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ストレージシステム設計・導入にあたってのガイドライン
〜データマネジメントを意識したストレージソリューションWG/SubWG成果報告〜



  1. はじめに
  2. WG活動
  3. SubWG活動
  4. ガイドライン
  5. おわりに

概要(PDF版) PDF file[155KB]
プレゼンテーション資料 PDF file[80KB]
写真
中京大学
磯 直行


[アブストラクト]
 2001年度から「ネットワーク時代の統合ストレージマネージメントWG」、2003年度から「ストレージを中心としたシステムマネージメントWG」の活動が始まり、それに続いて2005年度から「データマネジメントを意識したストレージソリューションWG」が開始された。
 本WGでは、会員機関で運用されている大規模ストレージシステムで増大しつつある多様な非構造型データについて、その特性を分類し、効果的な管理方法とソリューションの明確化について検討した。また、SubWGでは前WGの成果物である「ストレージシステムポリシー評価ワークシート」をさらに発展させ,ストレージシステムの設計・導入にあたって考慮すべき項目を技術解説や実現手段を含めた「ストレージシステム設計・導入にあたってのガイドライン」としてまとめた。この中には、具体的な製品にも触れ、導入および運用の際の現場での選択が容易になるよう工夫してある。
 本発表ではWG/SubWGで議論したストレージシステムの設計・導入・運用管理手法について報告する。

[キーワード]
ストレージシステム、データマネジメント、非構造型データ、ILM(情報ライフサイクルマネジメント)、ガイドライン


1. はじめに

 近年、観測機器等の性能向上により科学技術計算の入力データ量が増大している。また、大学等の教育機関でもマルチメディアデータを教材として取り扱うようになり、やはりそのデータ量が増大している。それに加えて、普段の研究・教育活動の中にWebシステムや電子メール等のデータを取り扱う機会が増え、ユーザの周辺に多種のデータが氾濫している。これまでストレージシステムが取り扱ってきたデータは、使用目的を明確にした上で形式の整った、いわゆる「構造型データ」であったが,最近では種類や大きさについてデータ間の関係が不明確な「非構造型データ」が増えつつある。
 これまで研究所や大学では比較的大規模なストレージシステムを用意し、それらをユーザが共通利用することにより高速かつ高可用のシステムを維持してきた。しかし、このような時代背景から最近では単にデータ保存機能に注目するだけではストレージシステムの管理は不十分になりつつある。そこで、次のような手順でストレージソリューションを考える。まず、ストレージシステムをデータの相互活用を目的とした統合ストレージシステムとして位置づけることを考える(第1ステップ)。次に、それらのストレージシステム全体をいかに効率よくマネージメントする方法について検討する(第2ステップ)。そして、具体的な調査事例をもとに、ストレージシステムをどのようなアプリケーションやミドルウェアで管理するとより良いソリューションが得られるかを検討する(第3ステップ)。  その一方で、データが生まれてから最終的に廃棄されるまでのデータの情報ライフサイクルを一貫して管理するILM(情報ライフサイクルマネジメント)の必要性も叫ばれている。しかし、セキュリティ、アクセス方法、バックアップ等のデータ管理について多くの課題が顕在化し、それらを扱うストレージ管理者への負荷は高まるばかりである。
 このようなことから、サイエンティフィック・システム研究会システム技術分科会では、第1ステップとして2001年度から「ネットワーク時代の統合ストレージマネージメントWG」を発足させ、当時ホットな話題であったSAN/NASの技術動向の調査と大学・研究機関への導入モデルを検討した。第2ステップとして、2003年度から「ストレージを中心としたシステムマネージメントWG」でシステム管理者が設計段階および運用段階で考慮すべき項目について整理し、設計時および運用時に考慮しなければならないポリシーを「ストレージシステムポリシー評価ワークシート」としてまとめた。また、具体的に会員機関の設備でその評価を行った。第3ステップとして、2006年2月に本WGである「データマネジメントを意識したストレージソリューションWG」が発足し、大学や研究所で氾濫しつつあるデータの種類を洗い出し、分類を行ったうえで、そのストレージシステムに対しどのようなアプリケーションやミドルウェアを利用すると管理効率が良くなるかに着目し検討を重ねてきた。現在も引き続きストレージソリューションに必要な要件を明確化する検討を行っている。また、本WGでは第2ステップで検討した「ストレージシステムポリシー評価ワークシート」を発展させるためのSubWGを設定し、その成果を「ストレージシステム設計・導入にあたってのガイドライン」としてまとめた。このガイドラインは、ストレージシステムの導入および運用段階で留意すべき事項についてチェックし、各項目の技術解説に加えて、その実現手段だけでなくストレージ管理者が業務上すぐにでも利用可能な具体的な製品事例についても情報提供を行っている。高価なため頻繁にリプレースすることがないストレージシステムの現場管理者にとって、少ない過去の経験にしか頼ることしかできなかったストレージシステムの設計・導入作業が、これにより、経験の少ない若い管理者でもその機関にとってバランスの良い間違いのない選択ができるようになると思われる。
本発表では、これまでのWGおよびSubWGで議論してきたストレージシステムの設計・導入および運用管理手法について、「ストレージ システム設計・導入にあたってのガイドライン」を中心に報告する。


2. WG活動
 年4回のペースで、会合を開催し、まず、会員機関の研究所・大学におけるデータ特性の分析、および研究開発系の構造型データと非構造型データの整理と検討を行った。その結果として、各業務におけるストレージシステムに求められるソリューションを明らかにしつつある。


3. SubWG活動

 前WGである「ストレージを中心としたシステムマネージメントWG」の成果物として得た「ストレージシステムマネージメントポリシー評価ワークシート」を再検討し、より実践的に利用できるような改良を試みた。ワークシートでは、設計段階と運用段階について、それぞれ設定したポリシーのバランスをレーダーチャートで評価していたが、会員機関で運用されている実システムに当てはめてみると、うまく設計・運用されているにも関わらず、バランスが大きく崩れた結果となってしまうことがあった。それは、機関によってストレージ全体、またはシステム全体の設計思想に大きな違いがあり、必ずしもワークシートで設定した各ポリシーのバランスだけでは評価することはできないということがわかった。
 そこで、本WGではストレージシステムの導入時に的を絞り、ストレージ管理者の利便性を追求した「ストレージシステム設計・導入にあたってのガイドライン」として改良する方針とした。
 チェックシートの作成については、前WGの引継ぎ作業と言う性格のものであるためSubWG活動とし、通常の会合とは別に活動を行った。活動は、前回の会合で課題とした部分の結果が出揃う頃を見計らって不定期に会合を行い、議論を重ねた。


4. ガイドライン

 「ストレージシステム設計・導入にあたってのガイドライン」は、研究機関や大学等の教育機関でのストレージシステムの導入検討および設計段階において、その仕様を策定する際に検討すべき事項をひとつずつチェックできるように列挙している。
 ガイドラインの構成は大きく「チェックシート」と「技術解説」の2章に分けられている。しかし、これらは別のものではなく、チェックシートの各項目からその実現手段や具体的な製品・ソリューションまでたどることができるようポインタを明記し、技術解説との間に多くのリンクが張られている。

4.1 チェックシート
 チェックシートには、ストレージシステムの設計の際に考慮しなければならない項目を3つのレベルにわけて記載した。まず「ユーザ要件」を大項目として5つの分野を選定した。また、それらをさらに細かく分類し「運用設計」を中項目とした。さらにそれらを具体化した実現手段や実現素材を「設計項目」として小項目に設定した。大項目と中項目の各項目を次に示す。
  • 存在・可用性保証
    データの破損・消失対策
    システム状態に応じた可用性確保
  • 速度性能保証
    ユーザの要望にあわせたアクセス速度性能の確保
    バックアップ時のデータへのアクセス速度性能の確保
    ストレージシステム異常時のデータへのアクセス性能の確保
  • セキュリティ保証
    不正行為に対するデータセキュリティ(アクセス制御/暗号化)
    原本保証/外部持ち出しに対するデータセキュリティ
    データ廃棄に対するセキュリティ
  • 拡張性保証
    システム拡張のための準備
    データ移行のための準備
  • その他考慮すること
    設置空間設計
    電源・空調・防災設計

4.2 技術解説
 チェックシートの小項目ごとにいくつかの実現手段や実現素材がキーワードとして列挙されているが、技術解説ではキーワード1つにつき、1〜2ページを割いてそれらを詳細に説明している。文章だけなく、図表をふんだんに取り入れてあり、いわば「ストレージシステムの教科書」ともいえる内容とボリュームである。概要説明の後には、関連する製品名や製品技術が示されており、このような具体的な記述はストレージシステムを設計する特に若い管理者にとっては魅力あるものであろう。
 また、技術解説の随所には「コラム」が記載されている。これは,SubWGメンバーが普段管理しているストレージシステムの運用経験に基づくものであり、熟練した管理者には失笑を誘う内容かもしれない。教科書に飽きて一息入れたいときにぜひ読んでいただければと思う。


5. おわりに

 2001年度から始まった「ネットワーク時代の統合ストレージマネージメントWG」、「ストレージを中心としたシステムマネージメントWG」、「データマネジメントを意識したストレージソリューションWG」の一連のストレージ系WGの成果の一つとして、「ストレージシステム設計・導入にあたってのガイドライン」を紹介した。ストレージシステムが多方面で使われるようになり、これまでのように単に高速,大容量の観点だけでは設計・運用することができないことがガイドラインのチェック項目の多さからよくわかる。ストレージシステムはどちらかと言うと裏方のシステムのように思えるが、技術的にはシステム全体の性能を決定してしまうこともある。本WGの活動を通して、改めてストレージシステムの重要さを再認識した。
 さて、私事であるが、今回のWGから北陸先端科学技術大学院大学の松澤照男先生から会員側とりまとめ役のバトンタッチを受け、私にできるのだろうか、と多少の不安がつきまとっていた。というのもガイドラインを企画・作成する段階で、いくつかの不安要素があったからである。ひとつは、次の会合までの期間が長いこともあり、初期段階では各個人でいろいろなことを考えてしまった結果、会合で意見が発散し、なかなか最終的な項目を絞り込めなかったことである。しかし、前WGで「ストレージシステムマネージメントポリシー評価ワークシート」を作成する段階から活躍いただいたSubWGメンバーの長谷川忍先生(北陸先端科学技術大学院大学)と藤田直行氏(宇宙航空研究開発機構)、両氏の積極的な活動により、その心配もだんだんと消えていった。もうひとつは、今回作成したガイドラインに製品技術をどの程度入れれば良いかということであった。コンピュータ業界は次々と新製品が発表され、現時点の最新の製品技術をガイドラインに記述してもすぐに役立たなくなってしまうのではないかという懸念があったためである。しかし、全員一致の意見として、後からみると多少古い情報かもしれないが、現時点の最新技術を記述することで、読者がより具体性のある内容としてより深く理解してもらえるのではないかというチャレンジであった。最新の製品技術の記載には森屋光弘氏(富士通(株)科学ソリューション事業本部)をはじめとする富士通(株)各事業部の方々の積極的な参加があったから実現できたのは言うまでもない。また、幾度となく富士通社内で検討会が開催されたと聞いており、サイエンティフィック・システム研究会事務局の平沢、簗瀬、原の3氏にも大変頭が下がる思いである。
 このような紆余曲折を経て、本日、「ストレージシステム設計・導入にあたってのガイドライン」を公開できる運びとなった.実際に手にとっていただき,ぜひ現場で活用していただきたい。
【用語解説】
ILM :
Information Life cycle Management : 情報ライフサイクルマネジメント
高可用性 :
HA(High Availability) : システムの壊れにくさ、障害の発生しにくさで計り、滅多に障害が発生せずいつでも安心して使えるシステムを指す。
SAN :
Storage Area Network
NAS :
Network Attached Storage

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