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SS研教育環境分科会2013年度第2回会合 分科会レポート

岩城暁大(香川大学)

 10月23日に「学生主体の学びとその支援 -Open Education-」というテーマで教育環境分科会 2013年度第2回会合が開催された。大阪工業大学の中西通雄氏による開会のあいさつの後に、3件の発表が行われた。

 1件目の発表は「Open Educationの新展開:MOOCの衝撃とその進化」として、放送大学の山田恒夫氏が講演を行った。
 オープン教育とは、画一的・強制的な伝統的教育に対立するコンセプトであり、従来の教育システムでは教育機会を得難かった学習者にその機会を提供できる新たな教育システムである。この教育システムは日本では認知されていなかったが、MITのOCW(Open Course Ware)等の、オープン教育資源(OER :Open Educational Resources)における取り組みから知られるようになった。MIT-OCWは授業資料を全科目公開することであり、伝統的大学がこの取組みを行ったことが社会にインパクトを与えた。
 日本オープンコースウェアコンソーシアム(JOCW)には多くの大学が参加しているが、大学の中でOCWなどOERを位置付ける議論は難しく、大学としてどう進めていくかというOERポリシーを形成しにくかった。それは、大学経営側としては、教育資源公開の意義を明確に説明できず、大学の教員側では自分の講義を公開することが負担につながる可能性を危惧したためである。放送大学では、トップダウン的にOCWポリシーを作り、どのようにOCWを継続的に進めていくのか明確に打ち出した。

山田先生ご講演
山田先生ご講演

 次にMOOC(Massive Open Online Courses)について説明があった。
MOOCの特徴としては、数万単位の学習者がいる・オンライン等で公開されている・教材の配信ではなく単位や学位も場合によっては取得することができるという点である。
 MOOCとOCW・オンライン教育の相違点は、OCWでは授業など教育コンテンツの公開であるが、MOOCは教育そのものの提供を行い、単位や学位なども取得することができる。しかし、教育効果の質保証や、指導や単位等の評価と認定をどう行っていくのかが問題となっている。オンライン教育という点ではMOOCは従来のオンライン講義と変わらないが、MOOCでは公開だけでなく、大規模な単位認定も行うため、指導や修了認定に新たな仕組みが必要になる。
 脱落率という指標でMOOCの発展段階を見ていくと、第1段階は新規OERにすぎないと判断される段階であり、これは現在の状況である。これが通信制大学などの遠隔大学や公開大学の脱落率に近づくとオープン教育の新たなモデルとなり、公開大学にとっては大きな脅威となる。伝統的な大学講義の脱落率まで低減し、MOOCの質が伝統的大学と同等以上になっているとコミュニティから評価されると、高等教育が大学の専有物でなくなる。仮にMOOCの単位を同等と認定する第三者機関が出現すると、MOOCのあり方も変わってくる可能性があり、通常の単位だけでなくMOOCの中か何単位か互換し、卒業できるようにできるようになるかもしれない。しかし、様々なレベルの講義があるため、単位に対する評価基準を考えておく必要がある。また、反転授業が通常講義に使われてくると、格段にMOOCの使用頻度が変わり、今後の高等教育の変革においてどのように扱われるかで、MOOCの将来的な形がさらに変わってくる。
 ある講師の講義を別の大学で使う際にその大学に所属している講師の研究領域の重複の問題が起き、そこからMOOCの拒否反応という話もあるが、大学の講師が必要なくなるのではなく、大学教員の役割が各個人のMOOCを履修する際のコーディネーターなどに変化していく。
 日本版のMOOCの意義は、北米系MOOCは加盟の条件が厳しく、日本の大多数の大学はプロバイダーになれず、利用者にしかなりえない。「日本人による日本人のための日本語によるMOOC」という視点で考えると、新たな学びの場所を提供するということで、産学連携の枠組みや日本からのコンテンツ発信のプラットフォームとして使用できるという意義がある。ただ、JMOOCは、共通理解が醸成されていないが、この数年で作り上げていくことになると考えている。
 最後に、JMOOCの組織と活動について紹介が行われ、質疑応答の後終了となった。

 2件目の発表は「オープンエデュケーションと日本の大学教育の展望」として、京都大学の飯吉透氏が講演を行った。
 高等教育はグローバル化が進んでいるが、日本の教育機関には山積している問題がある。
その中で大学はMOOCをどう取り上げて、意味のある形にしていくのであろうか。MOOCへの取り組みは大学の今後を見るための試金石である。
 オープンエデュケーションとはテクノロジーの力を借り、教育が「自己拡張と自己進化のための恒久的な仕組み」を手に入れた形であり、一人ひとりの学びにとって無限の可能性を秘めた次世代の教育環境である。オープンエデュケーションとグローバルな人材育成は接点があり、広い視野や多面的洞察が行え、専門的知識を持った超T型人材の育成につながる可能性を持っている。

飯吉先生ご講演
飯吉先生ご講演

 MOOCでは大学ではなく個人の講師に焦点が当てられるという特徴があり、その個人の講師の教える理念などを生かせる形でコンテンツ化・利用の体制ができるようなMOOCに、いかに進化させていくのかが課題として挙げられる。
 また、MOOCに対する教員の反対はあるが、MOOCへ進む流れは止められない。ただし、これからMOOCが導入されたその後の体制を考えておく必要があり、またMOOCをめぐる教育的評価・質保証の課題も挙げられている。講義科目を単品ごとに受けることで、カリキュラムが崩壊する懸念があるが、コンテンツのシーケンス化を行い、様々な組み合わせで履修をできるようにする。シーケンスでプチカリキュラムとして利用し、誰でもそれを定義できるようにできれば、中小企業が求めている人材を見つけやすくすることができるようになるかもしれない。ビッグデータを活用することで、他の受講生の成績評価の分布を提示し、自分がどの成績になっていくかを見ることができれば、モチベーションの維持につなぐこともできる。
 MOOCにより、アマチュアなども興味ある講義を開講できるようになり教育の進展につながっていく。ただし、日本でのオープンエデュケーションの導入は文化社会・制度などに問題がある可能性があり、そこを変革しなければ、日本でMOOCは広がっていかない可能性がある。問題が解決され、MOOCが導入されていけば大学教育は大きな変化を余儀なくされ、教育の質が変化していき、大学の教育機関としてのあり方が見直されていく。
 最後に、質疑応答が行われ、終了となった。

 3件目の発表は「北米におけるCuration Learningの実践」として、アメリカ富士通研究所の内野寛治氏が講演を行った。
 働き手が身につけなければいけない「21世紀スキル(思考、働き方、ICTの活用、世界で生き抜くためのスキル)」をOpen Education Platform(OEP)によって身につけることを考える。キュレーションとは、「さがす、まとめる、ひろげる」という一連の行動のことであり、日本ではNAVERまとめサイトなどで同じ構造が見られる。ユーザーはいかに注目を浴びるか考えてページを構築していくことで、創造性を働かせているといえる。
 フォーマルな学習だけでは、日々変化する研究や世界情勢を追い、研究することは不可能である。そこで、ブログやニュース、ビデオなどのコンテンツキュレーションを活用することにより、フォーマルな学習ではまかなうことができない範囲の学習を行うことができる。一度つくられたコンテンツキュレーションは蓄積され、他者からのフィードバックを受けて、さらに新たなコンテンツキュレーションがつくられる。

内野様ご講演
内野様ご講演

 北米では、コーディネーター・チューター間で「まとめ」を共有し、効率的に質の高い「まとめ」を提供したり、生徒にキュレーションを使った課題の提出を求める実験が行われた。
その結果、学習目的に特化した検索機能や生徒がより楽しんで利用できる仕組み、アセスメントが求められている。ただし、既存のSNSとの連携は敬遠される傾向にあり、新たな工夫が必要である。
 上述した内容は大学における適用事例であるが、企業においてもOEPを活用することで組織内のナレッジメントの構築や、OPEの専門的知識と経済に対する理解を併せ持つ専門家の育成に寄与することが可能である。キュレーションラーニングは、アカデミックのみならず、企業においても21世紀スキルを培うために有用であるといえる。

 そして、最後に、京都大学の喜多 一氏からの閉会のあいさつがあり、会合を閉会した。

以上

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