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VPP5000による乱流の直接数値シミュレーション


  1. はじめに
  2. 計算対象
  3. 計算手法及び計算条件
  4. 計算結果
  5. 結論
  6. 謝辞
写真
東京理科大学
理工学部機械工学科
河村 洋
kawa@rs.noda.sut.ac.jp

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1. はじめに

 乱流はその複雑さのために従来から未だ十分に解明され得ない現象の一つとされてきた。乱流の複雑さの最も大きな原因は、乱流渦の多重性と相互作用にある。たとえば、火山の噴火にともなう巨大な噴煙を見ると、大きな凹凸の中に小さな凹凸があり、その中にさらに小さな凹凸があるという風に、多重に入り組んだ構造になっている。これが乱流渦の多重性の典型的な例である。庭の焚火やタバコの煙程度では、このような多重構造は現れない。流れの規模が大きくなればなるほどこの多重性が顕著になるというのが乱流の特徴である。乱流といえども、それを記述する基礎式は知られている。それらは、物質の保存に関する「連続の式」と運動量の保存に関する「ナビエ・ストークスの方程式」である。にもかかわらずコンピュータ上で乱流を解くことが困難なのは、上述の乱流渦構造の多重性にある。すなわち、噴煙全体の運動も個々の小さな乱流渦の運動と強く関連している。というのは、乱流運動のエネルギーは、平均流からまず大きな渦に伝えられ、次に次第に小さな渦へと伝えられて最終的には熱エネルギーとして散逸される。そのため、どうしても小さな乱流渦までを計算しなくては乱流運動のエネルギーの流れを完結させることができないのである。これが乱流のシミュレーションが莫大な計算量になる理由である。もっとも、小さな渦といっても無限に小さな渦まで存在するわけではなく、渦の大きさには下限があり、これがいわゆるコルモゴロフスケール(η)である。そのためこのスケールまで数値計算のメッシュを細かく切り、十分高精度な数値スキームを使用すれば、乱流といえども数値的にシミュレートすることができる。厳密に言えば、数値的に乱流を再現する際には、計算領域による影響をなくすために、平均流により励起される大きな渦を十分に捉えるほど大きな計算領域を設定しなければならない。これが乱流の直接数値シミュレーションすなわちDNS(Direct Numerical Simulation)である。
 乱流のDNSは、レイノルズ数が低くかつ流れ場の形状の単純な場合に限って可能になってきたものの、レイノルズ数が高くかつ形状も複雑な実用的な流れは取り扱うことはできない。そこで、大きな渦のみを扱い乱流エネルギーの散逸プロセスはモデル化して近似的に扱うのが、k−εモデルに代表される乱流モデルの手法である。この中間に、メッシュをできる限り細かく切るが、それ以下のスケールの渦におけるエネルギー散逸はモデル化しようというアプローチがある。これをLES(Large Eddy Simulation)と呼んでいる。
 最初の乱流のDNSは、すでに1972年にOrszag(1)によって一様乱流(空間的に一様で固体境界のない仮想的な乱流)について行われた。メッシュ数(フーリエモード数)は32×32×32で、これは現在ならパソコンでも実施できる規模である。固体壁に接するより複雑な乱流については、平行平板間乱流に対して、Kimら(1987)(2)が最初にDNSの結果を発表した。彼らの計算のレイノルズ数は、平均流速と等価直径に基づくレイノルズ数で5,600であった。レイノルズ数とはいわば、流れの平均流速に関する無次元数で、平均流速が大きくなるほどレイノルズ数も大きくなり、前述の乱流渦の多重構造も複雑になる。平行平板間の流れが乱流に遷移するのはレイノルズ数が約3,000〜4,000である。したがって、最初のDNSが行われたレイノルズ数5,600という乱流は、層流から遷移したばかりのいわば幼い乱流ではあるが、対数速度領域も存在し、壁乱流としての特性を十分そなえた流れが、コンピューター上に再現された。
 現在までに行われている乱流のDNSのレイノルズ数が低いのは、レイノルズ数が高くなるにしたがって、乱流渦の多重構造が複雑になるために、より小さな渦まで存在するようになり、それを解像するためにより多数の計算メッシュ数を必要とするからである。本研究の対象となる、平行平板間乱流についてこれまで行われた最高のレイノルズ数は、我々のグループ(3)が1998年に達成した24,300である。この値は、最初に行われたDNSのレイノルズ数の約3倍でこの十年間の進歩としては、比較的遅々とした歩みである。これは、レイノルズ数が大きくなるにつれて必要なメッシュ数が急激に増大することによる。流れのレイノルズ数に対して必要なメッシュ数を推定したのがFig. 1である。この図からわかるように、たとえば、レイノルズ数が100,000という実験では標準的なレイノルズ数の流れを考えると、必要なメッシュ数は2×109程度のメッシュ数が必要で、これは約1TB(テラバイト)のメモリー容量に相当し、現在これを満たすコンピュータは存在しない。
 そこで、本研究では、VPP5000を用い現状の計算機の性能を限りなく使用して、更に大規模な計算を行うことを目的とする。本報告書では、この計算の計算状況を、NWT時の計算と比較して報告する。


Fig. 1 Development of DNS for turbulent channel flow


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