[目次] [1ページ目] [前ページ] [次ページ] [質疑応答]

千歳科学技術大学における「学生による学生のためのe-Learning」



  1. はじめに
  2. CIST-Solomon
  3. コンテンツの開発
  4. コンテンツ開発プロジェクトの枠組み
  5. システム開発
  6. 学生の隠れた可能性
  7. おわりに

論文(PDF版) PDF file[332KB]
プレゼンテーション資料 PDF file[1.2MB]
写真

写真
千歳科学技術大学
高岡 詠子


[アブストラクト]
千歳科学技術大学では,平成12年よりe-Learningシステム(CIST-Solomon)およびコンテンツの開発を行い,学部教育課程での実証評価を行ってきた.システムやコンテンツ開発は,大学の情報系研究室を中心に独自に行われている.本学には,入学後すぐにCIST-Solomonに触れる新入生が学年が進むにつれ,ユーザとして自ら学びつつ,開発者としても成長していくための枠組みが存在する.今回は,その枠組み,および学生のシステムやコンテンツの開発の様子,そして学生に潜んだ可能性が引き出されていく様子を中心に,本学のe-Learningへの取り組みについて紹介する.

[キーワード]
e-Learning, コンテンツ開発, 学生, 情報系


1. はじめに

 本大学では,平成16〜18年度採択された現代的教育ニーズ取組支援プログラム,テーマ6:ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning,以下eL)をきっかけに,全学的にeLプロジェクトが進められている.本プロジェクトの柱は,高校での情報導入に伴う大学初年度教育での情報処理の能力の多様化に備え,情報実習系および情報講義系科目全てのe-Learning化を図ることと,専門教育課程での実践的なITスキル教育への社会的要請に応え,情報キャリアアップ科目を開設することであった.19年度に入り,情報講義系科目以外にもe-Learningを取り入れた科目が増えつつある.こうしてe-Learningを介した全学情報教育の共有化が行われてきた.

 本大学のe-Learningコンテンツの作成の一つの特徴として,科目教員と学生の密な連携体制があげられる.実際にコンテンツを作成する学生のスキルは多伎にわたっており,2年生から4年生,修士課程の学生が行っている.新入生は入学と同時にe-Learningを使った授業をユーザとして体験する.2年生になると,プロジェクト・メンバーという形でコンテンツ作成に興味を持つ学生を募集する.プロジェクト・メンバーは,3年生から技能を伝授され,自らが3年生になったときには次のプロジェクト・メンバーに教える立場となる.3年生は情報系研究室の4年生,大学院生から技能を受け継ぎ・・・というつながりができている.

 本論に入る前に,本大学のコンピュータ実習室環境を示す.コンピュータ実習室は,PC教室,LLC教室の2教室が隣り合っており,各教室に80名を収容できる.LLC教室は語学教室も兼ねており,学生用コンピュータの画面は切り替えスイッチで教卓にあるコンピュータのディスプレイのイメージを学生の80台全体に配信できる. 2教室ともWindows XPとLinuxOSのデュアルOSであり,学生のアクセス認証およびファイルシステムはNIS(Network Information Service)およびNFS(Network File System)によって統一管理されており,どちらのOSからも学生個人のファイルシステムにアクセスできるようになっている.実習室以外にも図書館の2階に45台ほど,授業の行われる本部棟とは別棟の研究棟にも20台ほど同じ環境のマシンが設置された部屋があり,学生は自由に使うことができる.

 20年度からはコンピュータ実習室は10周年記念棟に移動し,OSもWindowsはVistaに移行する.教室のコンピュータ台数は変わらないが,図書室にあるものの代わりに新棟にはグループ学習室(50台設置予定)がつくられる.



2. CIST-Solomon
2.1. 概要

 本学では平成12年より独自でeLシステム(CIST-Solomon)およびコンテンツ開発が行われており学部教育課程での実証評価が行われてきている(1)〜(5).現在のCIST-Solomonは,中学・高校・大学を対象として作られた基礎学力向上のための学習システムとなっており,北海道の高校を中心に約30校以上の高校でも利用されている(9).また,他大学でも,リメディアル教育を中心に,入学前教育・初年次基礎教育などで活用されている.

 このシステムで運用するコンテンツは,数学・物理・化学・電子工学・情報工学・語学と約12000コンテンツに及び,特に,高大連携校や地元の中学校の教諭と連携して,中学・高校の内容も体系的に網羅したものとなっている.システムについては,教育目的・研究目的を前提に一般公開している.

 本学でも多くの科目においてCIST-Solomonを利用した授業が行われている.19年度秋学期から,CIST-Solomonは学内ポータルサイトと統合され,電子メール・電子掲示板の閲覧と認証統一される.市販のLMSと同等の機能を備えた教師用LMSでは,学習者の成績管理を行うことができる.学生は入学時のオリエンテーションでCIST-Solomonの使い方を学ぶ.ログインした学習者には以下のメニューが提供される.



2.2. 教科書・演習

 CIST-Solomonでは学習コンテンツとして,教科書コンテンツと演習(ドリル)コンテンツが扱える.これらのコンテンツはすべてSCORM対応であることが条件である.教科書・演習は1対1対応しており,両者とも,大カテゴリ(大学数学・高校情報などのカテゴリ),中カテゴリ(科目名であることが多い)から選ぶようになっている.教科書にはあらかじめ「関連する教材」として登録されている,その教科書の内容に関連した演習問題を選んで学習することができる.演習側からも同様に関連する教科書を閲覧することが可能である.ログインした学習者は,提供されているすべての教科書・演習コンテンツを自由に学習することができる.

 教科書カテゴリの中には,テキスト・アニメーション・映像が含まれる.テキストは,学習者がボタンをクリックすると少しずつ表示されるように設計されたものがほとんどであり,一部HTML文書のものもある.テキストで表現しきれない,3次元イメージや映像に盛り込めないような細かいプログラムの説明などをアニメーションで行う.映像教材は,対面授業のない完全eL形式の学習において授業の代わりとなるコンテンツである.各コンテンツの詳細は3節以降で述べる.

 演習は,一般的に語句の穴埋め問題,英語であれば長文内容の正誤を問う問題やTOEICのような問題,数学であれば計算結果を入力させるような問題,プログラムの学習であれば,プログラムの穴埋めや実行結果を問うような問題など,科目によってさまざまである.問題数もさまざまであるが,10問前後が多く,最大でも30問まで登録可能である.解答方式としては,選択式(各小問ごとに複数選択肢から選ぶ),直接入力式,パズル方式(大問に複数選択肢を用意し,その中から当てはまるものを空欄へマウスで移動する)がある.解答はすぐに正解・不正解が表示され,正解した問題番号には○,不正解した問題番号には×がつくようになっている.演習にはヒントが提供されており,ヒントを見て正解した場合には△となる.

 学習者はLMSを通じて,教科書の閲覧率やドリルの正解率と不正解率を確認することができるようになっている.  ここではまず推奨される学習方法を二つ紹介しよう.数学では,演習から学習を始め,解けなかった場合には関連する教科書を参照し,もう一度できなかった演習を行うという学習方法を推奨している.逆に,教科書の長文に関する内容を問う演習問題を持つ英語などでは,教科書から学習を始めるとよい.そのほか,コンテンツを利用する科目の教師が適宜コンテンツの学習方法を紹介している.



2.3. 課題

 演習モードでは学生がドリルを自分の進度に合わせて能動的に解答できるのに対し,この課題モードでは,教師が達成率を100%にする期限を学生に与えることができる.


2.4. CT

 学習者と教師,学習者同士のコミュニケーションのためのメニューである.教師は掲示板を立てることや,レポート課題を出すことが可能である.学習者は教師への質問をすることが可能である.


2.5. コース

 教師は,CIST-Solomonの中のコンテンツを自由に組み合わせて一つのコースをつくることが可能である.コースに登録された学習者は,教師の設定した細かいスケジュールに従って,その期間与えられた教科書・ドリルコンテンツの学習を進めることができる.また,教師はCTでレポートを出すのとは別に,コースの一環としてコンテンツの学習状況に合わせて適宜レポートを課すこともできる.コース登録者の学習状況を,教科書閲覧状況,ドリル達成率,レポート提出状況を一括してみることも可能である.


2.6. 学習状況

 学習者は,自分の演習の成績やランキング,教科書の閲覧履歴等を確認することができる.


3. コンテンツの開発

 映像以外のコンテンツのほとんどはFlashを用いて作成される.以下,コンテンツの種類ごとに詳細を紹介する.



3.1. 教科書(テキスト)・アニメーション

 テキストのほとんどは,学習者がボタンをクリックすると少しずつ表示されるように設計されている.これは,最初に作成されたリメディアルを目的とした数学のテキスト作成時に,高校教諭からのアドバイスによるものである.  一方HTML文書のものもある.これは学部2,3年生を対象にしたJavaプログラミングを学習するコンテンツである.テキストの内容が一度に表示され今読んでいる部分に集中できないという欠点もある反面,何度も復習する際に自分の見たいところをすぐに見ることができるHTML形式を採用した.

 テキストで表現しきれない,3次元イメージや映像に盛り込めないような細かいプログラムの説明などをアニメーションで行う.有機化学のベンゼン環などを表示し,学習者が自らマウスで画像を動かせるようになっているものや,英語長文のイメージをアニメーションで表したものがある.テキストがHTML形式になっているものではアニメーションファイルをテキスト内部に組み込むことはせず,テキストでは対応するアニメーションを見るよう記述するにとどまっており,実際に学生は目次リストから対応するアニメーションをクリックして見ることになる.プログラミング学習のためのアニメーションではテキストの内容を補助するためのもの(図1)と,長いプログラムの説明を行うためのものがある.プログラムの説明を行うアニメーションでは,プログラムの各行にマウスを合わせると,その行の説明が表示される(図2).


図 1 アニメーション例

図 2 プログラム説明アニメーション


3.2. ドリル

 ドリルもFlashを用いて作成される.ドリル作成には初期に作成されたドリルのパターンがテンプレートとして用意されており,基本的にはそのテンプレートに従って作成をしていけばよい.ドリルは図3に示すように,学習者が解答して送信ボタンをクリックすると採点が行われ,左上の問題番号に○や△,×が表示される.各問題のテンプレートは,学習者が問題を読み,解答をして自己採点をするという流れを実現できるように作成されており,作成者は,問題文,解答形式に合った項目,ヒントを入力すればよいように設計されている.解答形式が選択式であれば空白部分・選択群・正解・ヒントを入力すれば,一連の流れを実現できる.ドリルコンテンツの開発は,既存のテンプレートを用いる場合には比較的単純作業となるが,新たなテンプレートを作成する場合にはある程度の開発期間を要する(これに関しては4節で述べる).



3.3. 映像

 映像教材は,授業の代わりとなることもできるコンテンツである.実際の授業を収録したものを編集するというものではなく,専用にシナリオを作成して撮影・編集を行なっている.CIST-Solomon上にある教科書の中で以下に示す教材のみが映像コンテンツを含む.


3.3.1. 数学のための英語

 外国人教員による大学生を対象とした英語教材.アメリカの小・中学の算数教材を使い,数字や四則演算などをテーマに10レッスンほどある.


3.3.2. 科学技術に役立つ英語

 外国人教員による,大学生および大学院生を対象とした英語教材.英語のための英語ではなく,英語を使って技術に役立てる.映像で,英語による口頭発表の仕方を中心に講義している.この科目ではドリルでもイギリス人の先生を招いて,映像教材の内容の正誤を問う問題をリスニングテストを兼ねて行うことができる.


3.3.3. Javaプログラミング学習用コンテンツ

 筆者の研究室で開発している,学部2〜3年生を対象としたJavaプログラミング学習用教材(2)〜(5).作成にあたり,今まで表現しきれなかった,授業の導入部分における,オブジェクト指向・メッセージパッシング・インスタンスの生成といった概念,そして継承の概念等,オブジェクト指向特有の概念を表現するために,シナリオ作成の段階からさまざまな工夫を行った.それによりテキストやホワイトボード,コンピュータ等を使っても説明しきれないイメージを伝えることもできるようになった.


3.3.4. PCマエストロ

 高校・大学生を対象とした,Microsoft Word, Excelなどのアプリケーション学習用コンテンツ(PCマエストロ(6)(7) をCIST-Solomon用に作成しなおしたもの)である.詳細は4節で述べる.


3.4. 音声教材

 音声教材はFlashを用いて作成される.教師が吹き込んだ音声とテキストを連携して表示させることが可能である.テキストを目で読むだけに比べ,音声が入ることで学習者を集中させることができる.ドリル同様テンプレートが用意されており,基本的にはそのテンプレートに従って作成をしていけばよい.CIST-Solomon上にある教科書の中で以下に示す教材のみが映像コンテンツを含む.


3.4.1. 情報講義系科目

 映像教材は,授業の代わりとなることもできるコンテンツである.実際の授業を収録したものを編集するというものではなく,専用にシナリオを作成して撮影・編集を行なっている.CIST-Solomon上にある教科書の中で以下に示す教材のみが映像コンテンツを含む.


3.4.2. 光科学概論

 光の基礎について,物理系教員による解説が行われている.


3.4.3. Flash学習コンテンツ

 Flashを学習するためのコンテンツ.


4. コンテンツ開発プロジェクトの枠組み

 コンテンツ開発は,特定のコンテンツを除き,プロジェクト・メンバーと呼ばれる学部2,3年生の有志メンバーによって開発が行われている.以下,本学の情報メディア教育センターにおけるプロジェクト・メンバーの位置づけ,各コンテンツの開発について述べる.


4.1. 学生アルバイトの体制

 情報メディア教育センターは,図4に示すように情報システム課とメディア教育推進室に分かれており,学生アルバイトはそれぞれの機関の下に配置されている.

 メディア・コンサルタントは,大学院生,学部3,4年生が,全学的な情報系サポートを行う.学生からは,情報系授業に関する質問やノートパソコン,研究室のパソコンに関する質問などが出される.また,教員・職員からのパソコンに関する質問にも対応する.平成12年頃よりスタートした仕組みで,スタート当初はあまり活用されておらず,体制について議論がなされてきた.学内プロジェクトが発足した平成15年あたりからプロジェクトに関する実働を始め,それ以来活動が活発化し始め,現在では,プロジェクト内ではアドバイザのような役割にシフトし,実働をプロジェクト・メンバーに譲った形となっている.

 プロジェクト・メンバーの体制は平成16年度から始まった制度である.学部2年生から募集される.2年生のうちは見習いとして,3年生のプロジェクト・メンバー,およびメディア・コンサルタントにより,夏休み前からHTMLやFlashの講習会が開催される.そして,夏休みには実際の活動を開始する.活動の多くは,CIST-Solomonの各コンテンツをテンプレートを使って開発する.年度末に成果発表会を行い,一区切りとなる.3年生に上がるときにやめる学生もいるが,表に示すように,7〜8割が残る.17年度の2年生から試験的にこのプロジェクト・メンバーの活動を「情報プロジェクト」という科目の単位とした.メンバーは情報系の研究室に配属され,各研究室の教員と学部4年以上のプロジェクトリーダー1名による指導により,半年かけてコンテンツを作成する.最終的に年度末に成果発表を行う.できあがったコンテンツは各研究室のリーダーあるいはメディア・コンサルタントによって教材として適切であるかどうかのチェックを受けた後,実際にコンテンツとしてアップロードされる.18年度の3年生からは正式に選択科目「情報プロジェクト」の単位として認められ,授業としてコンテンツ作成の活動を行っている.


図4
表 1 プロジェクト・メンバーの人数



4.2. 教科書・ドリルコンテンツ開発

 テンプレートのある教科書(音声教材含む)・ドリルについては,プロジェクト・メンバーを中心に開発が行われている.19年8月現在,CIST-Solomon上の総コンテンツ数は3節で述べた科目を含む12,000になる.大学生を対象とした科目は通常,担当教員がコンテンツ素材を作成する.これは,手書きでもよし,イラストでもよし,形式は自由である.その素材をベースに,プロジェクト・メンバーがテンプレートに沿って作成していく.できあがったコンテンツはメディア・コンサルタントがチェックし,担当教員の最終チェックを受けてアップロードされる.その他,特殊な科目について以下で述べていく.


4.2.1. 化学

 有機化学の分子構造などを学習者がマウスで動かせるような3次元のアニメーションについては,メディア・コンサルタントの指導のもと,プロジェクト・メンバーが制作した.素材は本大学の科目担当者が提供した.


4.2.2. TOEIC対策コンテンツ

 現在はTOEIC700点までのコンテンツが整備されている.このコンテンツはMACMILAN LANGUAGEHOUSEから出版されているPRISM(8)を用いて教材を作成している.高校生には非常に人気の高いコンテンツである.教科書では,長英文のイメージを最初にアニメーションで表し,概要を掴むのに役立たせる.英文に対応する日本文を表示させたり,進出単熟語の解説,ネイティブスピーカーによる長文リスニング,また,一分間に読める単語数を数えるスラッシュ・リーディングの機能も備えている.このコンテンツは特殊だったため,プロジェクト・メンバーではなく,英語の得意なプロジェクト・メンバー出身の4年生1名と情報メディアセンターのスタッフ1名を中心として計画を立て,実働はプロジェクト・メンバーが行った.


4.2.3. Javaプログラミング学習コンテンツ

 Javaプログラミング言語学習コンテンツ開発は教科書・ドリルともに筆者の研究室内で行っている.学部3年生対象のJava入門の授業「ソフトウェアデザイン」は,このコンテンツをもとに平成16年度の対面式授業,17年度のブレンド型eL形式の授業,18年度の完全eL形式の授業と授業形式を変えて行なった(1)〜(6).平成16年12月から17年3月にかけてCIST-Solomonの仕様に合わせて既存コンテンツの再開発を行った.教科書・アニメーション・ドリルは筆者の研究室において学部2〜4年生12名と大学院生2名で開発を行った.映像コンテンツについてはシナリオ作成,監督,出演を筆者が行い,製作および撮影・編集は,映像専門の研究室の教員と学生4,5名が行った.開発期間が非常に短かったため,第1〜3回の授業分のための映像は3月中に完成したが,それ以降は授業に間に合う形で順次準備するという形となった.映像は実際の授業を収録したものを編集するのではなく,本コンテンツ専用にシナリオを作成して撮影・編集を行っているため作成にはかなりの時間をとっている(5).全コンテンツを約4〜6ヶ月で自前で開発を行ったのであるが,既存のコンテンツがあったからできたことである.かなりタイトなスケジュールであったことは否めない.0から作るのであれば1科目のコンテンツ開発にはできれば1年間を費やすのが望ましいだろう.

 平成18年度にはオブジェクト指向開発のための学習コンテンツを作成した.これはJava入門には含まれていない入出力,GUIのほか,UMLも学習することができる.これらのコンテンツは教科書・ドリルともに平成18年度の筆者の研究室3名が卒業研究として設計・開発した.ドリルの一部は,4.1節で紹介した情報プロジェクトのプロジェクト・メンバーにより制作されたものもある.



4.2.4. PCマエストロ

 PCマエストロは3.3節で述べたように高校・大学生を対象とした,Microsoft Word, Excelなどのアプリケーション学習用コンテンツであり,単独でインターネット上に公開されている.これはWord, Excel, ExcelAdvanced, PowerPoint, HTMLとプラスαのバージョンから成っている.各バージョンはそれぞれ10ステップからなっており,各ステップは5分前後の映像とFlashによるアニメーション教材から構成される(6)(7).15年度より開発が開始され,最初のWordバージョンは,映像教材は映像専門の研究室の学部4年生1名(補助スタッフ数名)の卒業研究として開発された.開発の詳細は次節で述べる.またアニメーション教科書は,学部3年生3名により,約1年をかけて制作された.このバージョンはその後につくられたすべてのバージョンの基礎となっている.イメージキャラクタをはじめデザインもすべて学生のオリジナルであり,学生の潜んだ可能性を最大限に引き出されたものであると感じる.その後,各バージョンは,映像に関しては同様に映像専門の研究室の学部4年生の卒業研究となり,アニメーション教材は,筆者の研究室の学部4年生の卒業研究になったものや,学部2,3年生によるもの,情報プロジェクトの活動によるものがある.

 今年度は,新たに出たOffice 2007対応のコンテンツ開発を行っている.アニメーション教材は4年生の卒業研究として1バージョン開発,2,3年生であれば3名で1バージョンほど開発するのが無理のないペースであると思われる.



4.3. 映像コンテンツ開発

 3.3節で述べた映像については,撮影・編集は,映像専門の研究室の学生が中心となって行っている.製作総指揮を研究室教員が担当している.英語教材については,シナリオ作成・出演は担当教員が1名ずつと,メディア教育推進室のスタッフ1名が行う.一科目平均10レッスンで,1レッスンあたりの映像時間は5分前後となっている.JavaプログラミングやPCマエストロについては,シナリオ作成・出演・監督は筆者が行っている.映像教材の開発工程を筆者が行ってきた経験を中心に以下に示す.


4.3.1. シナリオ作成

 全体の流れを意識しながら,その回のエッセンスが5分から20分以内に収まるようにせりふを作成する.例プログラムなども用意し,編集者に対するテロップの指示や映像のアニメーション等の指示も記載する.作成時間は科目や慣れにもよるが,1レッスンあたりどんなに慣れても平均1〜2時間はかかるだろう.プログラムの説明が入るともっと時間がかかる.


4.3.2. 撮影

 5分から20分の映像コンテンツの作成にかかる撮影の時間は,スタッフや出演者が慣れてきた現在でも1時間から2時間である.平成16年秋にスタジオ(メディア・ラボ)が新たにできたため,飛行機の騒音等による中断がなくなった分,それまでよりは3割ほど短縮されたものの,慣れるまではかなりの時間がかかった事実もある.また,スタジオ専用の部屋ではないので照明器具やカメラなどは撮影のたびにセットしなければならず,準備時間・撤収時間を合わせると実際は1時間弱余分にかかる.これはどの科目でもほぼ同様である.

 撮影スタッフの人数は,最低でも現場監督1名とメイン・サブカメラに各1名の計3名である.タイムキーパーやADは彼らが兼務することとなる.



4.3.3. 編集

 編集はAdobe Premiere Proを使って行っているが,まず撮影したカメラからコンピュータ上にデータを移すのにほぼ1日,最初の編集には慣れていても3〜4日の時間を要する.


4.3.4. 編集チェック

 編集チェックは出演者を中心に,コンテンツのテキスト,アニメーション,ドリルの作成者を交えて行う.テロップの語句の誤字脱字とフォントや色のチェックから,インスタンスの生成の動き等がこちらのイメージ通りになっているか,画面の切り替わりのタイミング,プログラムとの整合性などチェック項目はかなり多い.最初のチェックにかかる時間は出来上がった映像の5〜10倍ほどの時間を要する.つまり20分の映像ならば2〜3時間かかるということである.第1回目のチェックの手直しには1〜2日の猶予をみる.2回目以降は直した部分のみのチェックであるが,完成までには平均2,3回の手直しを行う.手直しの量は回によって異なるが,やはり最初の数回分(導入部分,プログラムの説明,継承分)では,手直しに1週間ほどかかっている.


4.3.5. サーバへアップロード

 映像コンテンツは,編集チェックをすべてクリアするとサーバへアップロードされる.


4.3.6. 総合開発時間

 以上総合すると,撮影スタッフは最低3名,編集は一人でもできるので,映像教材については1科目を4年生の卒業研究とするのが定番となっている.余裕があれば1年に3科目分ほど作成した学生もいた.映像コンテンツ自体の数は少ないが現在では毎年平均2〜3本以上できているペースとなっている.


4.4. ドリルテンプレートの作成

 4.1節で紹介した「情報プロジェクト」の活動として,プロジェクト・メンバーがテンプレートにしたがってただコンテンツを作るのではなく,コンテンツ作成にあたり「ドリルやテキストにこんな機能があればよい」という自らの意見を反映して,テンプレート自体を作り上げていくことが多い.

 4.2.3節で紹介したようなプログラミングのドリルではプログラムを表示させるためのスライダー機能,パズルフォーマットと呼ばれるドリル形式をテンプレートに追加した.また,TOEIC対策において,長文をイメージしたアニメーションをテキストの最初に表示するなどのアイデアもこの中から生まれたものである.



5. システム開発

 CIST-Solomonのシステム開発は,情報系研究室が中心となって開発されている.このシステムは,通常のe-Learningシステムとほぼ同等の機能を有している.特に理工系の知識の確認を行いやすくするという意味で,幾つかの工夫がなされている.学内および高大連携校,および教師側からの苦情や要望などを取り入れながら日々改善を重ねている.


6. 学生の隠れた可能性

 学生は最初にユーザとしてCIST-Solomonに触れ,自分が開発者だったら「こんな機能がほしい」「こんな機能は要らない」という構想を抱いて開発者の一員となってくる.学生にとっては,自分が学んだ科目についてのコンテンツ作成がほとんどであるため,教材として何が必要かを認識している.このようなことから,教師と違う観点から教材をつくる.

 また,作成したコンテンツはすぐに下級生によって学習に使われ,正直な反応を手近に感じることができるため,実際は自分の考えていたものがユーザに受け入れられないこともあるという現実を知ることができる.さらに,学習者にわかりやすい教材を作ることの難しさを感じることもできる.このような体験を重ねて学部生のうちから,ユーザのニーズを満たす重要性をはじめ,ソフトウェア(製品)をつくる上で何が必要であるかを自然に学び取って成長することができる.

 常に上級生からの指導をうけながらプロジェクトの一員としてコンテンツ開発を行っていくと1年後の成果発表会では,誇りと自信を持っている様子が伺える.活動の基本がグループ単位であることで,自分自身の責任が明確にされ,単独で何かを制作するよりも学生自身の隠れた可能性が引き出されるのではないかと思われる.さらに,実際に役に立つものをつくり,すぐに反応が返ってくるということも重要な要因であろう.

 何年にも渡り複数のコンテンツをつくってきた学生は,どんどんコンテンツを洗練させ,新たなテンプレートの作成も行っていく.筆者の研究室に1年生のときから通っている学生は今4年生となったが,PCマエストロのExcelバージョンのアニメーション教材開発に参加したのが最初であり,毎年色々なバージョンの開発に携わってきた.現在は卒業研究としてOffice 2007対応のExcelバージョンを構築している.前バージョンを踏襲しているものの,中身も外見もすべて理解しているので,前バージョンと比べて非常に洗練されたものになることだろう.



7. おわりに

 ユーザとして自ら学びつつ,開発者としても成長していく本学のコンテンツ開発の様子を中心に,本学のe-Learningへの取り組みについて紹介した.さらに19年度には先導的教育情報化推進プログラムの採択も決定し,本学と高大連携している千歳市内を中心とした小中高と共同で,理数科教育コンテンツの共有化を行っている.そのほか,北星学園大学と共同で,一般教養(心理学)などのコンテンツを開発する予定もある.

 コンテンツ作成には多くの時間を要するが,本大学におけるe-Learningのコンテンツは担当教員と学生によりディスカッションを重ねて設計されたものであり,さらに運用後のアンケート結果などを踏まえて何度も改良されてきたものもある.このようにしっかり設計されたコンテンツに沿って学習をしていくと,学生は自ずとその科目の目的を理解できるようになり何を学習すべきかということを自然に身につけることができると学習指導担当の教員からの意見もあった.e-Learningの良い部分を最大限に生かすことができる.



参考文献

(1)川西雪也,林康弘,高岡詠子,碓井広義,山川広人, 小松川浩:"学部教育プログラムでのe-learning活用に基づく教育デザインの実証研究",メディア教育研究, vol.3, pp.105-114 (2007).
(2)高岡詠子,石井和佳奈:"Javaプログラミング入門単位認定型完全e-learningへ向けての試み〜コンテンツ構築および実践バージョン〜",情報処理学会研究報告,Vol.CE-81, pp.73--80 (2005).
(3)高岡詠子,石井和佳奈:"Javaプログラミング入門単位認定型完全e-learningへ向けての試み〜評価バージョン〜",情報処理学会研究報告,Vol.CE-82, pp.53--60 (2005).
(4)石井和佳奈,高岡詠子:"Javaプログラミング教育e-learningコンテンツ閲覧状況と成績との相関関係に関する一考察",SSS2006 情報教育シンポジウム論文集,情報処理学会,pp.183--189 (2006).
(5)高岡詠子,石井和佳奈:"Javaプログラミング入門e-learningコンテンツの紹介",第47回プログラミングシンポジウム,情報処理学会,pp.167--172 (2006).
(6)高岡詠子,碓井広義,"PCマエストロ:映像教材,アニメーション教材連動ブロードバンド配信型コンテンツの構築とアクセス解析",情報教育シンポジウム(SSS 2004) Vol. 2004, No.9, pp.115-122 (2004).
(7)Eiko Takaoka: "A Learner-Friendly and Effective Multimedia Content Studying Application for IT on Broadband Networks", Proceedings of World Conference on Educational Multimedia, Hypermedia and Telecommunications, pp. 2636-2643 (2006).
(8)Timothy Kiggell, 武藤克彦, "PRISM Book 英文読解への多角的アプローチ", マクミランランゲージハウス
(9)千歳科学技術大学, "eラーニングシステムCIST-Solomon", http://solomon.mc.chitose.ac.jp/ael/


[目次] [1ページ目] [前ページ] [次ページ] [質疑応答]

All Rights Reserved, Copyrightcサイエンティフィック・システム研究会 2007