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2007年度合同分科会 「ICT社会を支える人"財"像」 討論会・話題提供

ICT社会を支える人"財"像


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写真_木村氏

富士通株式会社
次世代テクニカルコンピューティング開発本部
本部長  木村 康則



  1. はじめに
     ICT社会を支える人“財”像につき、企業での研究開発経験、大学での教育経験(非常勤)に基づき、個人的な見解を述べる。
     まず、ICT社会における技術発展の特徴について感じていることを述べ、次に、最近入社してくる新人(大学等の卒業生)について偏見も含めて感想を述べる。最後に、では企業から見てどのような人“財”を期待しているか、について私見をまとめる。
     なお、パネルでの議論を活発にするため、敢えて論理的に飛躍している記述も多々あるが、お許し願いたい。

  2. ICT社会における技術発展の特徴
     これは誰でも気がついていることであるが、その「技術進歩の速さ」が第一の特徴であろう。3年後かなと思っていたことは1年後に起こる。これは説明するまでも無いと思う。
     もう一つ重要な特徴は、技術進歩の方向が読めない、不確実なことである。私の経験を2つ挙げる。
     私は1995年に、米国の大学に客員研究員として短い間滞在した。1995年は丁度、WEB  Browserが世に出現した年である。当時、滞在先大学の教授が、NCSAのBrowserを見せて、「Yasunori, take a look at this. This will change the world!」とのたまった。当時はユーザインタフェースも悪く、Hyperlinkで繋がっただけのものの何が良いのか分らなかった。その後、この技術の発展とそれに基づいたビジネスの隆盛は誰の目にも明らかであろう。
     2つ目。いまや多くの人がiPodを携帯し、音楽やニュースを通勤時の電車やジョギング時に聞いている。自分の好みの(圧縮された)コンテンツをネットワークからPC等にダウンロードする。それを大容量のディスクやフラッシュメモリに格納し、携帯時に解凍しながら聞くという仕組みである。Appleはこの仕組みを何年も検討したというが、このような技術の組み合わせは、簡単には思いつかない。

  3. 最近入社してくる新人について思うこと
     ひと言で言うなら、素直できちんと与えられた事はこなす実力を持っている。優秀であるし、組織の中で動ける人材が多いとも言えると思う。(結果的にそういった人材が弊社を希望し、入社しているという面もあろう。)
     ただし、これは言い換えれば、没個性であり、受身であるとも言える。我々の新人のころ(四半世紀前)は、実力はともかく、個性的でなにかと議論を吹っかけてくる猛者が多かったように記憶する。この理由として、ひとえに社会(会社)が成熟したこと、ゆとり教育、大学入試制度等、教育制度が大きく変わったことなどが考えられる。(単に私が歳をとったせいなのかも知れないと密かに恐れているが。)

  4. 企業が期待する人“財”像
     技術の進歩が速く、その方向性が不確実な場合が多いICT社会で企業が期待するのは、その変化に追従できる(あるいは変化を起こすことができる)柔軟さと体力、気力を持った人“財”である。具体的には、以下のような素養を持つ人“財”である。
    • 基礎学力
      ここでいう学力はいわゆる学科の成績等ではなく、論理的な思考ができ、それを他者にきちんと表現でき、コミュニケーションできる能力のことである。
      大学等で学ぶ専門知識は、変化の速いICT業界では、5年も経つと殆ど役には立たなくなると思ったほうが良い。社会に出てから自ら学び考える機会の方がずっと多く、長いのである。新しい概念、方式等を柔軟に受け入れ、かつ自らも発信できるような「基礎学力」が必要である。
      また、企業での業務は一人で行うことはまず無い。複数人のグループで行う。その際、激しく意見が異なることもある。自分の意見を明瞭に表現する、他人の意見も聞く余裕をもつ、合意形成に向けた建設的な取り組みを行う能力が必要である。
    • 基礎体力
       物理的ないわゆる体力もそうであるが、ここでは、辛抱する、頑張る、等の古い言葉で代表される生活態度を重要視したい。一時期、いわゆるバブルの時代には、要領よく生きる、格好良く生きることがあたかも流行であるような風潮があった。しかし、これではきちんとした開発はできない。一般にLSIやシステム、ソフトウエアの開発などでは、数年の期間を要するのが普通であり、すべてが順調に進むわけではない。困難に突き当たったとき、それまでのやり方を検証する、発想を変える、他人のアドバイスを受けるなど、解決策をしぶとく真摯に追求する姿勢が重要である。
  5. おわりに
     ICT社会を支える人“財”像について、主として企業人の立場から私見を述べた。特に目新しいことを述べたつもりは無い。まとめれば、物事に取り組むにあたって、偏見なく客観的に事実をつかみ、問題があれば、あらゆる方策で愚直に解決策を見出す姿勢と言うことだと思う。このような素養を持った人“財”が増え、互いに切磋琢磨する環境になれば、おのずと新しい発想の成果(製品)やトレンドが生まれ、企業はもとより社会全体の競合力向上に寄与すると期待する。

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