはご説明しませんが、その由来は、先ほどご説明した、フォールディングのメカニズム (協同性) に深く関係していると私は考えています。


画面13

 今までタンパク質の特徴についてお話ししてきましたが、ここで、なぜタンパク質の構造予測は難しいかという点について、まとめます。


画面14

画面15

 まず、フォールディングに「協同性」があるという点です。協同性は、2状態的 あるいは 相転移的とも言われていますが、部分が全体に影響して、全体が一体的にふるまうので、加算性がなりたっていないのです。つまり、部分の和を足していくと全体が分かるというわけではなく、分子全体を一挙に考える必要があるため、その点に、1つめの難しさの原因があります。

 また、もう1つの大きな原因に、「多数の内部自由度(回転角など)をもつ系」を対象とせざるを得ないという点があげられます。タンパク質は、ひとつのアミノ酸の主鎖の部分に、2つの回転の自由度があります。それらがたくさんつながって、ペプチド面は平面なのですが、平面がくるくるまわるような形状になっており、アミノ酸に応じてそのそれぞれに側鎖が付いています。つまり、タンパク質は内部自由度を持っていますが、それを部分ごとに考えていって足しあわせれば全体の解がでるというものではなく、やはりそれら全ての分子を一度に考える必要があるので、その点が非常に難しい原因なのです。

 それでは、「場合」の数はどのくらいになるか、という問題も、この世界ではよく耳にする難しい問題です。10個のアミノ酸がつながったタンパク質の場合、現在の計算機を使えば、完全な計算が可能です。ところが、100個のアミノ酸がつながった場合には、計算不可能となります。なぜ不可能になってしまうのでしょうか。実は、ひとつのアミノ酸でふたつの場合を許すだけでも、10個がつながっている場合は、210 ≒ 1000通りくらいしかありませんが、2100 の場合は、1030 通りになるわけです。つまり、10個と100個の差は、単なる10倍ではなく、1030倍もの差となるというわけです。このように、タンパク質は、アミノ酸配列の長さが長くなるにつれて、急激に問題が難しくなります。以上の点が、なぜ難しいかという基本的な理由だと私は思っています。


[目次] [1ページ目] [前ページ] [次ページ]