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リアルタイム型遠隔講義におけるデザインパターン
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1. はじめに
北陸先端科学技術大学院大学(以下、JAIST)は、建学以来、科学技術分野で世界最高水準の研究及び教育を推進することを目的に、石川県の旭台キャンパスを拠点とする三研究科(知識科学研究科、情報科学研究科、マテリアルサイエンス研究科)を中心とした大学院教育を充実させてきた。また2008年度から、学生一人ひとりのキャリア目標の実現を目指した新しい教育モデルである「JAIST新教育プラン」を開始するなど、大学院教育の実質化に強力に取組んでいる。加えて近年、従来の活動と並行して、社会人教育における仕事と勉学の両立やコンソーシアム型大学間連携プログラム実現のための遠隔教育への取り組みを進めている [1]。 2. 遠隔教育プログラムの分類 遠隔教育プログラムの実現方法には様々な形態が存在するが、JAIST遠隔教育研究センターが本学において現在対象としている遠隔教育プログラムを分類したものを図1に示す。遠隔教育を規定する重要な要素としては、地理的・時間的制約条件が挙げられる。そこで図1では、横軸として集合教育・自己学習といった地理的な条件に係る軸を設定し、縦軸として同期・非同期という講義を受講する時間的な条件に関する軸を設定した。また、典型的な遠隔教育の形態を楕円形で、本学における具体的な実践事例を四角形でマッピングしている。2.1 遠隔教育プログラムの形態 SCS:Space Collaboration System2.2 JAISTにおける主な取り組み SCS (1997〜):2.3 遠隔コミュニケーションモデル 本稿のテーマであるリアルタイム型遠隔講義を対象に、遠隔教育環境を設計するための指針を整理するために筆者らが提案した遠隔コミュニケーションモデルを図2に示す[1]。このモデルが示す重要なポイントは、講義形態、講義参加者、物理的条件に応じて、教室間コミュニケーションを実現するための図中央の遠隔講義システムの要求要件が決まる点である。 3. 実践事例
3.1 北陸地区国立大学連合双方向遠隔授業システム 北陸地区国立大学連合双方向遠隔授業システムとは、北陸地区国立大学連合におけるインフラ整備事業の一環として、2005年3月に図3に示す北陸地区の6大学(当時,現在は4大学)計14教室に導入されたものである。このため、本システムの中核部分については、共通仕様策定委員会で取りまとめを行い、大学間で統一されたものとなっている。3.2 ビデオ会議システムを活用した遠隔講義 ビデオ会議システムとは、Sony社の PCSシリーズやPolycom社のVSXシリーズに代表されるH.323プロトコルを利用したIPベースの遠隔会議システムである。システムの基本機能は遠隔会議向けであるが、教室設備を適切に組み合わせることによって、大規模な遠隔講義に活用することも可能である。ここでは、東京サテライトキャンパスと石川メインキャンパスを接続してJJREXプログラムのリアルタイム遠隔講義を実施するために構築したシステムの概要について述べる。3.3 DVTSを活用した遠隔コラボレーションシステム DVTS(Digital Video Transport System)とは、高品質な動画像をIPネットワークで送受信するためのシステムであり、IEEE1394でPCと接続したカメラの映像を手軽に配信することが可能である[4]。ここでは、本学とベトナム国家大学とのデュアル大学院プロジェクトの中で行われた遠隔コラボレーションを実現するために構築したシステムの概要について述べる。 4. 遠隔講義システムのデザインパターン
遠隔講義環境の設計とは、想定される講義の制約条件に依存したコミュニケーションを実現するための具体的な方法を検討することであると言える。しかしながら、すべての制約条件の組み合わせを整理することでは容易ではない。また、実際の実践事例をそのまま他の環境の設計に適用することも、設計時の制約条件の優先順位の特性が大きく異なることから現実的には困難である。そこで本稿では、我々がこれまでに実施してきた遠隔講義に関する事例に基づき、典型的なコミュニケーションの構成要素や講義制約条件、システム構成要素をリストアップするとともに、断片化したシステム構成要素と講義制約条件とを対応付けたものを遠隔講義デザインパターンと呼ぶこととする。遠隔講義デザインパターンはこれまでに実施してきた遠隔講義環境の事例の中からGood Practiceを断片化して抽出したものと言える。遠隔講義デザインパターンを集積することにより、遠隔講義システムを設計する際に、講義における制約条件を満たすシステム構成事例を容易に検索可能とすることが最終的な目標となる。4.1 遠隔コミュニケーションの構成要素と制約条件 図2に示す遠隔コミュニケーションモデルは、コミュニケーションの「対象」(講師、受講者、受講側教室の「場」など)、「方向」(講師から受講者、受講者から講師など)、「内容」(講義、質疑応答など)、「頻度」(講義中に実施されるコミュニケーションの量)、「品質」(映像品質、画角、見やすさ、音声品質、話しやすさなど)の5つの要素から構成されているものと考えられる。4.2 遠隔講義システムの構成要素 遠隔コミュニケーションを構成する最後の要素であるコミュニケーションの「品質」は本質的には遠隔講義システムが提供する機能に依存する。実際に要求される「品質」は4.1節で述べた講義制約条件を考慮した上で、ネットワーク帯域や講師の講義方法、システム管理運用方法などを反映して決定することになる。 5. まとめ
本稿では、リアルタイム型遠隔講義のデザインパターンを検討することを目的に、本学で実施した実践事例について紹介し、遠隔コミュニケーションモデルに基づいてリアルタイム型遠隔講義の制約条件及び遠隔講義システムの構成要素について整理した。具体的なデザインパターンの集積・整理はこれからの課題であるが、本稿のまとめを兼ねて複合的なデザインパターンの一例を図7に示す。本パターンは知識伝達及び質疑応答を行う講義というコミュニケーション目的のもとで、講義メディアとしてPC画面を利用する1対1接続かつ両方の教室で受講者がいるケースを想定したものである。こうした講義では、講師と受講者のインタラクションの他に、他拠点の受講教室の「場」を把握する必要性が高くなると考えられる。本パターンの特徴は、両教室に2台のビデオ会議システムを設置する点にある。講師側教室ではシステム前後に配置することにより講師映像と受講者映像を同時配信し、受講側教室では左右に配置することにより受講者映像を大きく配信することが可能である。そのため、それぞれの教室で他拠点の場の雰囲気をつかみやすい構成となっている。参考文献 [1] 長谷川,但馬,二ツ寺,安藤:“多様なメディアを利用した同期型遠隔講義環境の構築・実践”,メディア教育研究,Vol.2,No.2,pp.79-91, (2006).【用語解説】
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