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科学技術計算分科会「サイエンティフィック・コンピューティングの最前線」

「GRAPE-DRとスーパーコンピューティングの未来」


(7/8)

7. HPC の今後
  現在はベクトル並列計算機の性能向上が停滞期にはいってから 30年、マイクロプロセッサの性能向上が停滞期に入ってから 15年程度たった時期になる。つまり、ベクトル並列計算機からマイクロプロセッサベースの分散メモリ計算機への移行にあたる、新しいアーキテクチャへの移行が始まっているはずの時期であり、その候補になりえるものは前節でみたようにないわけではない。

  しかし、汎用マイクロプロセッサはベクトル計算機が持っていなかった大量生産によるコスト・性能面のメリットを持つため、理論的には優れているアーキテクチャでもかなりの投資をする、あるいは非常に大きな利点を持つものでなければ汎用マイクロプロセッサと競合できない。このことが、あまり有望な新アーキテクチャがないように見える大きな理由であろう。

  これは、言い換えると HPC専用プロセッサはコストメリットがない、ということである。しかし、良く考えてみるとこれはそれほど自明なことではない。例えば日本の次世代スーパーコンピュータープロジェクトは年当り約150億もの予算を使っている。これに対して例えばグラフィックチップ専業メーカー nVidia の年間総売り上げは 2000億円程度であり、10倍程度の差でしかない。つまり、次世代スーパーコンピューターが、商品化されてその総売り上げが投入された税金の 10倍程度になるなら、グラフィックチップの業界最大手と同等の売り上げになるわけである。ちなみに、インテルの売り上げは nVidiaの数十倍である。

  そんな売り上げは夢のような話で現実的ではない、という意見もあるかと思うが、それは、実際に開発されるものに市場競争力がない、ということを前提に考えているからである。HPCマーケットは意外に大きく、Top 500リストに現われるものだけでも Top1の機械の 20倍以上の能力になる。さらに小規模なサイトまで数えるなら 2桁程度は大きいであろう。現在は、小規模なシステムは殆ど PCクラスタになっている。PCクラスタよりも価格性能比でメリットがあり、いくつかの重要なアプリケーションが動作するなら期待されるマーケットは小さくはない。

  もちろん、このためにには、ある程度量産したなら単体でマイクロプロセッサよりも価格性能比が良い、という条件が必須である。これはしかし、マイクロプロセッサのトランジスタ利用率をみれば現時点ではそれほど難しい条件ではないはずである。GRAPE-DRおよびその後継では、我々はそういう方向を目指している。

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