ペタスケールあるいはエクサスケールの計算性能の実現には、京コンピュータに代表されるように、ノード内多コア、大規模ノード数の並列計算機が必要となる。そのような計算機上で効率良く動作するアプリケーションを開発することは、アプリケーション開発者への負担が非常に大きい。そのため、プロセス並列 (ノード間) とスレッド並列 (ノード内) を組み合わせた、ハイブリッド並列の数値計算ライブラリに注目が集まっている。
一方で、ハイブリッド並列の数値計算ライブラリは、非常に限られたものしか開発されていないのが現状であり、その理由の一つは、プロセス間のデータ配置等、計算機のシステム構成やアプリケーションの要件に整合させなければならないためである。
本WGでは、ペタスケール時代に必要なハイブリッド並列数値計算ライブラリの開発を目的として、代表的なアプリケーション毎のライブラリに対する要件を明らかにするとともに、重要性の高い機能あるいはライブラリを選択し、新規開発あるいはハイブリッド並列化等の最適化を行う。ターゲット計算機は、当面、代表的ペタスケール計算機としての京コンピュータと、デファクトスタンダードとしてのx86クラスタとする。なお、「エクサスケール技術検討WG」での検討内容を参考にしながら、次々世代のアーキテクチャにも柔軟に適合できる数値計算ライブラリのあるべき姿を指向する。ターゲットプログラミングモデルは、ハイブリッド並列 (MPI+OpenMP/自動スレッド並列) とする。
また、幅広いアプリケーション要件の入手と成果 (開発したライブラリ等) の普及・活用のため、本WGは、ペタスケール時代の数学ライブラリを開発することを目的としたグローバルな活動であるOpen Petascale Libraries Network (OPLN) と連携し、OPLNの主催するワークショップへの参加や、OPLNのウェブサイトの活用による情報発信を推進する。
【OPLNについて】
OPLNは、ペタスケール時代の数学ライブラリを開発することを目的とした、関連する大学、研究所等が参加するグローバルな取り組みである (事務局を、富士通と富士通欧州研究所が担当)。ターゲットシステムは京コンピュータとx86クラスタ、ターゲットプログラミングモデルをハイブリッド並列 (MPI+スレッド並列) として活動。当初の参加予定メンバは、理研 (日本)、NAG社 (英国)、インペリアル大 (英国)、オックスフォード大 (英国)、テネシー大 (米国)、ダレスバリー研 (英国)等。第一回ワークショップを、2010年11月14日 (於:ニューオリンズ) に開催した。
代表的アプリケーションとライブラリについて、機能、並列化手法、データ配置等の分析・整理を行う。具体的には、重点を置くアプリケーション分野を定め (例えば、計算化学)、各分野に知見のあるWGメンバを中心に議論を重ね、現在の実装について整理するとともに、ターゲット計算機の特徴とアプリケーションの開発状況等を踏まえて、実現すべきライブラリとその要件を明確にする。次に、要件に基づくライブラリの開発・最適化を行うとともに、アプリケーションの観点でテスト・評価を行い、ペタスケール計算機上のアプリケーションのより効率的実行に必要な課題を明確にする。