SS研：研究教育2002-1(NIME)

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　さて、日本の高等教育機関でもようやく単位化が可能になったe-Learningであるが、将来的には、アメリカを後追いするのだろうか。あるいは、日本はアメリカとは異なったe-Learningの形態を持つことになるのだろうか。アメリカの事例から得られるインプリケーションを何点かにまとめよう。
　まず第1は、e-Learningの需要はどこにあるのかという問題である。学部学生が主体の高等教育機関であり、なお、18歳人口は減少しており、かわって、社会人大学院生の規模は小さい。有職成人の職業教育・訓練的なe-Learningを行うためには、あまりにもマーケットが小さいように思われる。
　第2は、供給側の問題として、教員のコース作成を支援するメディア・スペシャリスト、それも、とくにインストラクショナル・デザイナーの不在は、今後のe-Learningの伸張に大きく関わっている。すべてを1人で行える教員は限られている。質の高いコースの作成のためには、メディア・スペシャリストの養成や大学への配置が必要となるだろう。
　第3は、アメリカでも問題になったコスト負担である。営利大学が存在しない日本では、高等教育機関がe-Learningを実施するとき、そのコストは誰かが負担せねばならない。政府か大学自身か、あるいは、受益者負担の原則で学生の授業料に上乗せをするか、または、企業の製品を利用することと引き換えに企業に負担を求める方法もあるかもしれない。いずれにせよ、政府にとっては公共政策の課題となり、大学にとっては経営の判断が必要となる。きわめて市場的性格の強いアメリカの高等教育においても、e-Learningで収益をあげているのは、ごく一握りだけであることは忘れてはならない。
　第4は、教育の質の問題である。アメリカの研究においては、質の高いe-Learningコースとは、学習過程における相互作用の頻度が高いことであった。したがって、コースを作成する場合、教室の講義を提供するという考え方から、学習者が自学自習する教材の中にいかに双方向的な機能を持たせる工夫をするかということになろう。教育から学習への発想の転換が必要となってくる。
　アメリカの事例にインプリケーションを求めるならば、上記のような課題が考えられる。これらの課題を解決する方策を考察するか、あるいは、日本の条件を考慮して、アメリカ的なe-Learningとは異なる形態を模索していくのか、わが国の高等教育は岐路に立たされている。

[引用文献]

¹ The Campus Computing Project (1999) The 1999 National Survey of Information Technology in US Higher Education, (2000) The 2000 National Survey of Information Technology in US Higher Education, (2001) The 2001 National Survey of Information Technology in US Higher Education. {http://www.campuscomputing.net/}

² The Campus Computing Project (2001) op. cit

³ International Data Cooperation (1999) Online Distance Learning in Higher Education, 1998-2002.

⁴ National Center for Education Statistics (1997) Distance Education in Higher Education Institutions. {http://www.nces.ed.gov/pubs98/distance/98062.pdf}, (1999) Distance Education at Postsecondary Education Institutions.{http://www.nces.ed.gov/pubs2000/grtlyspring/5post/95-7/html},

⁵ Stocks, P. et al. (2000) After the Big Ban: Higher Education e-Learning Markets get set to Consolidate, Report Oct. 2000. eduventures.com

⁶ National Center for Education Statistics (1997)Fall Enrollment in Postsecondary institutions 1996,{http://nces.ed.gov/pubs99/1999239.pdf}. (2001)Postsecondary Institutions in the United States: Fall 2000 and Degrees and Other Awards Conferred: 1999-2000.{http://nces.ed.gov/pubs2002/2002156.pdf}

⁷ 吉田　文（2001）「企業の大学化と大学の企業化?オンライン教育をめぐる市場化の嵐?」『コンピュータ＆エデュケーション』 Vol.10、pp. 9-13.

⁸ 吉田　文（2001）「ビジネス化を巡って企業と大学が攻防」『カレッジ・マネジメント』Vol. 111、リクルート社、pp. 55-59.

⁹ 吉田　前掲論文。

¹⁰ 吉田　文（2002）「e-Learningを支える新たなスペシャリストの登場」『カレッジ・マネジメント』Vol. 115、リクルート社、pp. 62-66.

¹¹ 吉田　文（2001）「やはりでてきたバーチャル版"ニセ学位"」『カレッジ・マネジメント』Vol. 107、リクルート社、pp. 52-56.

¹² The eight regional accrediting commissions (2001)Statement of Commitment by the Regional Accrediting Commissions for the Evaluation of Electronically Offered Degree and Certificate Programs, Best Practices For Electronically Offered Degree and Certificate Programs, the Western Interstate Commission for Higher Education.{http://www.wiche.edu/telecom/Article1.htm}.

¹³ 吉田　文（2001）「バーチャル・ユニバーシティの登場と展開：高等教育システムの観点から」『教育メディア科学-メディア教育を科学する-』オーム社、pp. 236-248.

¹⁴ The Institute of Higher Education Policy (2000)Quality on the Line: Benchmarks for Success in Internet-based Distance Education.{http://www.ihep.com/PUB.htm}

¹⁵ Thomas Russell,No Significant Difference Phenomenon.http://teleeducation.nb.ca/nosignificantdifference/}.

¹⁶ The Institute for Higher Education Policy (1999) What's the Difference?: A Review of Contemporary Research on the Effectiveness of Distance Learning in Higher Education . {http://www.ihep.com}.

¹⁷ 吉田　文（2001）「対面教育と比較されるオンライン教育の効果」『カレッジ・マネジメント』Vol. 110、リクルート社、pp. 58-62.

¹⁸ 吉田　文（2002）「アメリカのe-learning事情」『IDE・現代の高等教育』No.410、pp. 22-26.

¹⁹ 吉田　文（2001）「オンライン教育は収支が見合うか」『カレッジ・マネジメント』Vol. 109、リクルート社、pp. 50-59.

²⁰ The Western Interstate Commission for Higher Education, (1999)Policy in Transition: Working Toward Systematic Change in Higher Education in the West.

²¹ メディア教育開発センター（2001）『全国高等教育機関におけるマルチメディア利用実態調査』{http://www.nime.ac.jp/index_ie.html}.

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