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関東学院大工学部における早期合格者を対象としたe-Learningによる入学前準備教育


1. はじめに
 近年家庭にパソコン・インターネット加入の普及が拡大している。それに伴い、e-learning教材が各大学の授業に反映し普及していることもわかった。本工学部では従来より情報教育を重要視しており、入学前準備教育を利用して、パソコンへ馴染んでもらうことが有効ではないかと考えていた。5年前から入学前準備教育として推薦入試合格者、AO入試合格者(以下対象者とする)に工学部の教育に必要な基本的知識を再確認し、大学の講義にスムーズに入っていけるよう手助けすることを目的として実施している。従来は、紙面の数学・英語教科の課題を郵送で提供し、本学と添削作業のやりとりを数回行っていた。まだ入学していない対象者ということから、その進捗状況は、郵送の紙面教材を受領した段階で判断せざるを得なかった。しかしながら、e-learningの実施が可能であれば、リアルタイムに対象者の進捗状況も把握でき、激励メール等を瞬時に発信することも可能であり、対象者の質問にも即座に対応できる等、利点が数多くある。リアルタイムに教材へ取り組むことが出来る便利さを知ってもらう。また、対象者のパソコン環境がない場合も(1)高等学校での「情報」教科の必修教育により高校生がパソコンを使用できること。(2)高等学校にPCが設置され、高等学校側へ本学推薦合格者に対し協力を得て、高等学校環境で学習をしてもらうこと。(3)対象者の自宅が近隣であれば、本学に通学してもらい学習できる環境を整えること。これらの条件があれば、対応できると確信を得、入学前準備教育としてe-learningを導入することとなった。

2. e-learning環境の選択方法

 e-learningを実施するにあたり、環境についての検討を行った。イントラネット(本学にサーバーを設置)もしくはASP(webサーバー)で実施する選択について多くの業者を比較検討した。現在はASP利用の利点が多い。e-learningを利用している大学の大半は、大学で環境を整えなくてもトラブルがなく、セキュリティーもしっかりしていた実証がある。また、コストについても非常に効率が良いことがわかった。よって、e-learningはASPを利用することとなった。業者選択については、数社の中からe-learning教材が豊富で、他大学に導入している事例もあり実績のあるF社を選択した。

3. 実施教科、実施時期及び実施に向けての方策及び本学説明会

(1)実施教科
英語・数学・物理の3教科で、対象者へ講義映像も配信できるコンテンツを用意した。
(2)実施時期
1月〜4月(12月中旬からID配布後、お試し期間あり)
(3)実施に向けての方策及び本学説明会の実施
  • 12月にID及び説明書類をDMで発送
  • 例年どおり本学で数学・英語・物理の入学前授業を実施しe-learning操作説明会も実施。ここで、12月にDMで発送時4項目のアンケートを発送し、その結果、パソコン環境なしの対象者に個別に対応策を協議する。
  • 1月に自宅へパソコン環境がない対象者への対応も含め、例年実施していた説明会(e-learning操作説明を含む)を大学で開催
4. パソコン環境調査及びパソコン環境がない対応方法
 対象者476名に対し、12月にID及び説明書類をDMで発送した際、PC環境のアンケート調査を行った。

(1) PC環境あり(87%) (2)PC環境なし(13%)

 インターネットへ接続できるパソコンの保有率は全体の87%と高く、PC環境にはさほど問題ないといえたが、対象者へ大学で説明会を実施する前にPC環境調査をまとめたことで、パソコン環境がない対象者に対して説明会当日以下を確認し対応を行った。

(1)高等学校の協力を得られる
(2)図書館や公民館その他でパソコンの使用環境がある
(3)自宅が近隣であり本学に通い学習できる
(4)紙面の学習を希望する

 対象者と協議の結果、大半の対象者は、高等学校へパソコン使用協力を得ることで進めることとし、大学側から高等学校長宛協力依頼を郵送した。また、電話で直接協力依頼をお願いしたところ、ほとんど快諾を得られた。これによって、紙面の学習希望をした対象者は、最終結果として1.4%(7名)まで軽減した。

5. 魅力あるe-learning方法及びe-learningの学習フォローアップについて

 e-learning導入は、対象者がマイペースで学習できるメリットがある。しかし、3教科を学習するにあたり、苦手分野をどのような方法で克服できるかを考え選定した。

(1)対象者がWEB上で問題を解くよりも映像で説明された方法がわかりやすいと考え、教材を講義映像の解説付きにした。
(2)対象者個々の学習進捗状況をリアルタイムに把握し、達成率の低い対象者へ激励メールを配信する。
(3)学習期間を1月〜4月とし、入学後1ヶ月間ではあるが、必修科目のフレッシャーズセミナ科目で教員から学習フォロー及び学生支援室のチューター(高等学校を定年した教員)からの学習フォローを大学入学後でもできるよう設定期間を延長した。また、大学入学後、大学環境のパソコンで指導・学習が出来ることもメリットと考えた。
(4)対象者へQA(質問及び回答)サービスをリアルタイムに対応できる。また、学生個々の学習の進捗状況もリアルタイムに把握でき、学生からの質問に回答する際、学習状況を確認し、その状況に応じた対応を行なう。
(5)WEB上のサービスでも対応が出来ない想定で、電話のQA(質問及び回答)対応も用意する。
(6)学習フォローアップを外部業者、工学部事務室と連携を図り対応によっては、本学教員の協力を得る。
(7)学習しない学生への対応として、DMの発送を2回用意し、アクセス後のフォローアップ充実の説明を周知する。
(8)学習を達成した対象者へ、WEB上で教科の学習期間や内容を次年度用にアンケートを実施する。

6. 実施状況

 実施期間及び対象利用者は以下に示すが、4ケ月間での利用率で達成者は93.1%と成果が挙げられる。なお、6.9%の学生については、4月に呼び出しで学習を促した。下記に示すグラフは、教科別利用状況である。全教科別に示しているが2月中旬から3月末日にかけ集中して利用をしていたことがわかる。また、4月の1ヶ月を利用延長したことで、復習や達成途中の利用者がいたため4月に入っても継続して学習ができている結果が得られた。これは入学後1ヶ月であるが、大学環境で学習ができ、教員・学生支援室のフォローがあったことでも成果と思われる。

 実施期間:2006年12月25日〜4月末日

 ※学習に不安がある。もしくは、完了していない対象者のために4月末まで利用期間を延長。
(1)対象者:476人
(2)3/28現在で利用者数:438人/476人=92.0%
(3)4/30現在で利用者数:443人/476人=93.1%
(4)Q/A件数:134件程度


グラフ1
[拡大図]

7. 入学準備前教育後の成果及びフォロー体制

 工学部では、入学者へ4月のオリエンテーション期間にプレイスメントテストを実施している。教科は、英語・数学・物理である。今回は入学準備前教育対象者に対して成果が上がったか確認をした。その結果、昨年より平均点が上昇した。特に英語は、昨年よりも顕著に平均点が上がっている。その要因はe-learningによる学習と判断した。特に英語は、1月の大学開催説明会で対面学習も行われ、e-learningと対面学習のブレンデットランニングの成果も一因であるだろう。

 パソコンの操作方法がスムーズに入れたかの判断は、4月初めにWEB履修登録を実施しているが、操作説明会を教務課が独自に実施しているが参加者も少なく質問もほとんどなく履修登録ができた報告があがっている。対象者がパソコンを使用する際、違和感なく操作できた結果がでている。

 フォロー体制については、プレイスメントテスト結果で一定の点数に達していない学生へフォローアップとして、共通科目の卒業要件に算入する補正授業科目「英語基礎」「数学基礎」を設置し受講させている。それらの課題等も英語の一部でe-learningを採用している。そこでもスムーズに学習へ取り組むことができ、e-learningの成果と考える。それと同時に課題をこなすために、学習支援及び学生支援室で高校教員OBのチュター制度を設け、対面教育とe-learningの両方で対応し、ここでもブレンデットランニングを実施し手厚いフォローを行うこととした。

8. e-learningのデータによる副次効果

 リアルタイムの学習進捗状況により、4ケ月間の学習の進捗状況やテスト結果をグラフ2に示した。進捗率で学生個々の学習タイプ(一夜漬けタイプやコツコツタイプ等)も判断できる。学習スタイルは、急激に変化するものではない。入学後の学生の学習アドバイスや離脱者対策に有効であると思われる。これもe-learningならではの成果である。


グラフ2
[拡大図]

9. 今後の課題

 次年度の課題として、本学の説明会及びe-learning学習の時期は、高等学校から早い段階でできることが望ましいとの要望もあり、推薦入試終了後12月に実施を予定したいと考える。また、説明会ではe-learning学習の操作説明を実施したが、実際にパソコンへログインさせていなかったため、ログインにかかわる質問もあった。次回は説明会時にログインをさせてパスワード変更を実践させたい。フォローアップのQAサービスを今年度の多かった質問として次年度に示していく必要もある。

 入学前準備教育の課題内容については、対象者へ100点を取らせことが目的ではなく、大学に入学してから授業がスムーズに受けられる基礎スキルの向上が目的であるが、対象者へ学習の終了条件を明確にしておかないと、対象者にゴールが見えず、学習意欲がわかないといった学生も見受けられるため、次年度の課題としたい。

10. まとめ

 工学部のe-learningにおける入学前準備教育は多少課題もあるが有効に利用できたと認識した。いろいろな配慮をすることで、学習サポートを含めフォローアップが出来たことは、コンテンツならではの成果と確信する。

 前年度まで数年行なっていた紙面郵送の添削による入学前準備教育との違いは、リアルタイムに進捗状況がわかることで、良いタイミングで激励メールを配信でき、対象者がやらざるを得ない状況にできたことである。

 1〜2週間おきにログイン状況を確認し、学習してない対象者へダイレクトメールを良いタイミングでだすことも可能であり、有効であった。それらも学習率がUPした要因と確信している。また、入学後の1ヶ月間大学で復習できることも有効であったと見受けられた。入学後本学で授業に採用しているLMS(Learning Management System)へ、スムーズに移行できた。

 本年度実施したe-learningにおける入学前準備教育は、数多くのメリットがあったことはもとより、入学前の対象者とWEB上のコミュニケションが持てたことも成果として報告し、まとめとする。


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