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[質疑応答]
2006年度合同分科会 「次世代のIT社会を予想する」 特別報告 富士通のナノテクノロジー
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ナノテクノロジーと情報技術
情報技術を支えるハードウェアとして、情報を処理する半導体集積回路、情報を蓄える情報ストレージ、情報を伝達するネットワークデバイスがある。半導体集積回路の高性能化はトランジスタの微細化により成されてきたが、トランジスタの最小寸法(ゲート長)は、既にナノメータの世界に突入している。情報ストレージでは、磁気記憶媒体の一ビットの情報を蓄える領域がナノメータサイズにまで小さくなっており、また情報を読み書きする磁気ヘッドには、ナノメータ厚の磁性薄膜を制御したGMR(巨大磁気抵抗)膜が使われている。ネットワークデバイスとして、化合物半導体を用いた発光素子や受光素子、そしてギガビット動作やギガヘルツ動作可能な化合物半導体デバイスが使用されているが、いずれも、ナノメータ領域で制御された化合物半導体へテロ接合構造が使われている。即ち、既にナノテクノロジーは、情報技術にとって必要不可欠な技術となっている。 半導体集積回路の高速化と高集積化への要求はこれからも続くと考えられる。低消費電力化をはかるためにも、今後ともトランジスタの微細化を進める必要があり、ゲート長で、30から10ナノメータ程度にまで微細化しなければならない。このとき、トランジスタとしての性能を引き出すためには1ナノメータ程度の膜厚のゲート絶縁膜が必要となる。情報ストレージでは、2010年頃には、1平方インチ当たり1テラビットの記録密度を達成させる必要があるが、このとき、数ナノメータサイズのビットサイズを実現できるナノテクノロジーが必要となり、さらにその情報を読み出す高感度の磁気センサーを実現するためのナノテクノロジーも必要となる。またネットワークのさらなる大容量化と高速化を狙うため、量子ナノ構造を利用した高速・多機能の光機能素子の開発が必要である。即ち、半導体技術、情報ストレージ技術、ネットワークデバイス技術のいずれも、これまでのトレンド通りの進化を遂げようとすると、これから益々ナノテクノロジーが重要になる。
同センターには、ボトムアップのナノテクノロジーにより新しい材料を開発し、エレクトロニクスへの応用をはかるナノマテリアルグループ、ナノの世界で起きる量子現象を利用し新しい光通信デバイスを開発するナノフォトニックデバイスグループ、そして生物学と工学を融合したプロテインチップを開発し将来の医療・健康ネットワーク社会の構築をはかるナノバイオグループ、の三つの研究グループがある。
これらの問題を抜本的に解決するためには、原理の異なる新しい素子や暗号体系を開発するしかない。その候補が量子情報通信技術である。従来の情報通信技術では、“0”と“1”で全ての情報を現し処理されているが、量子情報通信技術では、“0”と“1”の重なりを許容する全く新しい情報処理体系である。この体系を用いると、現存する高性能コンピュータで1億年程度かかる素因数分解の計算が数時間で計算できる量子コンピュータや、物理学的に安全が保証された量子暗号通信が可能になると言われている。 これまでの情報通信技術体系では、“0”と“1”を表現するデバイスとして、半導体トランジスタが用いられて来た。即ち、例えばトランジスタの電流が流れない状態を“0”とし、電流が流れる状態を“1”とし、ユニバーサルな演算を行うことができる。量子情報通信技術体系を実現するには、“0”と“1”の重なり状態を実現できる素子が必要となる。この素子を、量子ビットあるいはキュービット(Qubit)と呼んでいる。ナノフォトニックデバイスグループでは、量子ドットの中に閉じ込めた電子のスピンを利用した新しいキュービットの理論的、実験的研究を行っている。 一方、この量子ドットでは、量子力学的効果により、その中に存在できる電子と正孔のエネルギーが一義的に限定される。これにより、ある特定の波長の光が吸収されたり、またある特定の波長でレーザー発振することができる。また、一個の電子と一個の正孔がこの量子ドットの中で再結合することにより、一つの光子が生まれる。これらの性質を利用することにより、量子暗号通信の実用化に必須となる通信波長帯での単一光子発生に成功している。また、高密度で多数の量子ドットを埋め込んだ量子ドットレーザーを開発、光出力特性にほとんど温度依存が無いこと、高速の直接変調が可能であることを実証した。この量子ドットレーザーを実用化するために、富士通と三井物産のリスクマネーを導入し新しい光デバイスベンチャー会社(QDレーザー社)を設立した。
具体的には、天然のたんぱく質をラベル化処理せずに直接測定できるチップを開発するため、ナノワイヤートランデューサの開発、疾患マーカーたんぱく質と適合する人工抗体の開発、そしてそのチップ化技術の開発を行っている。将来的には、現在の情報技術(IT)と組み合わせることにより、これからの高齢化・少子化社会に対応した医療・健康ネットワークを構築する計画である。
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