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2006年度合同分科会 「次世代のIT社会を予想する」 システム技術分科会代表報告

IT社会は持続可能か?


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写真_長谷川氏

中京大学生命システム工学部
長谷川 明生

 
アブストラクト
 コンピュータが広く普及し、10年前のスーパーコンピュータが家庭の机の上にある。コンピュータのみならず多くのものがネットワーク接続されつつある。一方で、Googleに載らない情報は、世界から見えないかのごとくであり、phishingやbot問題等々問題山積である。実社会が混沌化するなかで、IT社会の問題点について考える。
キーワード
IT社会、持続可能性、DNS、spam、ものづくり、品質低下



     IT社会とかICT社会や、はたまたユビキタス社会という題目で、ものごとが進んでいくように見える現実がある。振り返って考えてみると、いわゆるIT業界はITという言葉が人々の口にのぼる以前から、アルファベット2文字とか3文字言葉を、例えばDP(Data Processing)やCAE等々、梃子にして、一種のブームを作り出し躍進を続けてきたようなところがある。
     IPの時代、インターネットの時代といわれ、家庭の家電機器までがネット接続されそうな勢いの一方で、ウィルスやワーム、オレオレ詐欺のインターネット版であるphishingが蔓延し、普通の人が安心してネットワークの利便性を享受できるとは、とても言えない状況になっている。
     ハードウェアの質は、コスト削減主義の下で、コンピュータのみならず民生機器までもが低下の一途をたどり、壊れたら修理できない、保障期間さえなんとかなればいいという「ものづくり大国」にあるまじき状態にある。
     ネットワーク技術者は、常時不足し、インターネットの基幹技術であるDNSは、規格や実装および運用の不備により、信頼に足る情報を提供することが困難である。迷惑メール対策として、spf等の技術が脚光を浴びているが、これらもDNSの枠組みに載ることが想定されている。
     旧来のセキュリティ対策技術は、悪質化し増加しつつあるゼロデー攻撃に無力化されつつあることは、ベクター社の事例を引くまでもない。
     一度IT化してしまうと、その環境を維持していくことには多大なコストがかかるだけでなく、導入から数世代経過すると、導入に関わった組織の変化により、システム導入目的を誰も認識しておらず、場合によっては、システムに使われる状況が生じることも想定される。アウトソーシングは、そのような傾向を助長しかねない。
     コスト削減の元で、企業や大学で技術者や研究者の短期雇用傾向が見えているが、人が明日の見込みなしに、今日希望を持って働けるだろうか? 直接雇用と外注とで、同じ仕事に対する報酬に差があるとしたら、そこに高いモラルを期待することに無理がある。短期雇用が常態化すると、技術蓄積も期待できず、そのような中でイノベーションを唱えることそのものに無理がある。現状の好況が、そのような形のコスト削減の上にあるとすれば、単に将来の利益を先食いしているだけに見える。
     IT社会は、やはり現実社会のある種の投影、もしくは現実社会の一部が誇張された投影でしかありえず、IT社会が持続可能かどうかは、現在の私たちの将来に対する考え方や行動が決定する。

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