News Letter HPCミーティング2001 〜Q&A〜
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「地球温暖化問題の現状」に対するQ&A
 
1.会場にて
 
Q : 2つお聞きしたいと思います。 1つは、CO2濃度と温度の関係が非常にリニアな関係と言いますか、non-linearでは無く、わりと1対1みたいな関係の様に見えました。 先日TVで見たのですが、深層海流とか言うのがあり、ある点を越えるとdrasticに海流の状況が変わって非常に予想できない事になるみたいな感じに言われていたのですが、そういう様な事というのは既に計算に入っているのでしょうか?
A : [電力中央研究所 丸山]
モデルでは考慮されています。 このスライド(スライド2-3)は、深層海流、言いかえると熱塩循環の停止の可能性を示したものですが、横軸が非常に長いところに注意して頂きたいと思います。 左のグラフの横軸は500年、右のグラフの横軸は1000年です。 この結果は、簡単なモデルによる予測であって、先程の結合モデルでは予測が困難な現象、つまり時間スケールが非常に長い現象だということをまず念頭に置いてください。 このスライド(スライド2-3)では、650F濃度シナリオ、つまり2%ずつ大気中CO2濃度が増加して650ppmで安定化し、あとは濃度一定とするシナリオですと、熱塩循環が停止してしまうという予測を示しています。 もう1つは、年率1%で濃度が増加し、750ppmで安定化する濃度シナリオでも熱塩循環が停止する可能性を示しています。
ところで、熱塩循環という現象は、グリーンランド周辺で海水が沈み込む現象です。 なぜ沈み込むのかと言うと、海水の密度変化が起こっているからです。 つまり、海氷が両極で発生・発達すると、冷たく塩分濃度の高い海水ができて、これが周辺の海水を連行しつつ沈み込むという現象が生じます。 このスライドは、前述した2つの濃度シナリオの場合、温暖化で海氷が融解して消滅し、密度変化も生じにくくなり、熱塩循環が停止するという予測を示しています。

一方、大気・海洋結合モデルでは、どう予測しているかと言うと、こういう計算(スライド2-10)になります。 つまり、大気モデルと海洋モデルを結合します。
海洋モデルの水平解像度は約200km、鉛直方向は45層あります。 ご質問の回答ですけれども、このスライド(スライド2-15)は、大気・海洋結合モデルによる予測結果で、2倍のCO2時における海洋表層の海流を示しています。 赤いところが海流の流速が増加、青いところが減少するところです。 水深3,035.7mでは、この深さに存在するグリーンランドから南下する流れが青、つまり減少することを示しています。 この結果は、大気・海洋結合モデルで70年間計算した結果ですが、このまま計算を継続すると、沈み込む流れが弱まり、南下流が衰弱して、結果として表層の流れだけになる、という傾向は言えるかもしれません。 しかし、今回は3倍のCO2に達する115年間分しか予測計算は実施していません。 115年間の結果では、熱塩循環は停止していません。

しかしながら、先程の簡単なモデルによる計算は300〜400年位の時間スケールですので、大気・海洋結合モデルにより同程度の長期間の予測計算を行うと、本当に熱塩循環が止まってしまうかも知れません。 しかし、その場合はモデルの積分誤差等の問題も生じますので、現時点ではまだよくわからないということです。 ただし、定性的には、どのような結合モデルでも、温暖化すると熱塩循環が衰退するという傾向はあるようです。 このため、ヨーロッパの研究機関では、グリーンランド周辺に海洋観測網を設けて、モニタリングを実施するという研究計画が議論されています。
 
Q : あともう1つなのですが、100年という非常に長いレベルの計算なのですが、これも他のところで聞いたことで記憶が曖昧なのですが、100年レベルで言うと、非常に地磁気が減少していく(ほとんどゼロに近くなる)という話を聞いたのですが、そういう地磁気の影響というのは気候に対して何か影響とかあるのでしょか?
A : 地磁気の気候への影響は検討しておりませんので分かりません。 長い時間スケールで我々が一番気にしているのは、氷河期の問題です。 我々の研究所では、高レベル地層処分研究も実施しているのですが、その場合大体1万年後までを想定しています。 温暖化問題では、高々数100年程度の時間スケールです。 1万年後ですと、氷河期を前提に検討し、海面も150m位下がるという前提で検討することになります。 つまり100年後と1万年後、その間の9,900年がどうなるのか? 地球シミュレータのような高速計算機があれば、数値誤差の少ないモデルによって、予測計算を行うことが可能になるかも知れません。 つまり、太陽の公転を考えた非常に時間スケールの長いミランコビッチサイクルと人為的なCO2排出の複合影響によって、はたして氷河期が早まるのか、あるいは遅くなるのか、という興味ある科学研究が可能かもしれません。 しかし、モデルの方の精度がそこまで行っていない、というところです。
 
Q : 人類が生まれる前から地球の変動は確実にあり、プラスマイナス10度くらいの変動があったことは観測的に分かっていて、例えばボンッと噴火すると気候が全部変わってしまったりします。 それから我々天文学者が気になるのは、北半球の夏が遠日点に近くなってきていて、北半球の夏の日射量が減る、という様なことがどう影響するのか、などです。 そういうのが氷河期と関係しているのではないかという議論があるかと思います。 そういう事が今の話に非常に近いと思いますが、人類のことは一生懸命やるとしても火山の噴火などは相当なレベルの物が出る可能性があって、という様なことも含めてどの様に今後、今の話と100年から1万年をつなげるという話だと思うのですが、今後どう考えていけば良いのでしょうか。
A : 我々は、地球温暖化の問題は一種の環境問題、つまり、人間活動の問題と考えています。 化石燃料の消費によって将来温暖化が発生するのであれば、人類は回避行動を取るべきだ、と思うわけです。 つまり、温暖化問題では、予測通りに気候変化が生ずることは、実は期待していないことになります。 人類は、将来、排出量を減らすことも出来ますし、その場合、気候変化は抑制できるかもしれません。
つまり、人間活動が一万年後でも現状と同程度であれば、火山爆発の可能性やミランコビッチサイクルのような純科学的な問題が大変重要になります。しかし、温暖化問題では、人間がどう行動するかが重要で、常に事前に温暖化予測を行い、その悪い地球環境の状態を人類が回避できるように研究結果を活かしていってもらえれば、と考えています。
 
Q : 2点あります。 たぶん計算結果と平均気温の観測と比較されているのだと思います。 これは私の10年位前の経験なのですが、ある昆虫学者と大阪近郊を調査で歩いていた時にある外来種の蝶、これは元々九州辺りに海外から入ってきて住み着いた移入種のアゲハチョウですが、これが見つかった。 一番最初に見つかってから10年位でそこに来ているといいます。 その種の蝶が実際に生きて活動するためにはある程度気温が高くないと住みつけない、そうすると、10年位かかって少しずつ北上して、生活圏を広げていっていることになります。 今はどこまで生息範囲を広げているのか知りませんけれども、そういう例を見ると、計算結果は気象観測だけでなく生態学的データとも突き合わせたりする必要があるのではないかと思います。 これが最初のコメントというか質問です。
もう1点は、プログラムのPortingに非常に困難なところがある、と言われたと思いますが、もし差し支えなければ、どういう部分がporting上困難だったのかお教えいただけたらと思います。 その2点です。
A : [富士通)コンピ事本 三浦]
2点目の質問を先に、かい摘んでお答えします。 今回電力中央研究所殿のVPP5000/32に移植する計画であるNCARのCSM(Climate System Model)コードは、今まではCrayの上で開発されてきたモデルですから、ベクトル計算機に対応しています。 現在、NCARで第2世代モデルCSM-2を開発中ですが、NCARの計算機が今度IBMのスカラー計算機SPに変わってしまい、どうも今までとコーディングスタイルの連続性がなくなってしまうという話があります。 もちろん富士通アメリカのスタッフと日本の富士通のSEも含めて移殖の検討に着手していますが、そういう新しい手法を取り入れているという問題があります。
また先程、カップラという言葉がスライドの中に出て来ましたけれども、要するに、大気モデル、海洋モデル等をつなぐ部分で、実際には境界面のinterpolationの計算をする訳です。 その部分がベクトル計算機だと1台で充分間に合う位の計算量なのが、スカラ計算機では1台では足りず、並列化が必要となります。 新しいカップラを開発する際に新しいソフトエンジニアリング的手法をも取り入れており、従来のモデルとはその辺りでも連続性が無い、という問題もあります。 要するにどういうことかと言いますと手間がかかる、ということで、本質的な問題ではありません。
A : [電力中央研究所 丸山]
1番目の質問ですが、どうお答えしたら良いか分からないのですが、ともかく最近の全球気温上昇というのは、(スライド1-16)観測値を見てみると、1940年前後の第2次世界大戦の頃に気温が少し高くて、その後一度下がって、1970年位からほぼ直線的に上昇してきています。 つまり、過去1980年から2000年まで、温度上昇が急激であったということです。 現在のモデルの解像度が十分かどうかはわかりませんが、質問のような蝶の移動をモデル予測結果と比較すると面白いかもしれません。 その検討が意味のある段階まで、予測モデルが進歩してきています。 いずれにしても、過去20年程度の温度上昇というのは非常に急激で、その変化を気候モデルは再現出来る様になってきました。 気候モデルの信頼性は不充分という批判が今でも根強くありますが、最近のIPCC等では、この過去20年間の気温上昇は、気候モデルでCO2を一定とした再現計算では説明出来ない、つまり人為的な影響である、ということをかなりはっきり断定するようになっています。 ただし、1940年前後の気温上昇をモデルでは再現できていませんので、モデルの信頼性については、半分程度は疑ってみないといけないと思います。
 

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