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2005年度研究教育環境分科会 第1回会合「ITを活用した授業支援−教育の標準化と質の向上−」

2007年問題に向けて、次世代大学教育を考える


■講演内容
  1. 2006年問題、2007年問題、2008年問題
  2. 教科情報の諸問題
  3. 教員構成の問題
  4. 大学全入問題と学力
  5. 次の教育、未来の教育

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プレゼンテーション資料 PDF file
写真_家本修氏

大阪経済大学 経営情報学部
家本 修

 
アブストラクト
大学のおける2007年問題は、言われる以上に多くの問題を含む。「少子化による大学全入」「情報教育の必修化生徒の入学」「入学生の学力低下」「生活能力低下」「創造性低下や実行能力低下」等々である。一方においては、大学教育として高品質の教育を実施し提供する必要がある。教育は国力であると言われてから久しいが、各大学は足元的な解決策しか見出していない。そこで大学教育として次の進むべきステップを検討してみたい。
キーワード
大学全入、情報教育の必修化生徒の入学、入学生の学力低下、生活能力低下、高品質の教育


概要
     大学教育にとって2006年問題、2007年問題、2008年問題が次々と出現してくる。2006年問題は、情報教育の必修化の初年度学生の入学、指導要領改定による「ゆとり教育」学力低下学生の入学、2007年問題では、団塊世代ベテラン教員の定年の開始、2008年度では、大学全入時代の到来が迫っている。見方を変えれば、日本の高等教育にとっての大問題ととらえるか、改革の大チャンスととらえるかは経営・運用の能力の問題である。
     一方、より大きな問題も内在し始めている。在学生の学習レベルと学習達成度の問題、大学自体や教員個々の教育能力問題、卒業に至る教育制度の問題が山積している。これらは、入学生の量の減少による全体的な学力低下にも起因しているし、教育制度・方法への国民感情の動揺があったのかも知れない。それ故、足元的な改定に終わりより問題を深くしている。
     そこにおける諸問題に本質的要素が加わっていることに気がついていない可能性がある。学力低下が、生活能力の低下につながることを再認識する必要がある。多くの教員は実証されない限り別問題であると高を括るが、教育の本質的な部分を失っているに過ぎない。本質は、知識や技能だけではない、生活や社会的能力の育成である。身近なものを見ても情報処理能力の育成とは言い易いが実質が伴っていないのも事実である。
     更に、大学の教育機関や教育関係者は、覚悟さえ決めれば簡単に解決する問題も多くある。教育の品質保証は教育の達成評価、到達保証によって成立するが、踏み切れる勇気さえないし、達成評価のための評価基準などは「私の科目にそぐわない」や「評価権が保持できない」などの逃げで、なかなか成立しないのも事実である。誘導されやすい受講者評価の有効な初期段階は終わったのであろうが、未だ内容を改め提案しようとはしない。保証と評価は車の両輪であるが、国際的に基準を保証していくためには確固たる姿勢を示す必要がある。
     加えて高品質の授業を求めさまざまな試みも行われている。e-learningしかり、参画授業しかりであるが、明確な到達保証なくして高品質な授業がどうして実現できるのか不思議である。
     高品質な授業に「授業の分かりやすさ理解のし易さ」をコンテンツに帰結させようとする向きもある。一方においては事実であるが、肝心な問題を見落としている。授業方法あってのコンテントであり、コンテンツである。コース設計・IDと言えどもこの基本的問題を逃げて有効性を論議してもなんら意味を持たなくなる。だからこそ今、国力をかけた大改革が迫られている。
     多くの国は「教育は国力である」との認識で、教育の再生に乗り出している。教育・教育方法は、科学である。諸科学の成果や知見をいかに活用するかは応用科学としての醍醐味であるにも関わらず自らの狭い範囲の経験則しか適用されていない。それでもって、保守的教育が実施されるのであるなら堪ったものではない。小学校のドリル学習が行われ、成長してもなお繰り替えされるのは、何の根拠があるのだろうか。10歳を越えた学習者はエピソード記憶を重点に展開すべきであって、記憶のメカニズムと教育方法が連動していないのは信じがたい。しかも、e-learningコンテンツやテスト法においても中心的学習方法として展開しているのは何を考えてのことだろうか。これでは、興味関心どころか忍耐と我慢の教育である。本来、学習の面白さ、知的学習欲求への展開は、教育の基本的な幹であった。それ故、科学へのロマン、夢が生じ、次なる学習へ展開していったはずである。

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