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Seamlessな分散並列計算を支援する科学技術計算環境

  1. はじめに
  2. SSP通信基盤SCE
  3. 並列プログラム開発環境PPDE
  4. 並列プログラム実行支援環境PPExe
  5. COMPACS -SSPテストベッド -
  6. 現状とまとめ
  7. 参考文献
日本原子力研究所 計算科学技術推進センター
今村 俊幸
imamura@koma.jaeri.go.jp


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1.はじめに

 より詳細、複雑、大規模なシミュレーションの実行を求める科学技術計算分野の要求に応えて、これまでベクトル計算機、並列計算機等、高い数値計算能力を持つ計算機が開発されてきた。このような計算能力を背景として、科学技術計算は、生物化学、自動車、航空機、原子力産業等様々な分野で理論、実験と並んで重要視されるに至っている。

 しかし、科学計算をプログラム開発から計算実行、結果解析に至る一連の作業であると捉えた場合、高い数値計算能力を持つ単一の計算機だけでは解決困難な問題が存在している。例えば、シミュレーションの大規模化に伴い、プログラムの動作確認や結果解析の為に可視化処理が必須となっているが、大規模データの可視化処理には高い数値計算能力だけでなく高速な描画能力も必要とされる。また、プログラム開発においては、対話性が要求される。計算実行を考えても、一つの問題の中にベクトル処理向きの計算とスカラ処理向きの計算が混在しているようなシミュレーションが存在する。

 ギガビット単位の転送速度を持つ超高速ネットワークの普及により、処理特性に応じて複数の計算機を使い分けたり、同時に使用して互いに連携させることにより、これらの問題を解決する可能性を持つ新しい形態の科学技術計算が現実的になってきている。このような形態の科学技術計算を分散並列科学計算と呼ぶ。

 並列処理に係わる共通基盤技術の研究開発の一環として、平成7年度より並列プログラムをシームレスに開発支援する環境STA(Seamless Thinking Aid)[1-5]が開発されてきた。 更に、従来の単一並列計算機上で行われる並列科学技術計算ばかりでなく分散並列科学計算のような新しい形態の科学技術計算も対象とした環境SSP(Scientific Simulation Platform)がSTAを包含する形で構築されている。 SSPは 科学技術計算プログラムの一連の開発作業や実行に必要となる手順と消費される時間を低減し、利用者の途切れの無い思考を柔軟に支援することを目的としている。

このような目的を持つ環境を実現するためには、

  1. 個々の計算機上に存在するツール、利用者プログラム、アプリケーションの連携を実現し、容易な組合せを支援する通信基盤
  2. 互いに連携することによって一連の科学技術計算作業の円滑な遂行を支援するツール群が重要である。

 SSPは、通信基盤SCEにより 1.の解決を図り、その上に構築される2つの環境、すなわち並列プログラミング環境PPDE、並列プログラム実行環境PPExeにより 2.の解決を図っている。SSPシステム構成の概要図を図1に示す。 SSPは最下層に通信基盤SCEを配し、その上にSCEを利用し相互に連携可能なツール群を構築する形になっている。 これらを実現することにより、SSPでは次の2点

 A) プログラム開発過程での"様々なツールの利用"
 B) 分散する"様々な計算機資源"

に関して、利用者に意識させる事なく。また、プログラム開発時、プログラム実行時の重要なフェーズにおいて利用者の思考が途切れることのないSeamlessな環境が提供できる。

 本稿ではSSPの各構成要素である、SCE,PPDE,PPExeについて紹介していく。


図1 SSPシステム構成


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