富士通(株)文教ソリューション事業本部 文教ソリューション統括部 安納 順一 E-mail: annou@soc.ssg.fujitsu.com
1.従来のe-Learningシステムの問題点 富士通が誇る e-Learningシステム、「Internet Navigware」など、古くから e-Learning システムは存在し、大学に導入されてきた。しかしながら、現状では「活用」されている事例は少なく、さらには全学的に利用している例は数えるほどと言ってよい。 まさに教育の実践現場であり、かつITとの融合を早い段階から模索してきた大学において、なぜ e-Learningシステムが普及しなかったか。それは、従来の e-Learningシステムが抱える根本的な問題が原因となっているためである。その問題点とは、(1)自己学習を想定したシステムであること、(2) 教材作成の負担が大きすぎること、(3)授業スタイルの変革が求められること、の3点である。 (1)の問題は、e-Learningシステムが世の中に出だした頃は誰も気づかなかった。e-Learningとはこういうものだという先入観や目新しさのためか、「オンラインテスト」や「自動採点」、「自動進捗管理」など、まさにコンピュータが得意とする機能を強引に見せつけられることにかえって歓迎的でもあった。これらの機能をなんとか授業で生かそうと模索してはみたものの、「何かが違う」という微妙な違和感が存在した。その違和感の原因は気づいてみれば実に単純なことであり、従来のe-Learningシステムが「対面授業」を想定したものでないという根本的な思想の違いであった。通信教育やオンデマンド講義の場合、学生にとっての相棒はコンピュータの中にある「教材」である。しかしながら、対面授業においては、学生は教員と対峙し教員から知識を得るという大前提があり、その補助的道具としてコンピュータが存在する。しかし、従来のe-Learningシステムは自己主張が強く、その中に「全て」が含まれていることを要求する。そのため、下手をすれば教員が「説明をしてくれるおじさん」的な位置づけであるという錯覚が発生してしまい、対面授業の意味がなくなるという本末転倒が生じる。 (2)の問題は、「コースウェア」とよばれる市販の教材においてカバーできるようにみえるが、実はそうではなかった。大学の授業には均一化を求められてはいない。そのため、e-Learningシステムを授業に取り入れ活用するには、独自のコンテンツ作りが求められる。コンピュータをワーキングフィールドとして独自性を考えた場合、とかく「アニメーション」や「動画」といった、俗に言う「マルチメディア」を活用し、アイキャッチに優れた要素に注力してしまいがちである。このことは、黎明期よりコンピュータシステムに携わってきた人間であれば苦笑混じりにうなずかざるを得ない事実であり、コンピュータに敷居を感じる世代の教員であればなおさらであった。これは、メーカー側の責任が非常に大きいことはいわずもがなである。結局、マルチメディアを活用した独自性のあるコンテンツの開発は、誰にでもできるものでなく、タダでさえ忙しい教員にとって、当然のごとくその優先度は最後尾に位置づけられることになる。 (3)の問題点も、他の問題点と同様にe-Learningシステムに対する「気負い」の結果である。こうしたe-Learningシステムは、本来の授業に取って代わることを目的としており、授業を支援するという面が希薄であったといえる。そのため、「教員が学生に教える」ことを基本的なスタイルとして維持し、かつ対面授業においてこそ独自性を表現しなければならない大学にとって、ある種「質」の均一化をはかろうとする e-Learningシステムは根本的に矛盾したシステムであったといえる。