News Letter「ネットワークセキュリティと紛争処理」(2/8)

  目次   |   先頭   |   前へ   |   次へ  

 
1. 刑事責任の原則と民事責任
 
一番目に、刑事責任の原則と民事責任の原則ということで、極々当たり前のことでありますけれども、刑事責任の場合、あくまでも基本になるのが、故意責任である。 従って犯罪錫証、あるいは犯罪の対象被害者等々、あるいはシステムを認識し、これに対して侵害行為を行っていくということが基本になってくる。 過失犯罪の処罰というのは刑事法においては基本的には例外現象と考えておられて、故意犯の規定というのは山ほどありますけれども、過失犯の規定というのは構成要件で明確に規定されているものだけが過失犯になるという形になっております。 従って原則は故意犯、例外は過失犯ということになる。 更に、刑事責任の根拠としては、法益侵害といった客観要件、故意というような主観的な要件がどうしても必要になって参ります。 その意味では、従来から客観的な違法と主観的な違法、という事が議論されて参りました。 従って、管理者の皆さんには、この故意責任というのはあり得ないわけです。 よほど、ある指導者が自らサーバを管理して「攻撃せよ」と言ってサーバを管理している場合は故意責任が出てくるのですけれども、それ以外の場合ですと、通常、故意責任というのは出てこない。 では、過失責任ということがあり得るのか、注意義務違反ということがあれば、刑事法の成立の可能性が皆無というわけでは無いだろうと理論的には言えると思います。ただ、構成要件があるのでしょうか、ということで言いますと、現段階ではハッキリとした形、例えば過失傷害罪ですとか過失致死罪という様な犯罪形態の様にハッキリとは、規定されていないと理解しているのであります。 従って、不正アクセスについても、実は過失で不正アクセスする可能性というのは、どうもあるようです。 具体的な実例としては、知らない間に何かが動いてアクセスしてしまうという様なことも中にはあるのかもしれませんが、非常にリアルな意味では故意犯と限定していって良いであろうと考えております。 そういう意味では、刑事犯の故意責任の原則というのがあります。 これに対して、民事責任というのは、あまり詳しく書いてありませんけれども、民事責任は故意責任も過失責任も両方あります。 むしろ故意と重大な過失というのは、ほとんど境界線上にあると言えます。重大な過失と、通常の過失というのは、本当に区別出来るのか、と言うと、正直申し上げて私にはハッキリ区別できません。 そうしますと、民事の世界ですと、権利侵害というのが客観要件になって、主観要件としては、故意から重大な過失、通常の過失、軽過失というところまで全てをカバーする様な主観的な落ち度あるいは主観的な違法性というところで理解されるということになって参ります。 従って、私たちが通常の民事訴訟起こす場合には、故意または過失により、といういい加減な書き方をして訴状をおこさせて頂いております。 要するに私には判らない、あなたがどういう気持ちで攻撃をされたか良く判らない、しかし、いずれにせよ、お前はここに来ていたずらしたのだから、故意もしくは過失によって人に損害を与えた。 で、民事の場合、損害があるかどうか、と、行為と損害の間の因果関係があるか、というのが最大のポイントであります。 従って、あまり主観要件に拘泥されるということは無い、ということです。

ちょっと視点が違いますが、最近ホームページとか掲示板で企業に対する猛烈な書き込みが成されるし、大学の先生あるいは研究者の皆さんに対しても猛烈な罵詈雑言を掲示板で書く、という様なことが起きております。 それに対してどう対応したら良いのだろうか、私に相談してきた人には、名誉棄損だとか業務妨害になる時には是非警察庁にご相談に行ってみてください、と振ってるものですから、大変迷惑をされているかもしれませんけれども、大変難しい問題がございます。 それで、民事訴訟でやれるのか、という様なことを良く言われるのですが、今申し上げた様に、故意とかいうのは余り問題なく、むしろ損害が発生しているのかという問題と、それから、因果関係があるのかというのが、これは大変難しい議論です。立証はものすごい困難だと私は理解しております。 ですから、実はものすごい数の企業妨害に対するご相談を受けているのですが、現時点まで私自身は一つも提訴に至っていません。 立証できるという自信のある事案というのがまだ私の手元に無いものですから、それについては、明確な損害と因果関係というのが、民事事件の場合は、大変重要になってくる。 逆に言いますと、先生方または管理者の皆さんが民事訴訟の被告になるといった場合には、故意/過失の問題は管理者としては出て参りますが、被害が本当に出たのかという問題、そして被害が自分のところから発しているのか、あるいは踏み台になって元々因果関係の中間地点でしかないのか、という辺りが、大変重要な問題になってくると一般的には思うわけです。

©Jiro Makino 2001

  目次   |   先頭   |   前へ   |   次へ  
 
All Rights Reserved, Copyright© サイエンティフィック・システム研究会 2001