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3.教育への適用

    【松澤】
     他にご質問はございませんでしょうか。

    【野田】(愛媛大学工学部)
     神沼先生に少しお聞きしたいのですが、いわゆる遠隔教育、あるいはe-learningの類のもので、今実現しているものはあまり成功していないと思うのです。いわゆるSCS(Space Collaboration System)というのがございまして、我々の大学でもよく使ってはいるのです。文部科学省は盛んに使え使えと言うのですけれども、ガラガラに空いている状況で、少人数の教育ではあまり成功していないと思うのです。これが現在の代表例だとしますと、これから高速ネットワークを使った場合に、どのような点を改良すれば、より良くなるとお考えなのでしょうか。

    【神沼】
     実は、私もあれは失敗だったと思っています。なぜ失敗かと言いますと、上から与えられたものであったからです。現場の方たちが必要なのだということで設計した環境ではなく、「このような環境を作るから、利用するところは手を上げて、環境を整備してお使いください」と言われ、提供されたものだからです。教育という現場では、箱物だけでなく、必ず人間が関わってくるのです。言い換えるならば、教育システムでは人間が入る部分が非常に大きいので、ここを上手くクリアしない限り、絶対に使い勝手が良くならないと思うのです。
     今回のように「高速ネットをどう使うか」と議論したり、ギガビットネットワークを導入したり、いろいろ試みられていますが、それらの実験は上手くいくだろうと思います。しかし、実験は可能だけれども、実際にそこで教育実践が可能かと言うと、おそらく無理だろうと考えています。では、どうすれば良いかということなのですが、(先ほど少し申しましたが、)その高速ネットワークを実際に使う先生方のことを考えることです。実際、先生方は教材というコンテンツを自分たちで作り込んでいかなければならないということです。しかも、教材は前もって作っておいたものが、教室でそのまま使えるかと言うと必ずしもそうではないということなのです。現場の先生方は、それぞれの時間において、聴講者の顔を見ながら対応しています。このようなことを考慮しますと、教室での作業性とか、その作業に必要な機能が本当に仕組まれているかなどについても、利用者と一緒に考えていかなければならないと思っています。そして、先生方が「本当に簡単に操作できるから使いましょう」という気持ちにならないと、実際にお金をかけて作ったけれども、あまり利用されなくなってしまうのではないかなどと、私は危惧しております。
     実は、この話題の関連で武市さんに質問したいと、先ほどから思っていたのですが(笑)。先ほどのお話の中で、ユーザに必要なものであるとか、あるいは問題解決に必要だと仰っておられたものですが、(お話を聞いていますと)何となく「本当に作ってくれるかナ」と感じられなくはないのです。例えば、それはいつできるのか、つまり、将来(あるいはこれから)というのは、明日なのか1年後なのか5年後なのか、それが非常に問題なのですね。どのくらい先を見て、そういうことへの計画を進めていらっしゃるのかを是非お聞きしたいのです。
     このような環境を、まず現場の先生方が使ってみて、その問題状況を知り、自分たちが使える環境に改善していくということが、初めになされるべきではないかと考えています。ただ今のご質問への答えになったかどうか分かりませんが、私はこのことを重視しております。そして、ついでに質問させていただきました。

    【武市】
     お答えになるかどうか分かりませんが、実は私、少しアメリカに滞在しておりました。1980年代の終わりから、1990年代の半ばまでですが、当時、ネットワークのキャパシティそのものは、今のギガビットレベルよりもはるかに低かったのですけれども、いわゆるdistance learningといいますか、仰っているように相手の生徒の反応を直接見ながら、それに応じて、専門家の先生が講義を進めていくのです。これは実験ではなく、実際に稼動していたネットワークがございました。ネットワークのスピードはまだ不十分だったかも知れませんけれども、画像の品質は大変良くて、語学の訓練に使いますと、生徒が先生の発音をまねて繰り返すと、そのまま先生側にフィードバックされる。そういったより専門的な講義を、僻地のルーラルなエリアに、リアルタイムの双方向ビデオ教育で行っていました。この講義は、教材の一方的なデリバリというより、生徒へのフィードバックを重視した教育のアプリケーションで、1990年代の半ばくらいに稼動しておりました。私どももそれに深く参画しまして、必要なネットワーク機器一式を提供してきた経験がございます。ですから、いくつか例をあげましたが、それが完成形とは全然思っておりません。もうすぐできるというのは、そういったアプリケーション側からの実際のニーズで出てきた例を今のテクノロジーでより洗練してやっていきます。実際教育の場でもある程度、不満の少ない格好でこれから実現できるのではないかということでまたお手伝いさせていただきたいという趣旨でございました。

    【神沼】
     ただいまのお話のシステムは、確か、クリントン大統領の提案で1996年頃に使われていたものですね。それから、ちょうど5年が経ち、最近では、ネットワークを利用して、e-learningを使った教育も非常に進み、先生方もお慣れになっていると聞いています。アメリカでは、今では、ネットワークを利用した通信教育を、いろいろな学校の50%近くが、実際に計画しておられるという情報を得ているのですけれども、日本はとてもそこまでいっていませんね。例えば、そういうことを計画されているという富士通さんにシステムを作っていただけるということは非常にありがたいことです。その時に、本当に現場の先生方が(情報センターにいるとか、情報系にすごく興味をもっているとか、そのような技術を容易に使える人ではなく、)要求しているような使い易い環境(いろいろなフィールド実験が行われたもの)が作られるということが非常に重要だと思います。このような視点がないと、いつまでたっても、リソースの共有は難しいと思うのです。その辺のことをベンダーさんに要求したいのです。


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