News LetterSS研HPCフォーラム2003 〜Q&A〜
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2003/10/03
「E-CELL Project : 細胞のコンピューターシミュレーション」
議論にご参加頂いた方々
講演者 : 中山洋一 (慶應義塾大学先端生命科学研究所)
参加者 : 豊田幸宏 (電力中央研究所)
鈴木孝利 (大興電子通信(株))
折居茂夫 (富士通(株)計算科学技術センターバイオIT開発室)
座長 : 岩宮敏幸 (宇宙航空研究開発機構)
岩宮 : 会場の方から質問等ございましたらお願い致します。

鈴木 : そういう細胞の中の化学反応をシミュレーションする研究を進めていきますと、究極的に行き着くところは、結局普通の反応速度式で細胞の中の現象は全て記述されるとお考えでしょうか?

中山 : 少なくとも代謝反応については、反応速度式と代謝流束モデルのハイブリッドで記述することは可能と考えています。 但し、例えば遺伝子発現であるとか、あるいは巨大な立体構造が細胞中に存在しておりますので、細胞膜の挙動の一つもそうですし、細胞骨格の挙動といったものまで含めた表現となりますと、あのような速度式だけでは難しいだろう、というように想像されます。

実際に私どもは遺伝子発現、あるいは、シグナル伝達系におけるタンパクの相互作用などといったものの表現的には、やはりかなり違った手法を用いています。

鈴木 : つまらないお伺いかもしれませんが、よく活性酸素のお話を色々なところで聞くのですが、活性酸素というのは、そもそも酸素原子が励起されている状態で非常に酸化しやすい状態のことでしょうか?

中山 : はい、非常に酸素自体が結合しやすい状態で、励起しています。

鈴木 : どうもありがとうございます。

折居 : 2つほど質問させて頂きます。
まず一つ目は、キャピラリー電気泳動と質量分析計で代謝物質を測るのだと思うのですが、今までずっと疑問に思ってきたのですが、細菌など一度殺してから測るということでしょうか?

中山 : はい、そうです。

折居 : その場合、生体内の場合と違ったものが測れるのではないかと、ずっと疑問に思っていたのですが。

中山 : 恐らく殺し方の問題なんだと思いますが、私どもの場合、瞬間的に零度以下にされたメチルアルコールに細胞をパッとつけて溶かし、そこから水の層だけを抽出してくるので、温度的には零度ギリギリ下回るくらいにコントロールしながらやっております。 恐らくその状態では酵素はほとんど動いていないだろう、と想像しておりますが、まだそこは確認しておりません。

折居 : 分かりました。
もう一つですけれども、赤血球のシミュレーションで還元型グルタチオンの生合成がG6PD欠損症を相補するというお話をされていて、それを含めると上手い具合に現象が説明出来るとお話されていたかと思いますが、グルタチオンの生合成経路というのは、実際に細胞が正常な時のシミュレーション上ではどう取り扱っていらっしゃるのでしょうか?

中山 : 実際に生化学的な実験から得られた式そのものを実装しているわけです。 ですから意図的に何かのデータを実装しているわけではございません。 実際に正常な状態に取り組むと、あのようなG6PD欠損状態下の約3〜4%位の活性しか出ていません。 正常なペントースリン酸経路の場合、そこのフラックスが非常に大きいものですから、グルタチオンそのものを合成する経路はほとんどかき消されて実際には何も影響ないというのが正常な状態のシミュレーション結果です。

実際にいくつかの文献では、フラックスが測られておりまして、やはりほとんど動いていないということから逆に注目されていない、というような状態になっています。

折居 : 分かりました。 どうもありがとうございました。

豊田 : 大変面白いお話どうもありがとうございました。 私は工学の方に身を置いているものですから、非常に突出的な質問で恐縮なのですが、2点ほど簡単な質問させて頂きます。

一つ目は中盤辺りのお話で、ゲノム配列から反応式を作るというお話がありましたけれども、それは結局生体の個体差を考慮して、例えば反応速度式ベースのモデルを自動的に作るようなツールなのでしょうか?

中山 : 残念ながら、代謝マップを自動的に書くという方が正確です。 そのような動的な記述はできません。 説明が足りなかったかと思いますが、SWISS-PROTには化学式も書いてございますが、これと実際の遺伝子配列をマッチさせて沢山集めて組み合わせる、簡単に申し上げるとそういうことをやっております。

化学量論係数行列を作るというのは簡単ですが、そこにダイナミックな情報を入れるには反応速度論パラメータや式を持ったデータベースが必要ですが、残念ながら、完全なデータベースは存在していません。 いくつかの速度パラメータの入ったブレンダというデータベースはありますが、式まで入ったデータベースは現存しておりませんので、それは残念ながらまだ出来ないという状態です。

豊田 : 分かりました。
最後に一つですが、最後のスライドのところで、stochastic(注:確率論的)なモデルという文言がありましたが、あれはどのような現象を対象に解かれるのでしょうか?

中山 : 代謝の場合、非常に関わる反応分子数が多いものですから、ほとんどstochasticな動きは見えてきません。 どちらかというと問題になるのは遺伝子発現です。

大腸菌の場合、盛んに分裂している細胞ではnが2〜4になります。 分裂が停止していれば、1になります。 そうすると、多いの場合でも遺伝子は4つしか細胞内に存在しないということになります。 このような状態ですと、やはり非常に小さな細胞ですからstochasticな動きがかなり見えてまいります。

岩宮 : どうもありがとうございました。
時間も来ましたので、これで終わりたいと思います。 もう一度拍手をお願い致します。(拍手)


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