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システム技術分科会 2013年度第1回会合 分科会レポート

北川直哉 (名古屋大学)

 8月28日に「災害対策からBYOD対応まで、BCPのための最新ICT技術」というテーマで、システム技術分科会2013年度第1回会合が開催された。九州大学の岡村耕二氏による開会のあいさつに続いて、計5件の発表が行われた。

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岡村耕二氏 (九州大学)

 1件目の発表は「スマートデバイスをリモコンとして活用するWeb版クリッカーの紹介」と題する長崎大学の古賀掲維氏の講演である。近年、大学では学士課程教育の再構築に向けた取組みが行われており、長崎大学では平成24年度より教育改革の方針を掲げ、アクティブ・ラーニングの徹底を行っているという。その中で、大規模な講義でも比較的容易に導入でき、教育者と学習者間の双方向コミュニケーションを可能にする手法として、クリッカーを挙げることができる。一般的にクリッカーを利用する際には、学習者は配布された専用のリモコンを使用して質問に回答し、教育者はレシーバを挿したパソコンで質問の作成や回答結果の閲覧を行っていた。このため、機器の配布や回収の手間や、専用ソフトウェアの操作への慣れが必要となるデメリットがあった。

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古賀掲維氏 (長崎大学)
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 長崎大学では、クリッカーをより簡単に利用するため、学習者は個人のスマートフォンや携帯電話をリモコンとして質問に回答でき、教育者はフルブラウザによって質問の作成や結果の閲覧が行えるシステムの開発を行ったという。また、質問を作成する際にランダムに生成される4桁の数字を各質問へのアクセスキーとして使用することにより、単一のURLからの回答が可能となり、ブックマークへの登録やQRコードの活用を容易にしているとのことである。
 実際に大学の講義でこのクリッカーシステムを利用したところ、学生からの反応は良く、今後学内で普及活動を行っていくという。
 また、本会合の各講演においても聴講者への質問等でこのシステムが利用され、講演者と聴講者の間で対話的な発表が行われた。


 2件目の発表は、東北大学の曽根秀昭氏による「学内情報通信基盤の耐震対策の効果」と題する講演である。東北大学は、東北地方太平洋地震による甚大な被害を受けたものの、建物の耐震補強や情報基盤機器の固定等の様々な耐震対策が功を奏し、学内情報基盤への被害は比較的軽微であったという。

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曽根秀昭氏 (東北大学)
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 大震災後、東北大学の全学情報基盤に関係する建物や、機器およびサーバ類に大きな問題はなく、電力供給が回復され次第稼働可能な状態だったという。しかし、地震発生後の停電により各種サーバやネットワークが停止し、インターネットから参照が不能となった東北大学はネット上で様々な風評が立ったという。そのような状況の中、地震発生後2日目にウェブサーバを再開し、3日目に更新を開始した。ウェブページは、携帯電話からの閲覧を考慮して文字ベースの緊急連絡ページを追加し、職員・学生向け情報連絡を確実に伝達できるようにした。
 また、東北大学では平時から情報基盤の災害対策として、フロアやラックの耐震補強を実施していたことや、機器室を頑丈な構造の建物の低層階に設置していたことに加え、十分な量の非常食料や飲料水、懐中電灯、乾電池等を備蓄していたことが奏功し、復旧対応の執務の継続が可能だったという。
 また災害対策の課題として、職員の連絡手段の確保が挙げられた。停電や通信の停止により緊急連絡網が不通となり、電子メールや学内情報システムが使用できない状況で、如何にして情報の伝達や共有を行うかを考えていく必要がある。また、情報サービス運用の非常時への備えとして、非常用電源の確保や情報システム・サーバの学外設置、さらに情報の発信や共有の体制の強化等、基盤設備や体制を多元化していくことが重要であるとのことである。


 3件目の発表は「非常時を想定した大学ICTのあり方と現状」と題して京都大学の梶田将司氏が講演を行った。

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梶田将司氏 (京都大学)
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 「普段使わないものは災害時にも使えない」ことが災害対策の基本原則であり、言い換えれば、「通常運用システムに非常時用が組み込まれている」ことが重要であるという。すなわち、定常運用コストに非常時コストが組み込まれている必要がある。そのようなシステムの一例として、京都大学の一斉同報通知・確認サービスが挙げられた。このシステムは、通常時には講義関連の通知等に利用している全学メールシステムを、非常時には安否確認や緊急通知に使用する。京都大学では教職員や学生に通常時から全学メールを使用するよう呼びかけており、現在では学生の約7割程度が利用しており、利用率は向上しているという。
 全学メールのシステムは、教職員用は2012年12月に群馬県のデータセンターに移設が行われ、学生用は2011年12月からマイクロソフト社のクラウドサービス“Live@edu”を利用している。これにより、京都大学のキャンパスが被災した場合でも、全学メールは停止することなく利用することができるとのことである。


 4件目の発表は「九州大学におけるPC必携化」と題する九州大学の殷成久氏の講演である。九州大学では2013年度の新入学部生より、講義や自習のための個人用PCの必携化を実施しているという。そのための環境整備として、教育用無線LANの整備を行い、また各学生のPCを講義で使用する際の環境をできるだけ揃えるために「新入生PC講習会」が開催された。

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殷成久氏 (九州大学)
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 講習会では、学生アカウントの有効化、無線LANの設定、ソフトウェアのインストール等が行われた。この講習会に、学部新入生のほぼ全員が出席し、現在まで混乱なく個人PCを使用した講義が行われているとのことである。
 大学推奨のPCを選定する際、総合大学では専門分野によって使用するOSが異なるため、学科単位で推奨PCが選定され、情報総括本部ではあらゆる機種を想定して対応したという。
 講習会はWindowsユーザ向けとMacユーザ向けに分けて実施された。Macユーザ向けの講習会では、各種設定やソフトウェアのインストールに加え、Windowsが必須となる講義に備えてBootCampを使用してWindowsをインストールする作業が実施されたとのことである。
 特に大規模な総合大学では学生の人数や専門の多様性等からPC必携化は容易ではないが、今後予算削減やPCを活用する講義の増加等の要因により、PC必携化を実施する大学が増加していくことが予想されるという。


 最後の発表は、株式会社富士通研究所の松本達郎氏による「コンテキストデスクトップ技術 -状況に応じてスマート端末を専用端末化-」と題する講演である。スマート端末が普及し、従業員が私物の端末を持ち込んで業務に使用するBYOD(Bring Your Own Device)が注目されている。BYODは、使い慣れた端末を使用できることによる生産性の向上が期待できる点や、時間や場所を問わずに業務ができるという点、さらに端末購入費や通信費のコストを低減できる点がメリットとして挙げられる一方で、情報漏洩やプライバシー保護の課題や、私的利用と業務利用の通信費分担や労務管理の点で問題がある。

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松本達郎氏 (株式会社富士通研究所)
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 これらの問題のうち、特に情報漏洩やプライバシーの問題を解決するために、デスクトップ仮想化方式、リモートデスクトップ方式、セキュアブラウザ方式、モバイルアプリマネージメント方式の4つの方式による製品が開発され、発売され始めている。富士通研究所では、これらの方式のうち、比較的処理の軽いセキュアブラウザ方式とモバイルアプリマネージメント方式の双方のメリットを生かした新たな方式を開発したという。開発された技術のうち、セキュアブラウザの発展形として、セキュアアプリ配信実行技術が挙げられる。この技術は、アプリとしてPackaged Web Appsを対象とし、これをセキュアに配信・保存・実行を行うものであるという。また、モバイルアプリマネージメント方式の発展形として、コンテキストデスクトップ技術が挙げられる。これは、位置情報等の端末の状態に基づいて利用可能なアプリを制限し、状況に応じてアプリセットを切り替える方法であるとのことである。
 これらの技術により、職場、学校、営業先等、その場所に応じたサービスの提供が可能となり、スマート端末の利便性を損なうことなく、管理されたセキュリティの確保とアプリの安全な実行が可能となるという。


 最後に、九州大学の岡村耕二氏が閉会のあいさつを述べ、会合は閉会された。

以上

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