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7.自分を笑う

 次に、自分を笑うということですが、これはとても難しいことです。笑いの中で何が一番難しいかと言うと、自分を笑うこと が一番難しいです。自分の失敗や欠点などを人に笑われたら恥ずかしい、なかなか笑えないと思います。最近、失敗を対象にし て、失敗学会という失敗の学会が設立されました。面白い時代になったな、と思います。堂々と失敗が出来るというのは、これ も時代の成せる業でしょう。今までは失敗を恐れてきました。ですから教育でも、笑われる人間になるな、と指導を受けて来ま した。私も、笑われたらいけない、笑われたらいけない、と歯を食いしばって頑張る、そういう教育を受けてきました。ですか ら、自分の失敗を笑われたら大恥かかなくてはならない。ですから、笑われまい、笑われまいと努めてきました。
 そんな中で、自分自身を笑うことが出来るようになるのは、私は大変難しいことだと思います。また大阪の話になりますが、 大阪の人というのは笑いを取る時に敢えて自分の失敗を披露する、「こんな失敗したんや、ワハハ」と自分の失敗を笑いにして しまうのです。自分の失敗したことをわざわざ言わなくてもよいではないかと思う人もあるかと思いますが、大阪の人は割とそ ういうところがあります。それで失敗から早く立ち上がることにつなげていきます。これも大阪の商売人の生き方とつながると ころがあると思います。商売と言うのは本当に不景気に陥りますと厳しいです。小さな商いほど厳しく、店をたたまないといけ ない、借金を返せない、そういう中でも早く立ち上がらなければならない、ということからの生活の知恵かもしれません。笑って、 失敗している自分自身から立ち上がる、という知恵です。
 言葉では、大阪には失敗しますと「笑ったとくなはれ」とか、あるいは、失敗してごめんなさいと謝らなければならないところ で「勘弁したっとくなはれ」などという言いまわしがあります。つまり失敗した自分がいるのだけれども、早くその失敗した自分 を自分から切り離す、という言い回しです。例えば「笑ったとくなはれ」では、自分のことを早く切り離し、横に置いて「こいつ を笑ったっとくなはれ」みたいな言い方をします。そうすることで、スッと抜けてしまうのです。それはやはり早く立ち上がる知 恵なのではないかと思うのです。このような言い方は他にもあります。まけるまけない、値切る値切らない、これらを大阪の人は 自分のことなのに「まけたったらどないだ」と、まるで誰か他人のことを言ってるかのような言い方をしたりします。


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