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ラーニングテクノロジーを活用した授業改善の支援と普及
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1. はじめに
近年、大学の教育改革を求める社会的な要請、個々の大学におけるFD(ファカルティ・デベロップメント)活動の活発化等、大学の授業改善のニーズが高まっている。一方で、eラーニングの進展によって、教育・学習活動の時間と場所の制約が取り除かれ、「授業時間中の教室」に限定されていた教育の場を拡げることが可能になってきている。このようなことから、通学制の大学におけるeラーニング活用は、まずは、従来から実施している通常の授業を対象として進められるべきであり、それによって授業を改善していくことが重要であると考えられる。 2. ラーニングテクノロジー活用授業 2.1. eラーニングとラーニングテクノロジー
清水氏はeラーニングを「ディスプレイの提示内容に対して能動的な学習者がインタラクティブに学ぶ学習形態」と定義し、さらに「インターネット利用を含むがそれだけではない」「遠隔教育を含むが、すべてではない」「今後の展開を考えて利用技術は定義に含まない」と続けている(2)。本稿でもeラーニングをこの定義のように捉えている。つまり、必ずしも「eラーニング=遠隔教育」ではなく、講義授業の授業時間外学習の支援や、オンキャンパスでの自己学習型授業においてeラーニングの活用が可能であるという立場である。さらに、eラーニングでは学習者が能動的であり、自己学習力が前提とされることが多いので、我々はeラーニングよりも、もう少し広く捉えて「ラーニングテクノロジーの活用」による授業改善と呼んでいる。 図1 ラーニングテクノロジー活用授業
オフキャンパス授業では学習者が能動的であることが前提となるが、全ての学生が能動的に学べるわけではない。そこで、図2のステップ1で授業時間外学習をガイドすること、また、ステップ2で個別学習や協調学習を主体としたオンキャンパス授業を実施することで、学習者に自己学習力やコミュニケーション力の習得を促す。ステップ1の授業の例として、我々は、「大学生活のベースとなるICT能力の獲得」を目標とした情報基礎教育を実施している(5)。2006年度に3年次の学生に対して1年次に履修した情報基礎科目が現在の自分に役立っているかについてのアンケートを実施した。その中の自由記述欄に次のような感想を書いた学生がいた。
これはラーニングテクノロジーを活用したオンキャンパス授業によって、学生に「わかるという自信と喜び」を与えることができた典型的な例であると言える。
教員の視点からは、オフキャンパス授業で教員はITを活用して質疑応答等の個別対応を行う必要があるが、このようなスキルをステップ2の授業を実施することで習得できる。また、直接学習者を見ることのできないオフキャンパス授業において、学習活動を学習者にまかせることに不安を感じることも考えられる。ステップ2の授業で、目の前で学生が個別学習モードで学習活動を進める様子を観察する経験があればこのような不安も解消される。
最後に教材の視点からは、ステップ1で、あるテーマに関するワンポイント教材(コンポーネント教材)を開発し、それらを活用してステップ2のコース教材を開発する。次に開発したコース教材をオンキャンパスの授業で利用することで問題点を洗い出し、オフキャンパス授業で利用可能なコース教材に仕上げる。このように、段階的な教材コンテンツの開発が可能になる。
セルフラーニング型の授業では、基本的に、全員の学生に講義したい内容に関しては、遠隔型のeラーニングで用いられるような教材コンテンツを作成し、コース管理システムを介して学生に提供する。教員は、授業時間の最初に、学習目標の明確化と学生の学習動機付けを目的として教室全体にアドレスをするが、学習内容に関する講義は行わない。むしろ個々の学生の質問に応じたり、学習が滞っていそうな学生に声をかけたりといった個別のインタラクションを図る。また、状況を見て、同様な点でつまずいている学生数人を教室の一隅に集めて、短時間でテーマを絞ったミニ講義を行うこともある。学習内容の教材コンテンツは一週間前から公開するので、学生は予習をしておくことが可能である。課題プログラムや小テスト等は、授業当日に公開する。授業時間内に課題や小テストを完了した学生は、授業途中でも帰ってよいことにしている。
我々が実践しているセルフラーニング型授業は、遠隔型のeラーニングと比較して、(a)授業時間が確保されており、対面でのフォローが可能なこと、(b)学習者の学習のペースは自由だが、授業当日中の課題と一週間後が締め切りの最終課題によって学習の進度の同期をとることの二点が大きく異なっている。学生が自分自身で学習を進めながらも、教員からのフォローや学習進捗の適切な管理によって、自己学習力が不足する学習者を支援し、自己学習力を少しずつ育成できると考えられる。
3.2. 学生補助員制度の整備と支援業務のための情報システムの開発・活用
学生補助員(LTA)を活用した支援を効率的に行うためのユーティリティを独自に開発し、活用している(10)。本ユーティリティは、支援要請に対して、LTAの募集と割り当てから、LTAの作業報告、給与支給のための勤務表の作成までをサポートする他、支援業務の記録を蓄積し、支援スタッフで知識共有する機能を備えている。このような「支援業務」を支援する情報システムを構築することで、業務が大幅に効率化された。特にLTAの作業についての事務的作業の自動化の効果が大きい。
(2) 教材開発支援
(3) 授業の支援
(4) ヘルプデスク
(2) 電子媒体による情報発信
(3) 紙媒体による情報発信
(4) 帝京大学版コンテンツショーケース
2005年度前期末に、コース管理システムを活用している教員に対してヒヤリングを実施した。教員からのコメントは、「学習習慣を身に付けるのに役立っている」「用意した教材を自らどんどんやっている」、「授業での質問が増え、学生が積極的になった」等、学生の自己学習力獲得に役立っていると考えられるものが多かった。また「今までは(教育の情報化を)やりたくてもできなかったが、LT開発室やLTAの協力おかげでできるようになった」といったコメントもあった。LT開発室の支援によって、教育の情報化に力を注ぎ始めた教員も少なくないようである。
2005年度後期末に、本取組が最も進んでいる情報科学科の1年生から3年生を対象に以下のような質問のアンケートを実施した。367人から回答があった。
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