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    5.11.監視システムとウェアラブル・カメラ

     最後にセキュリティの問題についてお話します。
     イギリスでは、犯罪発生の多発地帯に犯罪の抑止のためにカメラを置いているそうですが、中央の大きな塔からまわりを監視する収容所とか監獄の監視システムである一望監視(パノプティコン)の構造がいままでの社会の監視システムでした。
     ウェアラブル・コンピュータの発明者と言われているスティーヴ・マンは、ウェアラブル・コンピュータのような技術が広まれば、犯罪防止のシステムも変わってくるかもしれないと言っています。ヴァニーヴァー・ブッシュがカメラを額につけることを考えていたと先ほどお話しましたが、スティーヴ・マンも同じようなことを考えました。最初、彼はウェアラブル・カメラを作っていて、カメラを制御できないかとコンピュータを使いはじめ、ウェアラブル・コンピュータの研究になっていった。
     自分の見ているものを写すというのは、カメラだからあたりまえと思いますが、かならずしもそうではありません。FOMAという次世代携帯が出始めましたが、これは2人称の視点、つまり自分の顔を映して相手に送っている。
     スティーヴ・マンは、2人称の視点と1人称の視点ではその画像の意味が大きく違うと言っています。2人称の視点の画像は自分の顔を相手に送る、つまりコミュニケーションのためのものであるのにたいし、1人称の視点の画像は、記憶の代りになる。写真はそういうものですが、自分で見たものを記録しておけば、記憶の代わりになります。
     ウェアラブル・カメラを装着して歩きまわり、映像をネットに送り、誰からも見えるようにすれば、自分が見たものを誰もが見れる。自分が見ていたものだけでなく、自分が無意識に見ていたものまで記録され、そこにすぐれた画像検索システムがあれば呼び出せる。そうした仕組みがあれば、どこかで事件が起きたとき、たまたまそこにいた人が映像を撮っている可能性がある。みながウェアラブル・コンピューターを持って歩くようになれば、権力者が監視カメラを設置しなくても、犯罪の抑止システムができるかもしれない。もし皆がウェアラブル・カメラをつけて歩いていれば、いつどこで誰に撮られているか分からない。そのような形で犯罪を防止することができるのではないかというわけです。もちろん、勝手に撮影されているわけですから、プライバシーの問題など、非常に微妙な問題も生じてきます。スティーヴ・マンは、「監視カメラ対ウェアラブル・カメラのプライバシー問題」というエッセイでそのような問題についても触れています。サイト*10で読めますので、ご興味のある方はご覧ください。
     こうしたウェアラブル・コンピュータの登場は、マスメディアのあり方にも影響をおよぼす可能性があります。
     ウェブには、「掲示板」という書き込みができる仕組みがあります。いい加減な情報も載っているかわりに、ある事件が起きたときに、その現場にいた人が貴重な情報を書きこむこともある。ウェアラブル・コンピュータが広まれば、映像で貴重な情報が飛び交うようになるでしょう。マスメディアの代行制度もさらにきしんでいくと思われます。


*10:http://wearcam.org/netcam_privacy_issues.html)

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