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1.はじめに

東京大学物性研究所では平成6年度にVPP500/40を導入し、平成7年度 から全国共同利用プロジェクトを通じて、全国の物性物理研究者により利用され ている。その目的は、通常の大型計算機センターでは実行できない先端的な大規 模計算をサポートし、日本の物性科学研究における計算物理学の発展を図ること にある。

計算物性物理における計算手法は、第一原理電子状態計算、数値的厳密対角化法、 モンテカルロ法、分子動力学法など非常に多岐にわたる。また、計算物性物理の 特徴の一つとして、新しいアルゴリズムの開発そのものが新しい研究と密接に結 びついている場合も非常に多い。すなわち、研究者一人一人が各自のプログラム を開発しつつ、そのプログラムを用いた大規模計算を実行することになる。した がって、物性研のVPP500も、単なるアプリケーションサーバとして利用されるの ではなく、新しいアルゴリズムを用いたプログラムの開発環境としても重要な役 割を果たしている。

一般に、計算物性物理のシミュレーションにおいては、シミュレーションする系 の物理的なパラメータ(温度等)に関してパラメータスキャンを行なうことが多い。 また、ランダムネスをもつ系を扱う場合には、数十から数千のサンプルを独立に シミュレーションし、それらについての平均(ランダム平均)を取ることになる。 このような場合には、パラメータ(あるいはランダム平均)に関する自明な並列化 (いわゆるembarassingly parallel)が最適な並列化である。しかし、

(1)
1プロセッサの主記憶容量をはるかに越える主記憶容量(数十GB〜数百 GB)が必要となる場合
(2)
1プロセッサでの実行では、数日(〜数年)を越える時間が必要となる場合
には、非自明な並列化が必要となる。ここでは、一番目の例として、古典スピン 模型の自由エネルギーの計算に使われる「転送行列の厳密対角化法」、二番目の 例として、量子スピン模型の物理量を確率的に求める「量子モンテカルロ法」を 取り上げ、我々が実際に行なった並列化についてその手法を具体的に紹介し、 VPP500での性能評価、他機種との性能比較の結果を報告する。


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