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科学技術計算分科会「次世代HPCを支える基盤技術」

SPARC64 V/VIの高性能、高信頼技術

(2/9)
1.はじめに

半導体の集積度の低い時代において、1チップに CPUを収める要件は、マイクロプロセサ開発の大きな制約であった。一方、同時代に、メインフレームやサーバ用の CPU開発に求められた第一の要件は、高性能と信頼性の追及である。この時代のマイクロプロセサとメインフレームのCPUとは、機能に大きな隔たりがあった。

テクノロジの進歩でチップの集積度が上がるに伴い、徐々に、高性能化のための複雑な機能が、マイクロプロセサに実装されていった。やがてチップをまたぐ信号授受のコストが、性能のボトルネックになるに至り、全てのコンピュータの CPUは 1チップで作られるようになった。そして、この 1チップ化が、かつてのマイクロプロセサを起源とする CPUと、メインフレームを起源とする CPUの競合状態を生んだ。その中で、多くの人が性能差以外に、大きな意味を持たないかのように受け止めている。どのCPUも、本当に、違いがなくなってしまったのだろうか?

半導体の集積度向上はなおも続き、チップあたりのトランジスタ数は CPU 1個分を超過し、それが大容量キャッシュの内蔵に繋がった。現在は、複数 CPUを 1チップに収め、さらにシステム機能も CPUチップに取り込む流れにある。その一方で、向上した周波数や微細化は消費電力を増大させ、電力量削減と熱冷却が、現在の大きな課題である。そのなかで、システムのありかたまでを含む検討、すなわち、従来どおり性能向上を追求していくのか、何によって高性能を実現していくのか、社会の重要なインフラに求められる要件を現在注目されている機能で満たしていけるのか、などに対する解が求められている。これから数年間はメインフレームやサーバ用の CPUにとっては、試練の連続であろうことは想像に難くない。

一旦世にでた製品は、開発当初は先進的で優れたものであっても、やがて寿命がくる。しかし、製品のなかにある技術は、注目の多寡があるものの、それは市場の要求や時代のテクノロジとの組み合わせなどに左右されており、寿命という概念のあてはまらないものである。技術は、必然性との出会いで注目をあび、あるいは、新たな技術が加わることにより変容し、自ら必然性を獲得するものである。

本論文は、技術とその必然性の観点から、メインフレームとその流れを受ける UNIXサーバの CPU:SPARC64 について述べる。また、メインフレームやサーバ用の CPUの現在の課題と、今後の方向性に言及する。第2章で、FACOMシリーズから現在の GSシリーズおよび SPARC64にいたる、富士通のコンピュータの開発の歴史と、そこで開発された技術を示す。第3章で、SPARC64シリーズのマイクロアーキテクチャを概説し、最新のコアエンハンスを事例に引いて、現在の技術を述べる。第4章では、命令実行処理装置、命令リトライ機能を、メインフレームの流れの観点で整理する。第5章では、消費電力の問題を、アクティブ電力とリーク電流にわけて述べる。第6章で、業界のトレンドとなっている、マルチコアとシステム機能の搭載についてふれ、最後に、第7章で、開発手法における技術の継承を考える。

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