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千歳科学技術大学における「学生による学生のためのe-Learning」
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1. はじめに
本大学では,平成16〜18年度採択された現代的教育ニーズ取組支援プログラム,テーマ6:ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning,以下eL)をきっかけに,全学的にeLプロジェクトが進められている.本プロジェクトの柱は,高校での情報導入に伴う大学初年度教育での情報処理の能力の多様化に備え,情報実習系および情報講義系科目全てのe-Learning化を図ることと,専門教育課程での実践的なITスキル教育への社会的要請に応え,情報キャリアアップ科目を開設することであった.19年度に入り,情報講義系科目以外にもe-Learningを取り入れた科目が増えつつある.こうしてe-Learningを介した全学情報教育の共有化が行われてきた. 2. CIST-Solomon 2.1. 概要
本学では平成12年より独自でeLシステム(CIST-Solomon)およびコンテンツ開発が行われており学部教育課程での実証評価が行われてきている(1)〜(5).現在のCIST-Solomonは,中学・高校・大学を対象として作られた基礎学力向上のための学習システムとなっており,北海道の高校を中心に約30校以上の高校でも利用されている(9).また,他大学でも,リメディアル教育を中心に,入学前教育・初年次基礎教育などで活用されている. 2.2. 教科書・演習
CIST-Solomonでは学習コンテンツとして,教科書コンテンツと演習(ドリル)コンテンツが扱える.これらのコンテンツはすべてSCORM対応であることが条件である.教科書・演習は1対1対応しており,両者とも,大カテゴリ(大学数学・高校情報などのカテゴリ),中カテゴリ(科目名であることが多い)から選ぶようになっている.教科書にはあらかじめ「関連する教材」として登録されている,その教科書の内容に関連した演習問題を選んで学習することができる.演習側からも同様に関連する教科書を閲覧することが可能である.ログインした学習者は,提供されているすべての教科書・演習コンテンツを自由に学習することができる. 2.3. 課題
演習モードでは学生がドリルを自分の進度に合わせて能動的に解答できるのに対し,この課題モードでは,教師が達成率を100%にする期限を学生に与えることができる. 2.4. CT
学習者と教師,学習者同士のコミュニケーションのためのメニューである.教師は掲示板を立てることや,レポート課題を出すことが可能である.学習者は教師への質問をすることが可能である. 2.5. コース
教師は,CIST-Solomonの中のコンテンツを自由に組み合わせて一つのコースをつくることが可能である.コースに登録された学習者は,教師の設定した細かいスケジュールに従って,その期間与えられた教科書・ドリルコンテンツの学習を進めることができる.また,教師はCTでレポートを出すのとは別に,コースの一環としてコンテンツの学習状況に合わせて適宜レポートを課すこともできる.コース登録者の学習状況を,教科書閲覧状況,ドリル達成率,レポート提出状況を一括してみることも可能である. 2.6. 学習状況
学習者は,自分の演習の成績やランキング,教科書の閲覧履歴等を確認することができる. 3. コンテンツの開発
映像以外のコンテンツのほとんどはFlashを用いて作成される.以下,コンテンツの種類ごとに詳細を紹介する. 3.1. 教科書(テキスト)・アニメーション
テキストのほとんどは,学習者がボタンをクリックすると少しずつ表示されるように設計されている.これは,最初に作成されたリメディアルを目的とした数学のテキスト作成時に,高校教諭からのアドバイスによるものである. 一方HTML文書のものもある.これは学部2,3年生を対象にしたJavaプログラミングを学習するコンテンツである.テキストの内容が一度に表示され今読んでいる部分に集中できないという欠点もある反面,何度も復習する際に自分の見たいところをすぐに見ることができるHTML形式を採用した.
3.2. ドリル
ドリルもFlashを用いて作成される.ドリル作成には初期に作成されたドリルのパターンがテンプレートとして用意されており,基本的にはそのテンプレートに従って作成をしていけばよい.ドリルは図3に示すように,学習者が解答して送信ボタンをクリックすると採点が行われ,左上の問題番号に○や△,×が表示される.各問題のテンプレートは,学習者が問題を読み,解答をして自己採点をするという流れを実現できるように作成されており,作成者は,問題文,解答形式に合った項目,ヒントを入力すればよいように設計されている.解答形式が選択式であれば空白部分・選択群・正解・ヒントを入力すれば,一連の流れを実現できる.ドリルコンテンツの開発は,既存のテンプレートを用いる場合には比較的単純作業となるが,新たなテンプレートを作成する場合にはある程度の開発期間を要する(これに関しては4節で述べる). 3.3. 映像
映像教材は,授業の代わりとなることもできるコンテンツである.実際の授業を収録したものを編集するというものではなく,専用にシナリオを作成して撮影・編集を行なっている.CIST-Solomon上にある教科書の中で以下に示す教材のみが映像コンテンツを含む. 3.3.1. 数学のための英語
外国人教員による大学生を対象とした英語教材.アメリカの小・中学の算数教材を使い,数字や四則演算などをテーマに10レッスンほどある. 3.3.2. 科学技術に役立つ英語
外国人教員による,大学生および大学院生を対象とした英語教材.英語のための英語ではなく,英語を使って技術に役立てる.映像で,英語による口頭発表の仕方を中心に講義している.この科目ではドリルでもイギリス人の先生を招いて,映像教材の内容の正誤を問う問題をリスニングテストを兼ねて行うことができる. 3.3.3. Javaプログラミング学習用コンテンツ
筆者の研究室で開発している,学部2〜3年生を対象としたJavaプログラミング学習用教材(2)〜(5).作成にあたり,今まで表現しきれなかった,授業の導入部分における,オブジェクト指向・メッセージパッシング・インスタンスの生成といった概念,そして継承の概念等,オブジェクト指向特有の概念を表現するために,シナリオ作成の段階からさまざまな工夫を行った.それによりテキストやホワイトボード,コンピュータ等を使っても説明しきれないイメージを伝えることもできるようになった. 3.3.4. PCマエストロ
高校・大学生を対象とした,Microsoft Word, Excelなどのアプリケーション学習用コンテンツ(PCマエストロ(6)(7) をCIST-Solomon用に作成しなおしたもの)である.詳細は4節で述べる. 3.4. 音声教材
音声教材はFlashを用いて作成される.教師が吹き込んだ音声とテキストを連携して表示させることが可能である.テキストを目で読むだけに比べ,音声が入ることで学習者を集中させることができる.ドリル同様テンプレートが用意されており,基本的にはそのテンプレートに従って作成をしていけばよい.CIST-Solomon上にある教科書の中で以下に示す教材のみが映像コンテンツを含む. 3.4.1. 情報講義系科目
映像教材は,授業の代わりとなることもできるコンテンツである.実際の授業を収録したものを編集するというものではなく,専用にシナリオを作成して撮影・編集を行なっている.CIST-Solomon上にある教科書の中で以下に示す教材のみが映像コンテンツを含む. 3.4.2. 光科学概論
光の基礎について,物理系教員による解説が行われている. 3.4.3. Flash学習コンテンツ
Flashを学習するためのコンテンツ. 4. コンテンツ開発プロジェクトの枠組み
コンテンツ開発は,特定のコンテンツを除き,プロジェクト・メンバーと呼ばれる学部2,3年生の有志メンバーによって開発が行われている.以下,本学の情報メディア教育センターにおけるプロジェクト・メンバーの位置づけ,各コンテンツの開発について述べる. 4.1. 学生アルバイトの体制
情報メディア教育センターは,図4に示すように情報システム課とメディア教育推進室に分かれており,学生アルバイトはそれぞれの機関の下に配置されている. 4.2. 教科書・ドリルコンテンツ開発
テンプレートのある教科書(音声教材含む)・ドリルについては,プロジェクト・メンバーを中心に開発が行われている.19年8月現在,CIST-Solomon上の総コンテンツ数は3節で述べた科目を含む12,000になる.大学生を対象とした科目は通常,担当教員がコンテンツ素材を作成する.これは,手書きでもよし,イラストでもよし,形式は自由である.その素材をベースに,プロジェクト・メンバーがテンプレートに沿って作成していく.できあがったコンテンツはメディア・コンサルタントがチェックし,担当教員の最終チェックを受けてアップロードされる.その他,特殊な科目について以下で述べていく. 4.2.1. 化学
有機化学の分子構造などを学習者がマウスで動かせるような3次元のアニメーションについては,メディア・コンサルタントの指導のもと,プロジェクト・メンバーが制作した.素材は本大学の科目担当者が提供した. 4.2.2. TOEIC対策コンテンツ
現在はTOEIC700点までのコンテンツが整備されている.このコンテンツはMACMILAN LANGUAGEHOUSEから出版されているPRISM(8)を用いて教材を作成している.高校生には非常に人気の高いコンテンツである.教科書では,長英文のイメージを最初にアニメーションで表し,概要を掴むのに役立たせる.英文に対応する日本文を表示させたり,進出単熟語の解説,ネイティブスピーカーによる長文リスニング,また,一分間に読める単語数を数えるスラッシュ・リーディングの機能も備えている.このコンテンツは特殊だったため,プロジェクト・メンバーではなく,英語の得意なプロジェクト・メンバー出身の4年生1名と情報メディアセンターのスタッフ1名を中心として計画を立て,実働はプロジェクト・メンバーが行った. 4.2.3. Javaプログラミング学習コンテンツ
Javaプログラミング言語学習コンテンツ開発は教科書・ドリルともに筆者の研究室内で行っている.学部3年生対象のJava入門の授業「ソフトウェアデザイン」は,このコンテンツをもとに平成16年度の対面式授業,17年度のブレンド型eL形式の授業,18年度の完全eL形式の授業と授業形式を変えて行なった(1)〜(6).平成16年12月から17年3月にかけてCIST-Solomonの仕様に合わせて既存コンテンツの再開発を行った.教科書・アニメーション・ドリルは筆者の研究室において学部2〜4年生12名と大学院生2名で開発を行った.映像コンテンツについてはシナリオ作成,監督,出演を筆者が行い,製作および撮影・編集は,映像専門の研究室の教員と学生4,5名が行った.開発期間が非常に短かったため,第1〜3回の授業分のための映像は3月中に完成したが,それ以降は授業に間に合う形で順次準備するという形となった.映像は実際の授業を収録したものを編集するのではなく,本コンテンツ専用にシナリオを作成して撮影・編集を行っているため作成にはかなりの時間をとっている(5).全コンテンツを約4〜6ヶ月で自前で開発を行ったのであるが,既存のコンテンツがあったからできたことである.かなりタイトなスケジュールであったことは否めない.0から作るのであれば1科目のコンテンツ開発にはできれば1年間を費やすのが望ましいだろう. 4.2.4. PCマエストロ
PCマエストロは3.3節で述べたように高校・大学生を対象とした,Microsoft Word, Excelなどのアプリケーション学習用コンテンツであり,単独でインターネット上に公開されている.これはWord, Excel, ExcelAdvanced, PowerPoint, HTMLとプラスαのバージョンから成っている.各バージョンはそれぞれ10ステップからなっており,各ステップは5分前後の映像とFlashによるアニメーション教材から構成される(6)(7).15年度より開発が開始され,最初のWordバージョンは,映像教材は映像専門の研究室の学部4年生1名(補助スタッフ数名)の卒業研究として開発された.開発の詳細は次節で述べる.またアニメーション教科書は,学部3年生3名により,約1年をかけて制作された.このバージョンはその後につくられたすべてのバージョンの基礎となっている.イメージキャラクタをはじめデザインもすべて学生のオリジナルであり,学生の潜んだ可能性を最大限に引き出されたものであると感じる.その後,各バージョンは,映像に関しては同様に映像専門の研究室の学部4年生の卒業研究となり,アニメーション教材は,筆者の研究室の学部4年生の卒業研究になったものや,学部2,3年生によるもの,情報プロジェクトの活動によるものがある. 4.3. 映像コンテンツ開発
3.3節で述べた映像については,撮影・編集は,映像専門の研究室の学生が中心となって行っている.製作総指揮を研究室教員が担当している.英語教材については,シナリオ作成・出演は担当教員が1名ずつと,メディア教育推進室のスタッフ1名が行う.一科目平均10レッスンで,1レッスンあたりの映像時間は5分前後となっている.JavaプログラミングやPCマエストロについては,シナリオ作成・出演・監督は筆者が行っている.映像教材の開発工程を筆者が行ってきた経験を中心に以下に示す. 4.3.1. シナリオ作成
全体の流れを意識しながら,その回のエッセンスが5分から20分以内に収まるようにせりふを作成する.例プログラムなども用意し,編集者に対するテロップの指示や映像のアニメーション等の指示も記載する.作成時間は科目や慣れにもよるが,1レッスンあたりどんなに慣れても平均1〜2時間はかかるだろう.プログラムの説明が入るともっと時間がかかる. 4.3.2. 撮影
5分から20分の映像コンテンツの作成にかかる撮影の時間は,スタッフや出演者が慣れてきた現在でも1時間から2時間である.平成16年秋にスタジオ(メディア・ラボ)が新たにできたため,飛行機の騒音等による中断がなくなった分,それまでよりは3割ほど短縮されたものの,慣れるまではかなりの時間がかかった事実もある.また,スタジオ専用の部屋ではないので照明器具やカメラなどは撮影のたびにセットしなければならず,準備時間・撤収時間を合わせると実際は1時間弱余分にかかる.これはどの科目でもほぼ同様である. 4.3.3. 編集
編集はAdobe Premiere Proを使って行っているが,まず撮影したカメラからコンピュータ上にデータを移すのにほぼ1日,最初の編集には慣れていても3〜4日の時間を要する. 4.3.4. 編集チェック
編集チェックは出演者を中心に,コンテンツのテキスト,アニメーション,ドリルの作成者を交えて行う.テロップの語句の誤字脱字とフォントや色のチェックから,インスタンスの生成の動き等がこちらのイメージ通りになっているか,画面の切り替わりのタイミング,プログラムとの整合性などチェック項目はかなり多い.最初のチェックにかかる時間は出来上がった映像の5〜10倍ほどの時間を要する.つまり20分の映像ならば2〜3時間かかるということである.第1回目のチェックの手直しには1〜2日の猶予をみる.2回目以降は直した部分のみのチェックであるが,完成までには平均2,3回の手直しを行う.手直しの量は回によって異なるが,やはり最初の数回分(導入部分,プログラムの説明,継承分)では,手直しに1週間ほどかかっている. 4.3.5. サーバへアップロード
映像コンテンツは,編集チェックをすべてクリアするとサーバへアップロードされる. 4.3.6. 総合開発時間
以上総合すると,撮影スタッフは最低3名,編集は一人でもできるので,映像教材については1科目を4年生の卒業研究とするのが定番となっている.余裕があれば1年に3科目分ほど作成した学生もいた.映像コンテンツ自体の数は少ないが現在では毎年平均2〜3本以上できているペースとなっている. 4.4. ドリルテンプレートの作成
4.1節で紹介した「情報プロジェクト」の活動として,プロジェクト・メンバーがテンプレートにしたがってただコンテンツを作るのではなく,コンテンツ作成にあたり「ドリルやテキストにこんな機能があればよい」という自らの意見を反映して,テンプレート自体を作り上げていくことが多い. 5. システム開発
CIST-Solomonのシステム開発は,情報系研究室が中心となって開発されている.このシステムは,通常のe-Learningシステムとほぼ同等の機能を有している.特に理工系の知識の確認を行いやすくするという意味で,幾つかの工夫がなされている.学内および高大連携校,および教師側からの苦情や要望などを取り入れながら日々改善を重ねている. 6. 学生の隠れた可能性
学生は最初にユーザとしてCIST-Solomonに触れ,自分が開発者だったら「こんな機能がほしい」「こんな機能は要らない」という構想を抱いて開発者の一員となってくる.学生にとっては,自分が学んだ科目についてのコンテンツ作成がほとんどであるため,教材として何が必要かを認識している.このようなことから,教師と違う観点から教材をつくる. 7. おわりに
ユーザとして自ら学びつつ,開発者としても成長していく本学のコンテンツ開発の様子を中心に,本学のe-Learningへの取り組みについて紹介した.さらに19年度には先導的教育情報化推進プログラムの採択も決定し,本学と高大連携している千歳市内を中心とした小中高と共同で,理数科教育コンテンツの共有化を行っている.そのほか,北星学園大学と共同で,一般教養(心理学)などのコンテンツを開発する予定もある. 参考文献
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