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RFIDを用いた学校安心支援ソリューション 〜「登下校お知らせサービス」の事例紹介 〜



  1. はじめに
  2. 開発の背景
  3. 「登下校お知らせサービス」の特長
  4. 「登下校お知らせサービス」のシステム開発
  5. 「登下校お知らせサービス」の機能概要
  6. 導入事例
  7. むすび

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富士通株式会社

山川 幸一(発表者)、堀口 敦、
芝藤 和久、太田 健一


[アブストラクト]
学校の通学途中に児童が危険にさらされる凶悪事件が多発しており、様々な対策が取られています。当社は学校安心支援ソリューションとして、RFIDを用いて児童の登下校時刻を正確にまた迅速に把握することを目的とした「登下校お知らせサービス」を提供しています。今回は、このシステムの開発の背景、システムの特徴、導入時の留意事項を実際の導入事例とともにご紹介します。

[キーワード]
RFID、ICタグ、セキュリティ、安心安全、事例


1. はじめに

 平成13年の大阪教育大学付属池田小学校での児童殺傷事件を契機に、学校内外での安心・安全に対する社会の関心が高まった。小学校に不審者が侵入して児童の生命・身体に危険を及ぼすおそれがあった事件は、平成16年度は22件起こっている(警察庁発表)。さらに、登下校途中の事件もあとを絶たない。

 最近の学校内外での事件の増加により、登下校の安全対策が課題になっている。そのため学校では、児童が在校しているか帰宅したかを把握することが重要な業務となっていた。しかし、事件を予防および対処するための、児童の登下校の状況把握や緊急時の連絡は、教職員による目視確認と電話伝達で行われているのが従来の対応であった。

 当社は、学校業務の効率化と保護者に対する安心安全を提供するサービスとして、アクティブ型RFID(Radio Frequency Identification)タグを使用した「登下校お知らせサービス」を開発し、提供を開始した。

 本稿では、「登下校お知らせサービス」について、開発の背景、サービスの概要、導入事例を紹介する。



2. 開発の背景

(1)新しい侵入監視システムの開発

 学校への不審者侵入を防ぐ手段として、これまでも赤外線センサや監視カメラによる入退場者の管理などの対策が行われている。しかしながら、このような監視システムでは、個人の識別までできないため、関係者が出入りしても警報が発生してしまうなどの不都合もある。実際に工事業者の出入りのために、監視システムを一時的に停止しているときに、不審者に侵入されたケースもあった。

 そこで、RFIDタグを使用して、従来の監視システムに個人識別機能を付加した新しい侵入監視システムの開発に着手した。



(2)教職員・保護者の悩み

 システムの開発に当たって、学校関係者から安全対策に対する悩みをヒアリングするとともに、共同で要件検討を行った。

 学校では、児童が在校しているか帰宅したかを把握することが重要な業務となっていた。登校時の異常は授業が始まる前に出席を取り、登校していない場合に教員が保護者に連絡を取って気がつく。保護者も、通学させている子供が無事登下校しているか不安になり、学校に問合せするケースが増加してきている。そのため、学校では保護者からの電話応対や児童の在校・帰宅を確認する業務に多くの時間を割かれていた。

 学校関係者の要望は以下のようなものであった。

教員:児童の教育以外の事務処理を削減し、出来るだけ教育に専念したい。
事務室:児童が校門を入退出した時刻を把握したい。
事務室:保護者への連絡と伝達結果把握を迅速に行いたい。
保護者:自分の子供が学校に着いたこと、出たことをリアルタイムに知りたい。

 このような要件から、開発に着手していた侵入監視システムは、少し方針を変えてRFIDタグによる児童の登下校時刻の正確な把握を目的とした「登下校お知らせサービス」として提供することとした。



3.「登下校お知らせサービス」の特長

 「登下校お知らせサービス」は以下のような特長がある。
  1. アクティブ型RFIDタグを使用しているため、リーダにかざしたり、接触させたりする必要がなく、児童に意識させることなく運用が可能。(ランドセルなどに入れたままで認識可能。)
  2. 「点」ではなく「面(空間)」で認識するので、一度に大勢の児童を認識可能。
  3. 児童が常時携帯することに配慮して、安全性、耐環境性を考慮したタグを選定。
    (微弱電波方式を採用、生活防水性能、電池寿命1年)
  4. RFIDタグを紛失してもICタグ本体には個人情報を保存していないので、紛失に伴う児童の個人情報の流出がない。タグ紛失や転校時には、管理者側で簡単にIDの書換え作業が行える。 
  5. 保護者は、Webとe-mailにより登下校情報を即座に把握することができる。
  6. 教職員は登下校時の状況を画像で確認できる。


4.「登下校お知らせサービス」のステム開発

 「登下校お知らせサービス」は、RFIDタグを児童に携帯させ、登下校の時刻と映像をリアルタイムで管理し、かつ保護者に対し、e-mailで通知するサービスである。本サービスの開発及び導入のポイントを以下に述べる。


(1)RFIDタグの選定

 RFIDタグは、無線によるデータ識別技術の総称で、非接触で人や物の個々の情報を識別することができる。RFIDタグによるシステムは、電子情報の記憶可能な「タグ」と情報の読取りや書込みを行う「リーダ」から構成される。「タグ」は、メモリから成るチップと小型アンテナを内蔵した「リーダ」と組み合わせて通信により情報交換を行う。

 現在、周波数が異なる様々なRFIDが実用化されており、用途によって使い分けられる(表1)。


表1 RFIDタグの種類
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拡大図]

 またRFIDタグは、パッシブ型とアクティブ型の二つに分類される。パッシブ型は、リーダ部からの電波によりタグ内で発電し、情報交換する仕組みである。アクティブ型は、タグ内に、電池を内蔵しており、タグより電波を発信しリーダに情報を送信する方法である。パッシブ型は、通信距離の関係からタグをリーダ部にかざして読みらせることが必要となるが、アクティブ型は通信距離が約10mと長く、動態でも一斉に認識できる(図1)。

 今回のシステムでは、タグを携帯する児童に対し、管理されていることを意識させることは教育上好ましくないという考えと、動きが予測できない児童を一斉に読み取るためには、アクティブ型が最適と判断し、採用した。


図1 パッシブ型とアクティブ型
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(2)アンテナの配置

 集団で登下校する児童を確実に認識させるためにアンテナの配置とRFIDタグの電波発射間隔が重要である。電波発射間隔は、短くするほど児童の動きをとらえやすくなるが、電池の消費を考えると限界がある。そこで1年間の電池寿命を条件に電波発射間隔を決定し、その条件で最適なアンテナ配置を検討した。

 児童が携帯するタグから発信される微弱電波は、児童の体の影響により、指向性が出てしまう。また、児童は、20〜30人同時に校門を通過することが考えられる。そのため、複数のアンテナとリーダで四方から受信し、影の部分ができないよう学校の校門の躯体形状を調査し、実証評価を行いアンテナの設置位置を決定した。

 アンテナ設置については、学校ごとに条件が異なるため、導入の前には、事前調査が必要である。 本システムでは、最大50個/秒の性能を保証するよう設計を行っている。


図2 校門へのアンテナ配置
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(3)保護者へのメール送信

 児童の登下校時の様子を観察すると、校門を通過後に戻ってくる子供、校門付近で遊んでいる子供など行動が予測できない。タグを認識する度に保護者へメールを送信すると重複して多数のメールを送ってしまうことも考えられる。

 そこで、いくつかの時間しきい値を設定してメール送信を抑止することとした。例えば、下校時はタグを校門で認識してから一定時間監視してから下校メールを配信する等の考慮を行った(図3)。また、メール受信が煩わしいと感じる保護者には、Web検索でも自分の子供のみ登下校時刻を検索できるようにしている。


図3 下校時間の確定とメール通知



5.「登下校お知らせサービス」の機能概要

 「登下校お知らせサービス」の全体システム構成を図4に示す。アクティブ型RFIDタグを持った児童が、校門を通過すると校門に設置したアンテナがタグの電波を受信し、学校に設置するベーシックキットを経由してその情報が管理サーバに送られる。管理サーバでタグIDと児童を対応づけ、その保護者にメールで通知する


図4 登下校お知らせサービスの全体構成
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拡大図]



図5 RFIDタグ外観
   
図6 ベーシックキット外観



(1)保護者への通知機能

 保護者は、通知用のe−mailアドレスを三つまで設定でき、Webで変更も自由に行える。迷惑メール対策で頻繁にアドレスの変更が発生した場合、学校側でタイムリにメンテナンスを行うのは困難である。そこで保護者での変更を可能にすることにより、学校側の負荷低減と保護者の個人情報管理を行えるようにした。学校では、各保護者のアドレス管理は行う必要がなく、メール不達時には、保護者で修正を行っていただく運用としている。


(2)学校での管理機能

 学校では、権限を与えられた教職員だけ図7のようなWeb画面で登校下校情報を確認することができる。万一、児童がタグを忘れてきても、教職員が登校時間を手入力することができ、保護者へe−mailも通知される。

 また、校門に設置されたカメラの映像を蓄積しており、タグの認識時刻と対応付けて、登下校時刻の数秒から数分前の映像を再生し、確認することができる。


図7 「登下校お知らせサービス」管理者用画面例
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(3)アウトソーシング

 「登下校お知らせサービス」のサーバは富士通システムセンタ内に構築し、ASP(Application Service Provider)サービスとして提供している。

 個人情報保護の観点から、学校、保護者の個人情報を管理することは、大きな業務負荷となっている。そこで高いセキュリティで守られた富士通システムセンタでのサービス提供により、学校側のシステム管理の負荷解消と、安全に学校や保護者の個人情報管理が行える環境を提供している。



6. 導入事例

 本システムは、平成16年9月より都内の私立小学校で導入頂き運用を開始した。


(1)導入の背景

 同校は、警備会社による有人警備体制や防犯カメラを導入するなど、学校への不審者侵入に対する安全対策を既に実践していた。しかしながら都内の私立小学校という特性から、電車やバスを使って遠方から通学する児童が多く、万一の登下校途中の事件・事故に対する迅速な対応が課題であり、現実に保護者から学校へ下校確認の電話問い合わせも多くあった。同校では、児童が学校にいるかいないかを迅速に把握することが、学校の安全対策の最低限の義務と考え、本システムを導入した。


(2)システム概要

 システム構成は5項で示した通りであるが、サーバは同校に設置し運用を行っている。6基のアンテナと3台のリーダで校門を通過する児童を確実に認識し、登下校時刻を正確に管理している。なお本システムの導入に当たっては、事前に学校から保護者にシステムを説明し、RFIDタグの携帯とe−mailアドレスの登録について了承を得ている。

 また、同校では、タグを携帯していない部外者が校門を通過すると、警報を発する侵入者感知支援機能も導入している。校門に設置した赤外線センサーが通過する人を感知し、タグを携帯していない場合は不審者として校内にアラームを通報するものです。(図8)


図8 侵入者感知支援システム
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(3)導入効果

 同校では、教室で点呼をとるまで児童の在籍確認ができなかったが、本システムの導入により登校と同時に把握することができる。また、保護者にも即時に登下校時刻を通知する事で学校への問い合わせもなくなった。教員がこれまで学期毎に行ってきた出欠日数の集計事務も40時間程度削減できたと評価している。

 保護者も子供の登下を即時にメールが通知されることで、無事に学校についたことの安心感を得る事ができる。また、これまで子供の下校時間がわからないので、安易に留守にできないと考えていた保護者には、下校メールは子供の帰宅時間を推測できるため、大変好評であった。



7. むすび

 「登下校お知らせサービス」は、児童の登下校を即時に把握し、保護者に情報提供する仕組みとして、いくつかの小学校で運用中である。また当社は、緊急時の円滑な情報伝達の仕組みとして「学校連絡網サービス」をASPサービスとして提供しており、多くの学校で導入頂いた。今後もITで守る安心安全ソリューションを開発・提案していきたい。


参考文献

  1. 安全対策ソリューションご紹介サイト
    http://fenics.fujitsu.com/services/os/security/index.html
  2. 登下校お知らせサービスご紹介サイト
    http://fenics.fujitsu.com/services/os/security/service07.html
  3. 警察庁発表資料:"学校における安全対策について" 平成17年2月16日
  4. 堀口 淳、芝藤 和久、太田 健一:雑誌FUJITSU Vol 57 No2 2006-3月号
    "ITで守る学校向け安心・安全ソリューション"
  5. 佐藤 稔、石井 輝義:情報処理教育研修財団 機関紙FINIPED No.5 2004
    "児童一人ひとりの登下校を確認する安全対策システム"

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